9 巻き戻り後 二回目のお茶会 ~レオンハルトside
今日は、とうとう二回目のお茶会の日だ。事故の当日になってしまった。もう他に対策することはないだろうか?そう思っても、後は事故が起きないように万全を尽くすだけだ。気合を入れて、しっかりしよう!
事前に側近のノアや侍従と兄上がしっかり打ち合わせをしていてくれたようなので、私は、自分の準備をしっかりしていく。
まずは、御者として、私だと気づかれないようにしながら安全に馬車を走らせることだ。
気づかれないようにかつらをかぶったり、ひげを付けたり、帽子を深くかぶったりして変装をした。
(なるべく声は出さないようにしなくては…)
気づかれないか心配しながらフェルディナ公爵家の前で待っていると、予定の時間より少し遅れてマリーベル嬢が屋敷から出てきた。
私は、ちらっと盗み見たマリーベル嬢の姿を見て、感動のあまり目に涙が浮かんでしまった。
(生きている!ただそれだけで嬉しい。それになんて可愛いんだ。あ~。青い色の服もとても似合っている。天使だ。妖精だ。いやいや、浮かれている場合ではない。きちんと仕事をしなければ・・・御者として、安全に馬車を走らせることだけに気を配るんだ。)
マリーベル嬢が乗った後は、なるべく揺れのないように気を付けた。そして、全方向に目を向け、周りの安全にも気を配った。
(時間がかかってもいい。とにかく、とにかく安全に送迎することに命を懸ける。マリーベル嬢は、快適に馬車で過ごすことができているだろうか?ゆっくり揺れないように頑張るからね。)
そうして、どうにか安全に王宮までたどり着くことができた。
問題は、これからも続く。
私は、マリーベル嬢を下ろしてから、いかに早く変装を解き、何気なく会場に向かうかだ。
どう急いでも、マリーベル嬢を待たしてしまうだろう。私は、侍従に案内を頼み、庭園で花を見て紅茶を飲みながら待っていてもらうように指示を出している。
(なるべく早く、マリーベル嬢を待たせないように急ぐんだ。)
流れる汗を拭きながら、私も兄上のように筋トレが必要なのではないかと考えていた。今度、いいトレーニング方法を教えてもらうのもいいのかもしれない。
どうにか準備をして、平静を装って庭園に着いた。
すると、マリーベル嬢はスッと立ちあがり頭を下げて敬意を表してくれた。
「あ~。来ていたか?待つのもいい時間となったことだろう。」
(待たせて申し訳なかった。退屈はしなかっただろうか?あっ!なんとこんな大事な時に呪いが出てしまうとは。これではまるで傲慢な王子ではないか?違うんだよ。マリーベル嬢。)
私は悔しさのあまり、マリーベル嬢の表情を見ることもできなかった。
「私の方こそ、遅れてしまい大変申し訳ございません。」
すると、悪いのは私の方なのに、マリーベル嬢は謝罪の言葉を述べてくれた。私は、口をはさむと、呪いによってどんな言葉が出るのか不安になり、何も話すことができなかった。
「あの~。本当にお待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。」
すると、私の返事がないからか更なる謝罪の言葉が重なった。これは、もうどうにか返事を返すしかない。
「今後は気を付けてくれ。」
(君は何も悪くない。本当に申し訳ない。一つも怒っていないから…悪いのは私だから…)
「今後はこのようなことのないように肝に銘じます。」
短い言葉でも反対の意味になってしまうなんて、もうどうしようもない。私はあまりの落胆に視線が下がってしまう。
マリーベル嬢を失わないためにできる限りの対策を講じたお茶会だったのに、まさかこんなことになるなんて。巻き戻りの前よりも雰囲気が悪いのではないか。まあ、悪くしているのはこの私なのだが―――
「王宮の方の配慮は素晴らしいですね。前回、見せていただいた珍しいオレンジ色のバラの花がたくさん飾ってあって素敵です。本当にいい香りがします。」
反省をしているばかりではいけない。まだお茶会は続いているんだ。
そう思った時に、マリーベル嬢はこんな私にもまた話しかけてきてくれる。本当に素敵な女性だ。
しかし、この花を準備したのは私だ。マリーベル嬢が好きだと言ったから準備したのだ。それなのに…
気づいてくれたことは嬉しいが、私自身を見てくれたわけではないのだ。私は、少し悔しい気持ちになってしまった。
「――紅茶もう飲んでいるのか?」
私は、話題を変えたくて飲み物の話をした。
その途端。
なぜかマリーベル嬢は視線を下げ、悲しそうな表情を浮かべた。
何か私はまた、悲しませるようなことを言ってしまっただろうか?
