15 久しぶりのお茶会
せっかく作っていったお菓子がおいしくないと言われたお茶会。悲しみのあまり、しばらくの間、会いたくないとは思っていたけど、まさか何か月も中止になるとは思っていなかった。
やはり、手作りのお菓子なんて持っていったから、貴族の令嬢らしくないと嫌われてしまったのだろうか。 どんどん私の思考は沈んでいく。
それでも、お茶会の中止を告げるお手紙は、レオンハルト様自らの筆跡で丁寧な謝罪の言葉が連なり、最後には必ず待っていてほしいと書かれていた。待っていてということは、関係を続けたいということ?本当に?婚約を継続するかの結論を出すから待っていてだったらどうしよう…でも、それならお手紙と一緒に届く、オレンジのバラの花束は?私がバラが好きといったことを覚えていてくださっているのだろうか?そういえば、お茶会の時にも飾ってあった。どうなんだろう?本当に分からない。今の私は自分に自信がない。
そうして過ごすうちに、レオンハルト様がどう判断されたとしても、しっかり受け止めるしかないという結論に達していった。次のお茶会では、レオンハルト様の言葉だけでなく、態度やしぐさもよく見ていこうと決意していった。なぜなら、私が魔法を使い、リリア曰くツンデレの呪いが出てしまった時に気づいたからだ。言葉だけでは表せない感情があることを……
そうして、久しぶりのお茶会の日を迎えた。
いつも通りに侍従の方に案内されて、紅茶を飲みながらレオンハルト様が来るのを待った。
「殿下がおいでになりました。」
侍従の方に、そう声をかけられて立ち上がろうとしたところ、レオンハルト様は無言のまま、手でそのままでいいという仕草をされた。表情を見ると、優しそうに微笑んでいらっしゃる。
「お久しぶりでございます。レオンハルト様。」
その表情にひとまず安心をして、私は挨拶の言葉を述べた。
「ああ。」
レオンハルト様は、短く返事をなさると、お菓子を出すように侍従に手を向けた。テーブルには、所狭しとお菓子やフルーツが並べられた。
「食べなくていいぞ。」
言葉は、気になるが、表情が柔らかい。言葉を発した後は、私の様子を見て、心配そうな顔をするときもある。
(どういうことだろう?)
「では、ぜひいただきます。こちらはメロンのゼリーですね。おいしそうです。」
私が、恐る恐るゼリーを食べ始めると、ちらちらと視線を感じる。私は、気づかないふりをして、ゆっくり味わっていただいた。
「さっぱりとしていて、メロンの風味がしっかりと感じられるゼリーでした。とてもおいしくいただきました。」
私が、感想を伝えると、レオンハルト様はほっとしたように小さく息を吐いた後、とてもうれしそうに口元をほころばせた。
(そう言えば今まで私は、いつも恥ずかしくてあまりレオンハルト様の表情を見てこなかったのかもしれない。言葉と違った表情をされているのに初めて気づいた。)
「花を…」
レオンハルト様は、そう言っておもむろに立ち上がり、私の隣に来て腕を差し出した。そっと覗き見ると、その腕が緊張なのか小刻みに震えているのが分かった。
(これは、花を見に行こうというお誘いかしら?レオンハルト様も緊張なされているんだ。しっかり答えなければ……)
そう思った私は、すぐさま立ち上がり、レオンハルト様の腕にそっと手を添えた。レオンハルト様は、ほっとした後、嬉しそうに目を細め、ゆっくりと歩き始めた。
「ここに来るとユリの香りが漂ってきます。ユリは凛と咲いていて本当に美しいですね。」
「ああ。」
言葉はないけれど、ユリの高貴な香りに包まれながら、静かな時間が流れていく。
花を眺められるベンチに二人で座った。レオンハルト様が緊張した表情で背筋を伸ばした。
「前回……」
レオンハルト様は、それだけ言うと頭を下げた。
唇を引き結び、苦しそうな顔をしている。
「………」
言葉の続きはない。
けれど、その表情を見ていると、必死に何かを伝えようとしているように感じられた。
「―――はい。」
私も、それだけ言って小さくうなずいた。
レオンハルト様は、どこからか小さな箱を取り出して、私に向けて蓋を開いた。そこには、金色のバラの形の細かい飾りの中に青く澄み渡るような宝石がきらりと光る髪留めだった。
「ありがたく……マリーベル嬢に……」
苦しげな顔をして、箱を持っている。そして、その手が震えているのを私は見てしまった。これは、大事に受け取らなければならない。なぜか私はそう思った。だから、私のなけなしの勇気を振り絞って、伝えた。
「―――付けてくださいますか?」
私の言葉に、レオンハルト様は一瞬驚きに目を丸くしたが、ゆっくりと髪留めを手にした。そして、緊張を感じる震える手で私の髪にそっとつけてくださった。
「にあわ……ん、んっ!」
そこからは、気持ちがごちゃ混ぜになって、涙がにじんできてしまい…
その後は、また帰りを急いでしまってあまり覚えていない。
レオンハルト様の言葉と態度の違和感に初めて気づいたお茶会だった。
私のことを本当に嫌ってはいないのだろうか?それでもどうしても自信が持てない。
改めてよく見てみた髪留めは、今まであまり手にしたことのないものだった。
洗練されているわけではないけれど、どこか温かく気持ちのこもった素敵な贈り物だった。
それでも、あの言葉…
私は、今度こそ魔法を使ってみようと考え始めていた。
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