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赤い瞳の冥府の王は白き乙女を手放せない  作者: なかな


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人型の妖魔



 冬賀さんの事務所は山手線の「目白駅」から数分のところにある。池袋の隣の駅だから、獣の妖魔を倒して直ぐに運び込まれたのも納得だ。


 私の住むマンションの最寄り駅からだと、1度電車の乗り換えをしなくてはならず、遠くはないのに地味にめんどい。


 昨日、冬賀さんが見せてくれた写真に写る学校は、私の使う沿線に最寄駅のある大学らしい。


 人が集まる場所に妖魔が潜むのはよくあるけれど、あれ程までに大きくなってしまっているなら、早めに倒してしまいたい。

 次の被害者が出ると分かっているのに放っては置けないから。


 冬賀さんはあの依頼を受けてくれるのだろうか?

 意外に繊細らしい冬賀さんは、あの背の高い妖魔の討伐には気が重そうだったけど、もし受けるなら私も全力で取り組みたい。


 妖魔を倒せたなら取り込まれた魂は解放されるし、肉体を失っていてもエンマに次の世に送ってもらえるから。

 

 エンマは怒りっぽいけど、いつも現世の人を気にかけている。私もそれに助けられた1人だし、そんなエンマの役に立つならやりがいもある。


「よしっ」


 終点の池袋駅で開かれたドアから、全ての乗客が押し出されるようにホームへなだれ込んで行く。私もその波に乗りながら改札を潜り、沿線を乗り継いだ。



 ◇




 「おっはようございます社長っ!」


 まだ冬とはいえ、春目前の2月。

 私は明るい色合いの服が着たくて、真新しいペールピンクの薄手ニットを着てきた。先月までしていた短期の婦人服販売で社割がきいたので、明るい色合いの服を何枚か購入してしまった。


 エンマがくれた「礼」で気と財布の紐が緩んだと言っても過言ではない。

 販売の仕事は誘惑が多かったよね。



「おはよう清野。また今日もキラキラしてんな」


 冬賀さんの言うキラキラは、決して美しい的な褒め言葉では無く、私のヘアアクセや薄手ニットの上から付けたネックレスの事を言っている。


 冬賀さんはいつも真っ黒な服装をしているから、私は逆に被らないように黒い服は着ない方針だ。


「社長は今日も全身真っ黒ですね」


 気難しそうに見えて意外に気安い冬賀さんだから、私の言葉もちょっと軽くなる。私のからかうような言い方に、少し驚く冬賀さんを見て、思わず笑いが込み上げる。


「真っ黒、か。確かに黒以外の服は余り持っていないな」


「柄物とか着ないんですか?チェック柄とか?」


「……落ち着かないな。黒か白、以上だ」


「もの凄くストイックな選び方ですね。青とか緑とか着ないんですか?」


「分からん。他の色を選ぼうと思わなくなった。色を着る気分が分からない」


 人の取捨選択って様々な理由があるけれど、もしかしたら冬賀さんには色を着たくない理由があるのかも知れない。ずっと喪に服したくなるような何かが。

 亡くなった、妹の深月さんの事が頭をかすめる。


「護符を書く事もあるからな、俺だって白い服くらいは着るが……。あぁ清野、お前は妖魔を狩る時もその服装なのか?」


「そうですけど……。何か問題でも?」

 

「いや、何か余りにも普通で。なんかこう、装束みたいなのは着ないのか?」


「私にコスプレをご所望ですか?私は特に神職では無いですし、ネット通販で買えるものしか容易出来ませんよ?」


「いやいやいやいや、違うっ。なんかこう、俺の中では純白の魂を持つ人間っていうのは、神聖な何かというか、形でも押し付けられるのかと」


「あっ、分かりました。あれですね、聖女みたいな服って事ですよね。あっち方面の服は着てみたいですけど、よりコスプレ色強くなりますよね。社長の趣味じゃなく、仕事の演出に必要なら着てみても……」


「だぁーっ、清野っ!お前うるさいな。黙ってれば綺麗なんだから、俺をからかうなっ!」


 あれ?綺麗とか言われた??

