5 巻き戻り お茶会の三日前 ~レオンハルトside
「はっ。」
目覚めると、そこはいつもの私の部屋だった。
私はすぐに、侍従を呼んで、今日の日付を確かめた。
今日は、あの事故が起きる三日前だった。
よかった。間に合った。
これから、どうにか事故を回避する方法を探していかなければならない。
―――大好きなマリーベル嬢を失わない為にも。
その後、すぐさま対策を考え始めた。
あの事故は、馬車の故障だったはずだ。
ということは、故障する予定の馬車に乗せないことが大事だ。
しかし、そこで問題が発生する。
他家の馬車事情に口出しするなんてことはできない。
「あなたの家の馬車、もうすぐ壊れそうなので、よく点検した方がいいですよ。」なんて、口が裂けても言えない。
なら、どうしたらいい?
そこで、また兄上に相談に行くことにした。兄上は、小さい頃から何でも相談してほしいとちょっとうるさいくらいに声をかけてくる。そんなにしょっちゅう相談するわけにもいかないと、相談しないでいると、むこうから声をかけてきて、なにかしら相談を口にするまで帰してもらえない。そんな人なので、小さなことでも相談する癖がついている。
兄の部屋に向かい、ノックしようとすると…兄上の側近がドアを開けてくれた。
(いつも、どうしてノックをしてもいないのに分かるんだろう?)
不思議に思いながらも、部屋に入る。
「はっ。はっ。はっ。はっ。八百九十。あと…少し…座って…待て!」
今日の兄上は、腹筋に励んでいる。
また、私は侍従が入れてくれた紅茶を飲んで待つことにした。
(兄上は、いつも体を鍛えているんだな?邪魔だったかもしれないけど、今日だけは、すぐに相談しなければならない。許してくれ。)
しばらく待つと、兄上が汗を拭きながら向かいに座った。そして、嬉しそうに声をかけた。
「待たせて悪かったね。それでは、今日の相談事は何かな?お茶会の準備はしっかり進んでいるんだろう?それともただ単に、マリーベル嬢が可愛すぎて、兄さまにのろけにでも来たのかな?聞いてあげるよ。何時間でも。」
「違う。可愛くなんてない!」
(違う!可愛いんだ!マリーベル嬢はものすごく可愛いんだ!なのに、どうしてこんなことを言ってしまうんだ!)
「あれ?思春期で反対のことを言っちゃうのかな?そういう年頃かな?レオンはなんて可愛いんだ。兄さまは分かっているからね。大丈夫だよ。」
「マリーベル嬢なんて、大嫌いだ。もう会いたくない!」
(違う!大好きなんだ。今すぐ会いたい!やっぱりおかしい。思ったことと反対の言葉が出てしまう。……もしかして―――呪いか?)
十五歳の時に神から告げられた言葉を思い出す。
『レオンハルト。
そなたには、「時を戻す」ことができる魔法を授けよう。
ただし、その魔法で時を一秒戻せば、一日は自分の思ったことと正反対の言葉しか話せなくなる呪いが代償となる。そして、呪いは他の人に明かすことができない。
心して使うがよい。』
私は、マリーベルが亡くなったと聞いて、力の限り巻き戻りを願ってしまった。
その結果が三日の巻き戻り。
魔法の代償は、一秒で一日、正反対の言葉しか話せなくなる。
三日―――つまり約七百十年…
ーーーああ~ 一生だ。
一生、正反対の言葉しか話せない。
私は、絶望した。
呪いがあることは、他の人には明かすことができない。ということは、私が本心と反対の言葉を言っていることは一生誰にも気づいてもらえない。
しかし、それでも今は、優先すべきことがある。
マリーベル嬢の馬車を事故に遭わせずに済ませること。
呪いの対策は、後でゆっくり考えるしかない。今は時間がない。
「兄上。馬車の事故にはどうする?まあ、自分で解決できるからいいけど。兄上には頼りたくないし。」
(もうどうしたらいいのかわからない。それにしてもこの呪い、本当に嫌になる。それでも、事実だけはきちんと伝えられるみたいだ。気持ちだけが正反対になる。兄上、気を悪くしないといいけど…)
「そうだな。レオンは優秀だものな。自分で解決できるな。でも、兄さまだったら馬車を点検したり、新しい馬車を準備したりするかな?それと、優秀な御者を雇ったりするなんてこともできるかな?」
「全く参考にはならないな。聞きたいわけではないが、それがほかの家の馬車だった場合はどうしたら…?」
(兄上ありがとう。参考になるよ。でも今聞きたいのは、それがほかの家の馬車だった場合はどうしたらいいだろうか?ということなんだ。)
「確かに干渉はしにくいね。それって、マリーベル嬢のことかな?全く、レオンたら心配性だな。だったら、王家の馬車で送り迎えをしてやったらどうだい?馬車の手配は、ノアに頼んで、レオンはフェルディナ家に『マリーベル嬢が心配だから、王家の馬車で送迎したい。』って、手紙を書くんだ。どうだろう?」
「全然だめだね。参考にならないからもう戻るよ。」
(とても参考になったよ。すぐに戻ってどうにかやってみるよ。本当にありがとう。)
「また、いつでも来るんだよ。待ってるからね。」
兄上は、私の言葉に気を悪くすることもなく、聞いてくれる。いつも本当にありがたい。
それではすぐに、準備をしなければ。
ノアに馬車の手配を頼み、私は手紙を書くことにした。
二回目のお茶会の日は、王家の馬車で送迎をするので、待っていてほしいことを手紙にしたため、侍従に届けさせることにした。
今日できることは、したつもりだ。
あとは、私の呪いについて考えていかなければ…
そう思っていた夜。
絶望的な知らせが届く。
「王家の方の手を煩わせるなんて申し訳ないので、送迎はご辞退申し上げます。」
当主からの知らせだった。
どうしたらいいのだろうか?
二回目のお茶会まで、残りあと二日。
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