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21 観劇デート



今日は、レオンハルト様に誘われた観劇の日だった。どんな内容の劇なのかは全くわからない。なぜなら、今日が初日なのだという。なんだかそんな日にご招待いただけて、すごく特別な扱いをしていただいているようで嬉しい気持ちになった。


そこで、私は、今回レオンハルト様の瞳の色に似た深い青のドレスを着ることにした。久しぶりにお会いするのだから。落ち着かない気持ちを隠して、鏡を見つめると、隠しきれてない喜びが表情に出てしまっている。自分だけなら仕方ないけれど、他の人には決して悟られないように一度表情を引き締めてから立ち上がった。鏡の向こう側からちらっと覗いている笑顔のリリアの視線には気づかないふりをして……


今日は、レオンハルト様が馬車で迎えに来てくださった。手には凛と咲くユリの花束を持って。花は、私の部屋に飾ってもらい、すぐに馬車に乗って劇場に向かった。馬車に乗るときも、降りるときもレオンハルト様は優しげな表情で手を差し伸べてくださった。

お互いの手がそっと触れた途端―――

レオンハルト様の手との温度差に気づいてしまった瞬間、ただのエスコートが意味のあるものに感じてしまい、心臓がどきどきしてしまった。


そうして、レオンハルト様にエスコートされながら劇場に足を踏み入れた時、周りの方の視線が集中した。


「珍しいですわね。あの第二王子殿下が観劇にいらっしゃるなんて……」


「あら、お隣の女性は確か婚約者だったかしら?仲がよろしいんですのね。」


「よく聞くんだ。」


レオンハルト様は、私に向かって心配そうに声をかけてきた。私は、すぐさま魔法を使うことにした。

(レオンハルト様の気持ちを教えて!)


(マリーベル嬢。周りの声なんて気にしなくていい。今日は、久しぶりに会えたんだ。純粋に劇を楽しんでほしい。)


「ちょっと。時間が空きすぎなんじゃないの?久しぶりすぎてあなたのこと忘れてしまったかもしれなくてよ。さ、寂しくなんかなかったんだから。」


(あ~。そうだった。ツンデレの魔法だ。この恥ずかしい言葉使いで今日は過ごさなければならないのね。まあ、観劇だから話すということは少ないはず。とりあえず劇に集中しましょう。)


「私も寂しくなか……」


(私は寂しかったよ。六か月もマリーベル嬢と会えなかったんだから。だから、今日はとてもうれしい。久しぶりに会ったマリーベル嬢はさらに魅力が増したのではないか?あ~!今日はいい日だ。劇なんかよりもマリーベル嬢をこっそり見ていたいな。)


レオンハルト様ったら、言葉はほとんど発しないのに、考えていることが次から次から聞こえてくる。私は言葉とは裏腹な内容に信じられないものを感じてはいるが、恥ずかしい気持ちも出てきてしまう。


無言でエスコートされた席は、舞台がよく見えて、周りの観客からは見えないボックス席になっていた。


「適当に……」


(マリーベル嬢のために準備した席だよ。今日の劇を私と一緒に見てくれるかい?二人きりなんて緊張するけど、こんな時でもないと一緒にいられないから楽しみでもある。隣に座ってくれるだろうか?)


「仕方ないわね。ここしかないのなら、あ、あなたの隣に座ってあげてもよろしくてよ。感謝することね。」


(レオンハルト様のお隣なの?恥ずかしいし、緊張するわ。本当に二人きりになってしまうのね。せっかく連れてきていただいたのに、劇に集中できるかしら……)


そう思いながらも、二人の隙間を少し開けて、席に着いた。いつもはいない隣に人がいる感覚に、頬が熱を持ってくる。なんだか心臓もドキドキしてきてしまう。こんなにドキドキしては、レオンハルト様に聞こえてしまわないかしら……


その時、周りが暗くなり、舞台にライトが当たる。





 とある村のラルトには、幼馴染の可愛い女性ジルがいた。二人はとても仲が良かった。しかし、ジルは病弱で体調を崩して寝込むことが多かった。

 ある日ラルトは、簡単な病気を治すギフトを神様から与えられる。そこでラルトは、ジルが風邪をこじらせるたび、具合が悪くなるたびに魔法を使って治していった。

 それからは、ジルはあまり体調を崩すことはなくなり、二人は幸せになっていくのかと予想された。しかしそうはいかなかった。

 ギフトには代償……


―――呪いがあったからだ。


 魔法を使うと、ラルトはその日一日、感情がなくなってしまうのだ。元気になったジルと出かけても、一緒に楽しんだり、笑ったりできなくなった。もちろん呪いのことは他人に知られることがない。だから、一緒に出掛けても、二人でいても感情のないラルトに対して、ジルは戸惑いを見せるようになる。


 そして、ジルはだんだんとラルトと一緒にいることが、つまらなくなっていくのだった。いつしか、ジルはラルトを避けて、別の人と一緒に過ごすようになった。ジルが病気になってもラルトが気付くこともなくなった。そうすると、もちろん、元気になったと思っていたジルの病気が頻発するようになる。ジルはどうして急に具合が悪い日が増えたのか不思議に思い始めた。ジルが自分の部屋で病気と闘っていたある日のこと。焦った様子で家の人と言い争いをしているラルトの声に気が付いた。これは、ジルが知っている感情のないラルトではない。しばらくするとその声も静かになった。気が付くとジルの病気が急によくなっていたのである。


 不思議に思って、ジルが部屋を出ていくと、家族がその様子を見て驚いていた。ここ数日ずっと具合が悪くて寝ていたジルが起きてきたからである。


 ジルは、気になってラルトのことを聞いてみた。ラルトは、ジルの体調を尋ねて、これからも体調を崩した時には必ず教えてほしいと言ってきたそうだ。どうしてそんなことを知りたいのか理由を聞いても教えてくれないのでは、ジルのことは教えられないと伝えた。すると、ラルトはかなり感情的になってどうしても教えてほしいと頭を下げて懇願してきたそうだ。あまりの迫力に教える約束をしてしまったら、安心して帰っていったということだった。


 ジルは、すぐさまラルトの家を訪ねた。思い当たることがあったからだ。ラルトに会うと、ラルトはいつもの感情のないラルトになっていた。先ほど、家に尋ねてきたラルトとはまるで別人だった。それを見て、ジルは気が付いた。どうして、自分の病気が急によくなったのか。それと引き換えに、ラルトの感情がなくなったのか。


 それからは、ジルはラルトと一緒に過ごすことに抵抗がなくなった。感情がなくてもラルトはジルのことを一番に思ってくれているからだ。

 

 もちろんそれからは、ジルは体調を崩すことはほとんどなく、ラルトとも結婚することになった。ジルのことを一番に思ってくれているラルトといつまでも幸せに……





私は、ずっと劇に集中してしまっていた。ラルトとジルの思いが重なって本当によかった。涙が、次から次から流れてくる。


(……あれ!?なんか似たような状況が……?)


そして、気づいてしまった。隣にいるレオンハルト様の存在に……



いつも、お読みいただき、ありがとうございます。

だんだんと結末に向かっています。


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