 冬賀さんのそういう所、嫌いじゃないです。


「すいません。調子に乗ってあれこれ言っちゃうタイプでして。気をつけますね」

 

「あぁ、おれも余計な事を聞いた。清野が悪い訳じゃない」


 冬賀さんは口数は少なめだけど、ちゃんと言葉で思いを伝えてくれる人だ。

 相手の気持ちを考えられるからこそ、その言葉が出てくるのだと思う。


 私も冬賀さんには何故か自然と謝れているし、今後、上司と部下として上手くやっていける気がしている。

 

 あれ?そういえば、私はエンマに自然と謝れた事なんてあったかな??



 ◇



「清野っ、すまん。今日の午後に来客があるから、商談スペースを片付けといてくれっ」


 ノートパソコンに向き合いメールチェックをしていた冬賀さんが、少し慌てた様子で声を掛けてきた。

 私はと言えば、今までの依頼に関わる品々をデジタル資料にするべく写真撮りをしていた所だ。

 大きめの茶封筒数個に、ざっくりと押し入れらた書類や写真類、その他メモ類や名刺など。冬賀さんが面倒くさがって放置しているのが丸分かりだった。


 デジタルにすれば場所も取らないし、後々見返すにも楽だろうと、空いた時間に少しずつ作業を進めていたのだが。


「商談スペース?そんなのありましたっけ?」


「……入り口の左手側だ。テーブル置いてるだろ?」


「あれって、物置じゃ?」


「商談スペースだ」



 ◇





「ダンボールの中身、ほぼ空じゃないですか?何かに使うんですか?」


「いや、予定は無い」


「冬賀さん、よく1人で事務所やってこられましたよね。今まで片付けとかどうしてたんですか?」


「お前、口が悪いな。曲がりなりにも俺はここの社長だろ?必要があれば俺だって片付けくらい出来る。ほら、今だってやってるだろ?」


 棚で間仕切りされてダンボール箱だらけだった部屋は、実は商談スペースだったらしい。


 大中小と様々なサイズの箱を次々に解体していくと、確かにテーブルと椅子が揃った、それらしい場所になってきた。

 

「片付いたのに何か殺風景ですよね。観葉植物とか置きません?ちょっと大きめの鉢植えとか」


「あぁ、そうだな。それは良さそうだな」


「あと、絵とか?壁が寂しいんですよね。あ、マガジンラックとか置きます?表紙を見せるように並べると、雰囲気違いますよ」


「雰囲気……。いるのかそれ?」


「後はですねぇ、床です。明るい色のタイルカーペットを敷きましょう。この床、何か冷たい感じがするので」


「床も変えなきゃだめか?……って、おいっ!ここは清野の部屋じゃないだろ?!そこまでいるか??」

 

「はいっ?!私の部屋だったらもっと可愛くしますけど」


「やっぱりお前は口が悪いし、一言多いな。そんなんだと、言いたいことがあったとしても伝わらねーぞ。話し合いたくても喧嘩になる」


 ぎくりっ。心臓が跳ねた。

 会いたくても会えないエンマの顔が頭をよぎる。


「そ、それはそうかもしれないですね。ご忠告ありがとうございます。……口が過ぎてしまい、すいません」


 ほら、やっぱり冬賀さん相手になら直ぐに誤れる。こんな風にエンマにも謝れたのなら、今もエンマと普通に話が出来ていたのかな?


「いや。清野のハッキリ言ってくれる所は、俺としても助かる。ただクライアントは色んな人が居るからな。その辺はトラブルにならないようセーブしてくれ」


「はい、承知しました。あの、今日お会いするクライアントって、どのような方なのですか?」


「あぁ、まだ言って無かったか。あのデカい妖魔の写真の送り主だ。さっき、今日の午後ならここに来られるってメールが入った」

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