7 巻き戻り お茶会の前日 ~レオンハルトside
私は昨日、兄に相談したことにより、馬車の事故を防ぐ手立てを見つけた。
それは、王命により王子の婚約者には王家の馬車を贈るという案だった。
これで、事故は起こらない。
そう思っていたのに…
私は、まだそこに事故が起こる可能性を見つけてしまった。
それは―――
馬車が安全だとしても、それ以外の要因で事故が起こる可能性があるということだ。
馬車の前に何かが現れるかもしれない。馬が暴れるかもしれない。
事故が起こる可能性は、まだ残っているのだ。
事故を防ぐ確率はどう考えても百パーセントではないということだ。まだ、心配なんだ。どうしてもマリーベル嬢を失いたくない。
もうどうしたらいいんだ!
それでも、よく考えるんだ。
馬車は大丈夫だ。それでも、どんな対策を施しても事故が起きる可能性は残ってしまう。
だったら―――
万が一、事故が起きてしまっても
私の魔法を使いさえすれば、回避できるのではないか。
もう呪いは一生続くのだから…少し増えたくらいでは、何も変わらないだろう。
私が魔法をすぐに使える状況にするためには……
私がその場所にいなければならない。
つまり、馬車に一緒に乗っていなければならないのだ。
しかし、ここで問題だ。公爵には、マリーベル嬢の送迎を断られてしまった。無理やり迎えに行っても、マリーベル嬢にしつこい男だなんて思われたら本末転倒。耐えられない。
なら―――
私自身が、誰にも気づかれないように御者として馬車にいれば。
それだ!!
私が、自分の案に気づいた瞬間。
なぜか兄上の侍従が私を呼びに来たのだ。何があったんだろう?
私が、急いで兄上の部屋に向かうと―――
兄上はいつも通り筋トレに励んでいた。
今日は、何か石のように重いものを手に一つずつ持ち、交互に腕を振って持ち上げていた。
額には汗が光り、腕の筋肉が盛り上がり、ぶるぶると震えている。
「今日、だけ、こない、なんて、さび、しい、ぞ!待っ、てて、くれ。」
兄上は、苦しそうにしながらも、私にさわやかな笑顔を向けてきた。
(確かに、今日だけ顔を見せに来ないのも薄情だったか?それなら、あまり時間はないが話をしていくか。)
私はそう思って、ここ最近のお決まりのように、紅茶を飲んで待つ。
「はっ。はっ。はっ。はっ。はぁ~~~~~~っ。」
しばし、腕をつかんで動けない時間が過ぎる。荒い息遣いが少しずつ治まっていく。
「お待たせ!来てくれて嬉しいよ。これからは、毎日顔を出してくれる約束をしてくれ。来てくれないと、兄さまは寂しくて泣いちゃうからな。」
兄上は、震える腕で汗を拭きながらも、悲しそうに私を見つめた。
「どうしようかな。兄さまはあまり頼りにならないし、相談事もないし。気が向いたら来るよ。」
(分かったよ。兄さまに相談すると、いつも解決に導いてくれる。これからも頼りにしてるよ。)
「そうか、そうか。可愛いね。ぜひ、毎日気が向くようにしてきてもらおうかな。レオンを毎日振り向かせるぞ。ところで、まだ心配事があるんだろう?レオンは完璧主義だからね。何が心配なんだい?」
「馬車はまだまだだがあとは何も起こらないだろう。御者は……」
(馬車がよくなったとしても、他の要因で事故が起きてしまうこともあるんだよ。だから私が御者になろうかと思ったんだ。)
「そうか。だからレオンが御者になるんだね。さすが、うちのレオンは頭が切れるね。マリーベル嬢に気づかれずに御者になって送迎するんだね。それなら、またノアに指示を出しておくから、御者の仕方を学んでおくといいよ。それから、御者の服装や見た目を変える準備はこちらで全て整えておく。レオンは、すぐに完璧な御者になる訓練を行うんだ。兄さまのように諦めずに最後まで頑張るんだ。レオンなら必ずできる!兄さまは信じているよ!」
それから、私は御者として安全に馬車を御せるように練習に励んだ。乗る人の気持ちも考えて、なるべく揺れないように道の安全にも心を配ることを学んだ。そうして、ようやく安全に馬車の御者として役割を全うできるようになったころには、最後の一日が終わろうとしていた。
どうにか無事お茶会を終わらせ、事故が起きないようにしたい。
マリーベル嬢を失わないために、最善を尽くさなければ…
そう、張り詰めた緊張感をもってその日を終わろうとしていた。
巻き戻りの日は、もうすぐやってくる。
大事な日を迎えようとしている。
事故を起こさない。
マリーベル嬢を絶対に守る。
それだけを考えていた。
だから私は――
別のことで困ることになるなんて
この時は一つも気に留めなかった。
お読みいただき、ありがとうございます!
基本火、木、金、土、日の週5回更新を目指します。