「気を遣ってくれ。それより、お菓子は…」
(何も気にしないでほしい。では、お菓子はどう?マリーベル嬢の好きなお菓子を準備したんだ。どうか、今度は笑顔を見せてほしい。君の喜ぶ顔が見たくて準備したんだから…)
もう私はマリーベル嬢に楽しんでほしいと必死だった。メイドが様々なフルーツタルトをテーブルに準備した。
マリーベル嬢はそれを見ると、一瞬目を見張ってから笑顔になった。
これこそ私が、待ちに待った瞬間だ。マリーベル嬢の笑顔が私の縮こまってしまった心に染みわたってほぐしてくれるようだ。
「食べないか?」
(どうぞ。ぜひ食べてみてほしい。)
「はい。それでは、桃のタルトをいただきます。」
私は、何気ない表情で紅茶を飲みながらマリーベル嬢が喜んでくれているのか確認した。今までのすべての失態を挽回したい。
「…とてもおいしいです。」
「…ああ。」
(ああ~よかった。あまり長い言葉は呪いの影響で使うのが恐ろしい。なるべく単純に短く答えよう。気を付けて答えなければ、大変なことになる。それでも、今までの言葉が消えることはない。こんなことになろうとは…)
「もしかして、あまりお加減がよろしくないのでしょうか?」
マリーベル嬢の声で自分が思考の海に潜っていたことに気が付く。
「……そうだな。」
(いや、大丈夫…)
私は、この呪いの影響がこれからもずっと続くのかと思うとため息がこぼれてしまいそうになる。それはいけない。せめて態度だけでも、好意を表さなければ。
「無理はなさらないでくださいませ。では、またの機会に…」
これで終わってしまうのか。こんなに言葉が悪いまま終わってしまえば、マリーベル嬢に嫌われてしまう。そう思ったら、小さなため息がこぼれてしまった。
「――ああ。」
(仕方がない。これ以上続けても…)
そうして、二回目のお茶会が終わった。
しかし、私にとって終わったわけではない。
そうなのだ―――
大事なのは、事故を起こさないこと。
私は、マリーベル嬢を失わないために大きな代償を払ってまで、魔法を使ったのだ。
今日まで、いろいろと対策を講じてきたのだ。
ここからが大事だ。
気を抜くわけにはいかない。
私はすぐさま席を立ち、マリーベル嬢のことは侍従に頼んで着替えに戻った。
あまり待たせるわけにはいかない。
かといって、正体を見破られてもいけない。
なるべく早く準備すると、馬車を操り、王宮の前につけた。
マリーベル嬢が乗ってきたが、そちらを見る余裕はなかった。
私はゆっくり安定して過ごせるように心を配った。
そして、一番には事故に遭わないこと。
そのために、周りにも目を配った。
とにかく必死だった。
今は何も考えない。
集中するのは、事故を起こさないこと。
―――結果
マリーベル嬢をのせた馬車の事故は起きなかった。
私の、一番の目的は達成されたのである。
大きな代償を残してしまったが…
はたして、これからどうなるのだろうか?
お読みいただき、本当にありがとうございます!




