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深白の法陣、漆黒の鉄槌

満身創痍の多目的防空護衛艦『ずいうん』をかばい、太平洋の荒波に単艦で踏みとどまる戦略打撃護衛艦『てんかい』。その艦体は、全方位から浴びせられる砲撃と対艦ミサイルの波状攻撃により、限界を迎えつつあった。

『ずいうん』の凄絶な自己犠牲によって最悪の直撃こそ免れていたものの、装甲は各所で拉げ、無数の火花が濃霧の中に飛び散っている。


敵の幽霊艦隊ゴースト・フリートは、S.O.D.U.の無敵神話が完全に崩壊しかけているのを確信していた。残存する6隻の国籍不明駆逐艦が一斉に艦首を向け、トドメとなる数十発の対艦ミサイルをVLS(垂直発射システム)から解き放つ。白灰色の霧の中に、無数の死の航跡が描き出された。


その時だった。

『てんかい』のCIC(戦闘指揮所)のコンソールに、けたたましいアラームが鳴り響いた。


「レーダーに緊急目標多数! 霧の向こうから超高速で接近する反応あり!」

「速度は……40ノット(約74KM/H)を超えています! 信じられない、この荒天の海域で激しい波を突き抜けてくるというのか!?」


乗組員たちが目を見張る中、濃霧の壁が物理的に激しく引き裂かれた。

現れたのは、幾何学的で異様な三胴船トリマランの形状をした、インデペンデンス級をベースとする即応型沿岸警備艦『あすか』と『はやて』の2隻だった。海面を飛ぶような圧倒的な戦速で突入してきた2隻は、爆発的な機動力で『てんかい』と敵ミサイル群の間に強引に割り込む。


直後、異形の上部構造物に設置されたCIWS(近接武器システム)と、高出力迎撃レーザーが一斉に火を噴いた。

超高速で展開される光線と対空弾幕の嵐が、迫りくる対艦ミサイル群を次々と空中で叩き落としていく。「超高速の防壁」となった即応部隊の乱入により、敵艦隊の放った完璧なはずの飽和攻撃は、瞬時にして無力化された。


「……何だと!? どこから現れた!」

敵のゴースト・フリートが動揺し、陣形を大きく乱したその瞬間、インデペンデンス級の背後に広がる深い霧の中から、さらなる巨大な影が音もなく滑り出してきた。


視界が開けた海上に並んだのは、純白の船体に鮮やかな青のS字マークを描いた、海上保安庁の大型巡視船の群れだった。そして、その白い船列の真真横にピタリと寄り添うように浮かび上がったのは、レーダー反射面積を極限まで削ぎ落とした、ピラミッドのような漆黒の艦体を持つ巨大ステルス艦――ズムウォルト級をベースにした『あらたえ』であった。


白と黒。

平和と法の執行を象徴する純白の巡視船と、S.O.D.U.の影の暴力を体現する漆黒のステルス艦。その強烈なコントラストが、太平洋の海原に圧倒的な威圧感をもって君臨する。


敵艦隊のレーダーには、直前まであの巨大な『あらたえ』の影など一切映っていなかった。突如として目の前に具現化した漆黒の死神を前に、ゴースト・フリートの艦橋には冷たい戦慄が走る。


その硬直を破るように、国際VHFオープンチャンネルの全帯域へ、全海域に響き渡る明瞭で冷徹な男の声が流された。即応部隊の指揮官による、公式な通告だった。


「――こちらは日本国・海上保安庁、および沿岸警備部隊。国籍不明の各艦へ通告する。貴艦らは現在、我が国のEEZ(排他的経済水域)内において、不法な軍事行動および破壊活動を行っている。直ちにすべての兵装をロックし、戦闘行為を停止して本海域から退去せよ」


その警告は、あまりにも堂々とした「警察機関」としてのものだった。

包囲網を敷いていた敵の旗艦の艦長は、その言葉に激昂した。自分たちは大国の最新技術とプライドをかけて、S.O.D.U.という脅威を排除しに来たのだ。たかが日本の警察機関の巡視船などに、今更引き下がるわけにはいかない。


「狂ったか! たかが警察風情が、この戦場で我々に命令するな! 邪魔をするなら、あの白い船ごと消し去れ!」


焦燥とプライドに突き動かされた敵の駆逐艦の1隻が、事もあろうに純白の巡視船に向けて主砲を放った。火線が走り、海面に巨大な水柱が上がる。弾着は巡視船の至近であり、明確な敵対行為であった。


しかし、放たれた次弾は、漆黒の『あらたえ』から放たれた迎撃システムによって、空中で容赦なく粉砕された。

そして、国際VHFに響く指揮官の声は、もはや静かな事務手続きのような、氷の冷たさへと変貌していた。


「……民間・法執行機関、および我が国艦艇に対する明確な武力攻撃を確認。これより、自衛隊法第95条『武器等の防護』に基づき、我が方の艦艇、機材、および人員を防護するための正当な自衛権を行使する」


法律の条文という名の「絶対的なリミッター解除」が宣言された。

その瞬間、漆黒のステルス艦『あらたえ』の滑らかな装甲が機械音を立ててスライドし、隠されていた先進砲システムの一斉射撃態勢が整う。


「全艦、危害射撃を許可」


ドォォォォンッ!!


大気が激しく震動し、ズムウォルト級の主砲から放たれた精密誘導砲弾が、先ほど発砲した敵駆逐艦の艦橋をピンポイントで直撃、一瞬にして消し飛ばした。

同時に、敵艦隊が逃げようとした背後の海面が、大きく盛り上がる。暗黒の深海から、超弩級原子力潜水艦『しんえん』がその巨大な黒い背中を堂々と現したのだ。『しんえん』の艦首から放たれた無音のステルス魚雷が、残存する敵艦のスクリューを正確に粉砕し、退路を完全に遮断する。


超高速のインデペンデンス級が翻弄し、海保の巡視船という「法の盾」の後ろから、漆黒のズムウォルト級と深海の『しんえん』が容赦のない鉄槌を下す。

国際法を逆手に取り、完璧な大義名分を得たS.O.D.U.の即応部隊の前で、ゴースト・フリートはもはや敵ではなく、ただ合法的に処分されるだけの対象に過ぎなかった。

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