16 反省会 ~レオンハルトside
お茶会が終わった。贈り物は無事に渡すことはできた。けれども、今回も失敗したかもしれない。
なぜなら、贈り物を渡し終わった後、マリーベル嬢の目に涙の膜が張っているのに気が付いたからだ。
どうしてだ。
やはり、私の言葉だろうか?どれだけ短く話しても、否定的な言葉が出てきてしまう。私が思っているのとは反対の言葉が……
言葉で傷つけてしまう。ごめん。マリーベル嬢。こんなに思うことはできるのに…
「レオンハルト殿下。アレクシス殿下がお呼びです。すぐにおいでください。」
兄上の側近のベインに声をかけられ、場所を移した。
兄上は今日も筋トレをしている。腕立てのような姿勢で肘をついて体をまっすぐにしたまま動かない。いや、正確には腕も足もお腹も小刻みに震えている。何より表情が限界を伝えている。滴り落ちる汗。口を開くのもつらそうだ。
「……まっ…てっ…てっ………うっ!…くっ!…はっ!」
だから、いつものように紅茶を飲みながら待つ。これは、私にはできそうもない。早々にあきらめた。
そうして、ようやく筋トレをやり終えたのか。うつぶせに突っ伏したまま、動けない兄上。国を背負うためには、それだけ精神も肉体も鍛えなければならないのだろうか…?尊敬するレベルだ。
呼吸がどうにか整いだし、ゆっくりと兄上が移動してきた。
「…待たせたね。ちょっと今回のはきつかった。かなりきた。」
「かなり、待った。あっ。」
「大丈夫だよ。そう思っていないのは分かるからね。今回はちゃんと髪留めを渡すことができたんだろう?頑張ったじゃないか!レオン、えらいぞ。なのに何を心配しているんだい?」
「マリーベル嬢が…」
私は、泣くしぐさをした。
「レオン。人はね。泣くときにはいろいろな感情を持っているんだよ。悲しくて泣く。感動して泣く。嬉しくても泣くんだよ。だからね。兄さまみたいに、言葉だけじゃなくてしぐさや表情もよく見るんだよ。そうすると分かってくることもあるんだからね。次のお茶会の時には、そういったところもよく見るんだよ。」
確かに、兄上は、私の言葉ではなく行動や表情、しぐさから私の思っていることを探してくれている。
「分からないな。試してみる価値もない。」
また、口からは思ってもいない言葉が出てしまった。それでも私は、兄上の言葉に大きく頷いた。言葉ではなく態度で、表情で兄上に気持ちが伝わるように。
「一番大事なのは、自分の気持ちには素直に反応することだよ。頑張れ。何があっても応援するからね。ちょっとくらいの失敗は、絶対にカバーしてみせるから!」
兄上の心強い応援に次のお茶会ではマリーベル嬢の本当の気持ちを探りながら、自分の気持ちを表情や態度に表そうと決意した。
~~ ◇ ~~
その頃。
マリーベル嬢の部屋では…
「お嬢様。あの小学生男子、少しは成長しましたね!お嬢様に髪留めをプレゼントするだなんて。中学生くらいにはなりましたかね。しかも、宝石の色はあいつの瞳の色だなんて。爪の先ぐらいは見直してあげましょうかね。」
侍女のリリアが私の手元の髪留めを眺めながらそう話す。
私は、あのお茶会の日から、いただいた髪留めを眺めることが増えた。
……そして、気が付いた。
髪留めについている宝石の色が、レオンハルト様の瞳の色にそっくりなことに―――
ただの偶然だろうか?どういう意図でその宝石にしたのだろうか?私が深読みしているだけだったら恥ずかしい。そんな私に気づいたリリアに、こっそり聞いてみた。
「そんなの独占欲だと相場は決まっているんですよ。君を僕の色に染めたいとか。君は僕のものだと周りからも分かるようにしたいとか。全く、言葉は足りないくせに……」
「そうなのかしら?でも、付けてもらっても似合わないとか言うなんて。私にはもうどう取っていいのか分からなくて。」
「私には分かります。そういうの、天邪鬼っていうんです。思っていることと反対のことを言っちゃうってやつですよ。本当におこちゃまです。そんなの気にしなくていいですからね。あ!そうだ。お嬢様、この前みたいにツンデレで返したらどうですか?」
「つんでれで?いやよ。あんなの恥ずかしすぎて、もう二度と言いたくないわ。本心と違うもの。」
「だからいいんじゃないですか?私大好物です。その時の髪形は、やっぱりツインテールかな?うん!最高にいい!お嬢様、それでいきましょう。今から楽しみすぎます。」
「なんだか意味は分からないけど、最高に嫌な予感がする。遠慮しておくわ。大事な何かを失ってしまいそう。いつも通りのあなたの素敵な技術で髪を整えてほしいわ。お願いね。いつものよ!」
「え~残念過ぎます。それじゃあ、猫耳を付けるなんてどうですか?最高にかわいくて、お嬢様にピッタリのもの今から手作りしちゃいますよ。そのためだったら私いくらでもがんばれます。」
「お願いだから、やめてちょうだい。どうしてもっていうならせめてこの家でだけにして。」
「やった~。言質とりましたからね。すぐに準備に取り掛かります。寝る間も惜しんで頑張ります。」
「だめですからね。無理するなんて絶対に。それなら家でもやりません。いいですね。」
「は~なんか、もうすでにご褒美いただいているようなものです。お嬢様、大好きです。どこまでもお供します。」
リリアと話していると、いつの間にか私の不安な心も心配もなくなっていく。
次のお茶会も頑張ってみよう―――
そんな気持ちになっていった。
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