29 ツンデレは正義! ~byリリア
「はああ。最近、お嬢様のツンデレが足りない……」
物陰で一人嘆くマリーベルの侍女のリリア。
明るくて品行方正だった主、マリーベルお嬢様。ある日、突然ツンデレになった。楽しい時は、過ぎるのも早い。レオンハルト様との想いを交わされてからは、心穏やかに過ごされている。ツンツンすることもなく。たまに心の中だけではデレデレになっているのを私は知っている。
私は転生者。もともとツンデレな主人公が出てくるお話が大好きだった。だから、この世界でお嬢様の侍女として仕えてからは、いつかはツンデレなお嬢様を見てみたい。この世界にいるかもわからない神様に、そう願ってしまっていた。そして、やっと願いがかなったのに……もう終わり?終わりなのでしょうか?神様~。一度その喜びを知ってしまってから、失うのは、あまりにも落差が、落差が身に堪えるのを知ってますか~
「協力しようか?そのツンデレってやつを教えてくれるのなら。」
「あなたは、レオンハルト様の側近のノア様。失礼いたしました。」
私は、少し警戒をして、頭を下げる。本来なら気軽に話せる相手ではないからだ。
「ここには誰もいないから構わないよ。君は、マリーベル嬢の侍女のリリア嬢だね。君が望んでいるツンデレとかを詳しく教えてくれるなら、本当に協力できるかもしれないよ。どうする?」
私は少し考える。それでも、まだ信用はできない。
「ノア様がなぜ私に協力していただけるのかが、分かりません。あなたの目的が分かって、あなたを信用できたなら、その時はお話ししましょう。それでは。」
私は後ろを振り返ることもなく、その場を後にした。
しかし、その後、ノア様との接点は広がっていく。なぜなら主同士が仲良くなり、一緒に行動する機会が増えたからだ。
そうすると、自然と会話も増えてくる。業務連絡だけではない。打ち合わせも完ぺきに行いながら、何気ない会話も。ノア様の仕事は完璧だ。レオンハルト様が考えている何手も先を予想して、進んで行動している。いつ休んでいるんだろうと思えるほど、絶えずレオンハルト様のことを考えて動いている。側近の鑑だった。
レオンハルト様のことを大切にされているからこそ、マリーベルお嬢様のことも殊更大切にしてくださっている。ここまでくるとノア様は信用に値すると分かる。私たちの敵にはなりえない。だって、私たちを裏切れば、レオンハルト様の気持ちを裏切ることにつながるのだから……
ある日、私はノア様に気になっていたことを尋ねた。
「ノア様は、どうして侍女である私なんかの願いに協力してくださるとおっしゃったのでしょうか?」
「私にも願いがあるからだよ。そのために努力しているところなんだ。」
「ちなみにどんな願いか聞いても?」
「君の願いがかなったのなら、その時は君の時間を少しもらいたいんだ。私のために。」
「それだけですか?」
「ああ。私の今一番かなえたい願いだよ。どうだろうか?」
「まあ。少しだけなら構いませんけど……でも、願いがかなった時でいいんですね?」
「もちろん構わない。でも、絶対にかなえてみせるよ。君の頼みだし。」
そこまで言われたら、相談しない手はない。何しろ、今日までよくよく観察してきたのだ。やっと信用できると分かったのだ。それなら、私の願いをかなえてもらおう!お嬢様のツンデレが見たい。ツンデレは正義だから……
そこから私はツンデレとはどんなものか。お嬢様のツンデレとしての欲しいセリフ。シチュエーション。髪型、服装まで、熱く語った。心置きなく。
それから数日後。ノア様から全ての計画を聞いた。
そして、当日。
「ねえ。レオンハルト様にお願いされたんだけど、本当にこんな格好で構わないのかしら?」
「もちのろんでございますよ。これがお嬢様が(私の中で)一番にかわいく見える姿です。さあ、胸を張ってレオンハルト様に会いに行ってください。あ!そうそう。私がお伝えした仕草や言葉は必ずお願いしますね。私も部屋の隅から一つ残らずこの目に焼き付けますので。」
私はやり切った。もう思い残すことはないはずだ。嘘だ。また機会があれば、ぜひ見たい!できれば月一くらいでお願いしたい。
お嬢様は、今、ゴスロリの衣装を着ている。レオンハルト様にダメだしされたので、長めのスカートになってしまったが、まあそこは妥協するとしよう。だって、お嬢様がゴスロリなんて。はあぁ。生きててよかった。しかも、ここが大事。髪型はツインテールを縦ロールに仕上げたのだ。なんて、美しい。一人満足のため息が洩れてしまったほどだ。その上、白いレースのヘッドドレスを合わせた。なんて、完璧!
