22 観劇デート反省会 ~レオンハルトside
本当に長かった。
マリーベル嬢を観劇デートに誘えるようになるまで六か月もかかってしまったからだ。
今日は、デートでもあるので御者にはならない。馬車に乗ってマリーベル嬢をエスコートするのである。
それにしても、久しぶりに会ったマリーベル嬢は美しかった。会うたびに前より美しくなるってどういうことだろう?もう私にとって、女神さまと言っても過言ではない。だから、今回は君が以前、「凛と咲いて美しい」と言ったユリの花を準備した。もちろん、マリーベル嬢の美しさの方がユリの美しさより勝っているが……美しい人にはより美しい花を。
しかし、マリーベル嬢は青いドレスが最高に似合う。私の瞳の色に似ているからそう思ってしまうのか?自意識過剰すぎるか!?そうであってほしいという願望かもしれない。
緊張していたからか、馬車に乗せるときに、不意にマリーベル嬢の手が触れてしまった。緊張から汗をかいてしまっている私の手に気づかれてしまっただろうか。何も気づかずに乗ってほしい。私の心臓も予想以上に高鳴ってしまっていた。
マリーベル嬢を劇場にエスコートをしていると、周囲の視線や声が自然と感じられた。それでも、私は、今日の目的、マリーベル嬢との観劇デートに集中しようと心掛けた。何も気にしないでほしい。今日は、私とのデートだけを楽しんでほしい。そう願った。
「よく聞くんだ。」
(マリーベル嬢。周りの声なんて気にしなくていい。今日は、久しぶりに会えたんだ。純粋に劇を楽しんでほしい。)
「ちょっと。時間が空きすぎなんじゃないの?久しぶりすぎてあなたのこと忘れてしまったかもしれなくてよ。さ、寂しくなんかなかったんだから。」
「私も寂しくなか……」
(私は寂しかったよ。六か月もマリーベル嬢と会えなかったんだから。だから、今日はとてもうれしい。久しぶりに会ったマリーベル嬢はさらに魅力が増したのではないか?あ~!今日はいい日だ。劇なんかよりもマリーベル嬢をこっそり見ていたいな。)
しかし、マリーベル嬢の私に会えなくても、寂しくはなかったという言葉は少し堪えた。これも全て、今までの私の言動のせいだろう。マリーベル嬢を泣かせてしまうような言葉ばかりだったのだから……甘んじて受け止めよう。言葉で誤解を受けないようになるべく話をしないでいこう。
そうして、マリーベル嬢をボックス席に案内した。私は、二人だけで座ることに抵抗があったが、兄上からの助言を聞いたからだ。それに、今日はなんといっても、観劇デートなのだから。周りの観客からも横やりが入らないように特別に設けられた二人のためだけの席である。あの時のタイト国の第一王女のように権力に任せて、邪魔をされたら困るからだ。それにしても、あの後一度も第一王女に会うこともなく、国に帰ったと聞いたな……何があったんだろうか?まあ、私には関係のないことだ。
~~ ◇ ~~
実は―――
タイト国の第一王女が騒ぎを起こしてすぐ。アレクシスは側近のベインとともにすぐさま行動を起こした。
まず、本国に届くはずのタイト国の第一王女の釣り書きが隣国に誤って届いてしまったかのようにする。もちろんこちらで整えた最高に素晴らしい女性だという釣り書きを―――それを見た、隣国からタイト国への婚約の打診が届けられた。それからは早かった。タイト国の王は、お荷物となっていた第一王女の婚約の打診を受け、すぐさま王女の帰国を命じてきたのである。あっという間の出来事だった。
何度も言うが、実は本当にアレクシスは有能だったのだ。
~~ ◇ ~~
「適当に……」
(マリーベル嬢のために準備した席だよ。今日の劇を私と一緒に見てくれるかい?二人きりなんて緊張するけど、こんな時でもないと一緒にいられないから楽しみでもある。隣に座ってくれるだろうか?)
「仕方ないわね。ここしかないのなら、あ、あなたの隣に座ってあげてもよろしくてよ。感謝することね。」
申し訳ない。こんなに優しく美しい君が、泣かせてしまうような言葉しか言えない僕の隣なんかに座らせてしまうこと。私は、こっそり君を時々眺められればそれで構わないんだ。だから、その辺の石ころだとでも思って気にしないで劇を楽しんでほしい。
マリーベル嬢は、私との距離を置いて、席に着いた。これが、今の私との心の距離のように感じてしまった。
そうして、周りが暗くなり劇が始まった。
この劇は、兄上と私で考えた私の願望でもあるストーリーだったのかもしれない。兄上は、本当に天才だ。私がちょっとした骨組みで話を作っただけなのに、次々と肉付けをしていって感動の演劇にしてしまうんだから……どうして、私の気持ちがそんなにわかるのだろう?
最初は、気づかれないように時々ほんのちらっとだけマリーベル嬢の様子をうかがっていただけだった。しかし、だんだんとマリーベル嬢は劇に夢中になっていき、楽しそうにしたり、悲しそうにしたり、くるくると表情が変わっていった。私は、もうマリーベル嬢から目が離せなくなってしまった。ずっと君を眺めていることができる。
―――いくらでも。
最後の頃には、マリーベル嬢の目から涙が流れてきた。私はそっとその涙を拭いてあげたかった。私のこの手で。優しく。でも、いつも君を泣かせるような私にその涙を拭く権利はない。
その時、気付いてしまったのだ。
私ではだめだ。
―――こんな傷つけるような言葉しか言えない私では。
しかも、呪いは一生だ。
マリーベル嬢を一生幸せにしてあげることはできないのではないか……と。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
大丈夫です。
結末に向かっております。




