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見えざる製造ライン

横須賀基地での屈辱的な会談を終え、イギリス代表団を乗せた車列は、帰路の専用機が待つ厚木基地へと向かっていた。

車内は重苦しい沈黙に包まれていた。誇り高き大英帝国が、極東の独立部隊に情報の喉首を差し出したのだ。同乗するSAS(特殊空挺部隊)のベテラン隊員も、前方を走る漆黒のS.O.D.U.専用SUVを忌々しげに睨みつけながら、警戒を緩めずにいた。


車列が厚木基地周辺の、人通りの少ない直線道路に差し掛かった時のことだった。


突如、沿道の陰から1人の男が、狂ったような叫び声を上げて車列の正面へと飛び出してきた。その手には、黒光りする不審物が握られている。

借金か何かで首が回らなくなり、某国の情報機関から「S.O.D.U.の警備態勢を測るための捨て駒」として海外から売り飛ばされた、哀れな鉄砲玉だった。


「クソッ、襲撃だ!」


イギリス要人の車に同乗していたSASの隊員が、反射的にホルスターの銃へ手を伸ばす。彼の反応速度は、世界最高峰の訓練を受けたプロフェッショナルとして完璧なものだった。

しかし、その「完璧」すらも、ここではひどく遅すぎた。


SASの隊員が銃を抜くよりも数秒早く。

前方を走っていたS.O.D.U.のSUVのサンルーフがスライドし、漆黒のタクティカルギアに身を包んだ隊員が上半身を乗り出していた。


警告の手続きも、威嚇射撃すらもない。

日本の自衛隊を縛る絶対の足かせである「専守防衛」の概念など、最初から存在しないかのような躊躇のなさ。脅威と認識した瞬間、S.O.D.U.の隊員は冷徹に引き金を引いた。


パンッ! パンッ!


乾いた破裂音が2発、連続して響く。

放たれた特殊ゴム弾は、飛び出してきた男の両膝を寸分の狂いもなく撃ち抜いた。男は苦悶の悲鳴を上げてアスファルトに転がり、瞬時に無力化された。

車列は減速すらすることなく、倒れた男の脇をすり抜けていく。後続の処理班が、数秒後にはあの男を「存在しなかったこと」にする手はずなのだろう。


「……馬鹿な。あり得ない」


後部座席で一部始終を目撃していたSASの隊員は、男が撃たれたことよりも、サンルーフから身を乗り出していたS.O.D.U.隊員の「射撃姿勢」に底知れぬ恐怖を覚えていた。

時速60キロで走行する車の屋根から身を乗り出すという、極めて不安定な体勢。そこから連続射撃を行えば、反動で銃口は大きく跳ね上がり、照準はブレるのが物理の法則だ。

しかし、S.O.D.U.隊員の構えていたアサルトライフルは、発砲の瞬間、ミリ単位たりともブレていなかった。


(……まるで、銃が肉体の一部に溶け込んでいる)


SAS隊員は冷や汗を流した。

通常、どれほど優秀な軍隊でも、装備は規格化された量産品だ。たとえば29センチの幅広の足を持つ兵士が、規格品のブーツに足を押し込めば、激しい動きの中で必ずコンマ数秒のラグや不快感が生じる。既存の兵器とは、そうした「自分に合わない部分」を、兵士自身の練度で無理やり補って使うものなのだ。


だが、あのS.O.D.U.の銃は違った。

グリップの太さ、トリガーの重さ、銃身の重量バランス。そのすべてが、あの隊員「個人」の骨格、手の大きさ、筋肉のつき方、そして射撃のクセに合わせて、ミクロン単位で削り出されているとしか思えない。

いかなる事態、いかなる体勢であっても、絶対に自分の型にハマった動きができる究極の専用装備。


あれは自衛隊の官給品などではない。S.O.D.U.の内部にある異常な技術力を持った「製造部門」が、隊員1人1人の生体データをもとに、一から部品を切り出して組み上げた完全なオーダーメイド兵器なのだ。


法を超越する冷酷な判断力と、人間と兵器が完全に融合した人馬一体の暴力。

イギリスの防衛の中枢を担う男たちは、車窓の外を流れる極東の景色を見つめながら、自分たちがどれほど底知れぬ深淵と取引をしてしまったのかを、改めて思い知らされていた。

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