世界からの招待状と、摩天楼の影
アメリカ合衆国、ニューヨーク。
イースト川沿いにそびえ立つ国連本部ビルの一室で、安全保障理事会の緊急会合が極秘裏に開かれていた。
円卓を囲むのは、アメリカ、中国、ロシアをはじめとする常任理事国(P5)の首脳陣。そして、その対面にたった一人で座らされているのは、日本国政府の特命全権大使として送り込まれたS.O.D.U.最高幹部、天城少将であった。
「――以上が、日本国がEEZ内外で行ってきた『過剰にして不透明な軍事行動』の証拠である。我が国を含む国際社会は、これ以上の無法を容認できない」
アメリカの大統領補佐官が、重々しい口調で制裁決議案を読み上げた。中国やロシアの代表も、同調するように冷ややかな笑みを浮かべている。
彼らは内心、勝利を確信していた。太平洋の死闘で、邪魔な日本の盾『ずいうん』は確実に海の底へ沈めたのだ。牙を抜かれた日本など、もはやこのテーブルの上で料理されるだけの哀れな敗戦国に過ぎない、と。
だが、糾弾の矢面に立たされているはずの天城少将は、仕立ての良いスーツのまま深く椅子に腰掛け、つまらなそうに手元の時計を眺めていた。
「……私の話を聞いているのか、日本代表」
「ええ、聞いておりますよ。ただ、少々退屈な『おとぎ話』でしたのでね」
「なんだと?」
「大国同士で裏で手を結び、我が国へ国籍不明の暗殺艦隊を送り込んでおきながら、よくもまあ『国際社会の平和』などと寝言が言えたものだと、感心していたのです」
議場がざわめいた。証拠などないはずだ。敵の首脳陣が天城を怒鳴りつけようと身を乗り出した、その時だった。
バンッ!!
会議室の重厚な扉が乱暴に開き、顔面を蒼白にしたアメリカ軍の制服組トップが、大統領のもとへ転がり込んできた。
「だ、大統領! 緊急事態です! ニューヨーク湾に……国籍不明の巨大艦隊が侵入!!」
「馬鹿なことを言うな! 東海岸の防空網と音響ソナーは何をしていた!」
「完全なステルス状態でした! 自由の女神を通過し、現在、マンハッタン沖のイースト川へ直接進入中! 先頭を往く艦のIFF(敵味方識別装置)は……に、日本の……」
将官の声が震え、言葉を失う。
大統領が信じられないという顔で、議場の巨大な防弾ガラス窓へ駆け寄った。他の各国の代表たちも、我先にと窓際に群がる。
朝靄に包まれたニューヨーク港。
摩天楼のすぐ目の前、海面を滑るように現れたのは、漆黒のピラミッドのような威容を誇る巨大ステルス艦『あらたえ』。そして、ブクブクと海水を沸騰させながら暗黒の深海から浮上した超弩級原潜『しんえん』であった。
その後方には、装甲の各所に痛々しい修復の跡を残しながらも、冷徹なレールガンの砲身をマンハッタンのビル群へ向ける戦略打撃護衛艦『てんかい』の姿。
しかし、各国の首脳陣を最も絶望させたのは、その艦隊の先頭に君臨する「異形」であった。
「……あり得ない。あれは、太平洋で沈んだはずだ……!」
中国の代表が、窓ガラスにへばりつきながら呻いた。
それは、回収されたコアと敵から奪った最新技術を継ぎ接ぎされ、わずかな期間で強引な魔改造を施された多目的防空護衛艦『ずいうん』の姿だった。
かつての洗練されたシルエットではない。全身に規格外の追加装甲と新型兵装をハリネズミのように纏ったその姿は、海を這い上がってきた復讐の悪鬼のごとく、禍々しいオーラを放っていた。艦橋には、星野の遺志を継いだ大山が立ち、ニューヨークの街を静かに見下ろしている。
「な、なぜ……なぜ奴らがここにいる!」
「迎撃だ! 沿岸警備隊と空軍を呼べ!!」
「駄目です! ここで戦闘になれば、マンハッタンは……ウォール街ごと消滅します!」
世界経済の中心地で、核兵器に匹敵する化け物艦隊に人質を取られたに等しい状況。大国のトップたちは、自分たちが完全に「詰み(チェックメイト)」の状況に置かれたことを悟った。
パニックに陥る議場の中で、天城少将だけがゆっくりと立ち上がり、スーツの皺を払った。
「お騒がせして申し訳ない。どうやら、我が日本国代表団の『平和的な護衛』が到着したようです」
天城は、恐怖に顔を歪める大国の首脳たちを見回し、氷のように冷酷な、しかし圧倒的な覇者の笑みを浮かべた。
「さて、つまらないおとぎ話は終わりにしましょう。我々が手に入れた『貴国らの暗殺艦隊のブラックボックス』を公開されたくなければ……ここからは、我々が提示する『新たな世界のルール』について、真剣に話し合おうではありませんか。」