レオンハルト様が待つ部屋に入った時のレオンハルト様の表情は見ものだった。
目を大きく見開いたかと思ったら、顔を真っ赤にし、お嬢様を見たいのに見てはいけないものを見たかのようにきょろきょろと視線を動かした。
「き、今日は私の願いをかなえてくれてありがとう。マリーベル嬢。今日は、なんていうか、破壊力がありすぎるほど、可愛いよ。あまりのかわいさに、心臓が止まってしまうかと思ったよ。」
「べ、別にあなたのために準備したんじゃないからね!仕方なくよ。勘違いしないでよね。」
「ぐっ!」「ゔっ!」
なんか、いろいろなところから変な声が漏れ聞こえてくる。
「いつものドレス姿も素敵だけど、今日のドレスもすごく似合っているんだ。その髪型も素敵だね。」
「こんな衣装や髪形、好きでしているわけじゃないわ。……あ、あなたが見たいって言ったからよ。」
「私のためにしてくれたんだね。ああ、なんて嬉しい言葉なんだ。マリーベル嬢、大好きだよ。」
「だから、あなたのためだけじゃないって言っているでしょう!……私は好きじゃないわ。あ!この衣装のことよ。……あ、あなたのことは好きだけど。」
これはだめだ。もう耐えられない!
見たいのに、ずっと見ていたいのに部屋をそっと出てしまった。
なぜなら……
――――鼻血が出てきてしまったからだ。
え~~~~ん。情けない!お嬢様のツンデレの破壊力が強すぎた!
しばらくして、真っ赤な顔のお嬢様が着替えの部屋に戻ってきた。もちろん私は何気ないふりをして、着替えを手伝いましたとも。もう一度だけ、この目でシャッターを連写した後で。
後日。
ノア様と約束したとおり、王城の片隅で話す時間を設けた。少しの時間でいいって言われたので、お嬢様とレオンハルト様のお茶会の間だけど。
「この前は、協力してくれてありがとう。とてもいいものが見られて満足よ。出来たら、定期的にみられるともっと嬉しいけれど。」
「それは、大丈夫だと思うよ。なにしろレオンハルト様もかなり気に入っていたからね。他にもドレスの注文とかもしているよ。こちらこそ、レオンハルトを喜ばせることができてよかったよ。ありがとう。」
「それならよかった。あのお、それでお礼って本当にこれだけでいいの?なんか、私だけ得したみたいで気が咎めるんだけど。」
「う~ん。私は、君が喜んでくれるなら、それが一番なんだけど……でも、もし許してもらえるなら、これからもこうして二人で話す時間をもらえると嬉しい。」
「えっ。本当にそれだけでいいの。そんなの簡単なんだけど。」
「もちろんいいよ。今はそれだけで。だんだん意識してもらえるように頑張るだけだから…」
私にはノア様の言っていることがよく分からなかったけど、こんな風に話すのは結構楽しいから大歓迎だ。
二人の間にも、何かが始まる予感がする。
お読みいただき、ありがとうございます!
あと、2話で完結となります!
明日、午前中に2話連続で出す予定です。




