1-4.群れの牙
ならば、次に必要なのは――。
暗闇の中で、白い文字が浮かび上がった。
――――――――――
【獲得可能技能】
脚力強化 必要SP:4
毒腺形成 必要SP:6
感覚器官強化 必要SP:5
【保有SP】
5
――――――――――
新たに獲得できる技能は、三つあった。
脚力強化。
脚の筋力と瞬発力を高め、移動速度を向上させる技能。
素早く走れるようになるだけではない。
足場の悪い場所で身体を支える力や、跳躍、急な方向転換にも補正を得られる。
毒腺形成。
体内に毒を作り出す器官を形成し、噛みついた相手へ毒を送り込めるようになる技能。
強靭な顎と組み合わせれば、これまで倒せなかった相手にも、深刻な傷を与えられるかもしれない。
だが、取得に必要なSPは6。
今の自分には選べなかった。
最後は、感覚器官強化。
触角や脚から得られる情報を増幅し、匂い、振動、空気の流れを、より正確に捉えられるようになる技能。
危険を早く察知できれば、そもそも戦わずに済む。
食料を発見できる範囲も広がり、巣へ戻るための匂いを見失いにくくなる。
必要なSPは5。
保有しているSPをすべて使えば、取得できる。
どの技能も役に立つ。
感覚器官を強化していれば、あの窪みが自然にできたものではないと気づけたかもしれない。
砂の中に潜んでいた蟻地獄の振動を、足を踏み入れる前に察知できた可能性もある。
だが、強靭な顎だけでは生き残れなかった。
あの日、砂の斜面から抜け出せなかったのは、力が足りなかったからではない。
遅かったからだ。
もっと速く動けていれば、足元の砂が大きく崩れる前に、斜面を駆け上がれていたかもしれない。
もっと速く動けていれば、蟻地獄が砂を浴びせてくるより先に、窪みの外へ逃げられていたかもしれない。
危険を察知する力も重要だ。
だが、どれほど早く危険に気づいても、逃げ切るための足がなければ意味がない。
迷いは、あまりなかった。
「脚力強化を取得する」
『SPを4消費します』
『技能――脚力強化を獲得しました』
――――――――――
【保有技能】
強靭な顎 Lv.1
脚力強化 Lv.1
【現在の保有値】
EP:1
SP:1
――――――――――
『転生先を選択してください』
選べるのは、また働き蟻だけだった。
進化先はない。
今度も、同じ小さな身体で生きることになる。
だが、強靭な顎に加え、脚力強化を手に入れた。
以前より硬い物を噛み砕ける。
以前より重い物を運べる。
そして、以前より速く動ける。
この二つの力を使えば、次はさらに多くの経験を得られるかもしれない。
「働き蟻に転生する」
『転生先――働き蟻』
『保有技能を継承します』
『転生処理を開始します』
暗闇を白い光が満たしていく。
この場所で得た知識が消えていく。
蟻地獄に食べられたこと。
強い顎だけでは生き残れないと考えたこと。
感覚器官強化ではなく、脚力強化を選んだ理由。
次こそ進化へ近づこうとした意思。
すべてが光の中へ溶けていった。
◇
3度目の働き蟻として生まれた自分は、以前の生を何も覚えていなかった。
人間だったことも。
2度、蟻として死んだことも。
死後の暗闇で技能を選んだことも。
何一つ知らない。
ただ、その身体には二つの力が備わっていた。
強い顎。
そして、速い足。
仲間たちと同じ匂いをたどり、同じ方向へ歩いているはずなのに、気を抜けば前を行く蟻へ追いついてしまう。
6本の足は土を強く蹴り、小さな身体を軽々と前へ運んだ。
小石を越える。
草の根を回り込む。
地面にできた窪みを飛び越える。
急に進路を変えても、足がもつれることはない。
考えるより先に、身体が最も速く進める道を選んでいた。
強い顎と速い足。
二つの力を持つ自分は、自然と巣の外で働くことが多くなった。
餌を発見した仲間から情報を受け取ると、誰よりも早くその場所へ向かった。
硬い殻を持つ虫の死骸へ顎を立てる。
大きな肉片を切り離し、そのまま巣へ運ぶ。
他の働き蟻が一度往復する間に、自分は何度も餌場と巣を行き来した。
仲間が別の巣の蟻に襲われれば、警戒の匂いを追って駆けつけた。
正面から顎を合わせることはしない。
相手が噛みつこうとした瞬間に進路を変え、側面へ回り込む。
脚の付け根へ噛みつく。
相手がこちらへ向き直るより先に顎を離し、距離を取る。
再び走り、今度は反対側へ回る。
なぜ、そのように戦えるのかは分からない。
誰かから教えられたわけでもない。
ただ、身体が自然に動いた。
巣のために。
仲間のために。
食料を守るために。
走る。
噛みつく。
離れる。
そして、また走る。
そうして日々を過ごした。
大きな出来事は起こらなかった。
雨が降れば、濡れない場所へ逃げた。
匂いの道が流されれば、仲間とともに作り直した。
鳥の影が地面を横切れば、草の下へ飛び込んだ。
別の巣の蟻と餌場が重なれば、仲間とともに顎を開いた。
勝てるなら戦い、数で劣れば退いた。
硬い餌を切り分けた。
遠くの餌場から食料を運んだ。
崩れた巣穴を掘り直した。
毎日、働いた。
最初の生と同じように。
2度目の生と同じように。
何も覚えてはいない。
それでも、積み重ねた技能だけが、その働き方を少しずつ変えていた。
◇
異変が起きたのは、生まれてから半年ほどが過ぎた頃だった。
その日、自分は仲間たちとともに、大きな虫の死骸を解体していた。
枯れ葉の下で死んでいた甲虫だった。
硬い羽は食べられない。
自分は腹部の柔らかな場所へ顎を食い込ませ、中の肉を切り分けていた。
周囲では数十匹の仲間が働いている。
肉片を運ぶ者。
巣へ続く匂いの道を補強する者。
周囲を探索する者。
食料は多い。
すべてを巣へ運ぶには、何度も往復しなければならない。
自分は大きな肉片を顎で挟み、巣へ向かおうとした。
そのとき、地面に細かな振動が伝わった。
規則的ではない。
大きな獣の足音でもない。
何本もの足が、土や枯れ葉を続けて叩いている。
何かが近づいてくる。
自分は肉片を地面へ落とした。
触角を高く上げる。
知らない匂いが漂ってきた。
湿った土。
腐った木。
肉を食べる生き物の匂い。
危険。
周囲の仲間たちも、次々と作業を止めた。
一匹が強い警戒臭を放つ。
敵。
集まれ。
巣を守れ。
枯れ葉が持ち上がった。
その下から、細長い身体が現れた。
身体の左右には、数え切れないほどの足が並んでいる。
赤黒い頭。
前方へ伸びた長い触角。
そして、獲物へ毒を送り込むための鋭い牙。
ムカデ。
その名前が頭の中に浮かんだ。
自分たちより、はるかに大きい。
その身体だけで、何十匹もの蟻を押し潰せるほどの大きさがある。
ムカデは頭を動かし、甲虫の死骸へ触角を向けた。
食料の匂いに引き寄せられたのか。
それとも、甲虫に群がる蟻そのものを餌と見ているのか。
どちらでも同じだった。
ここには多くの仲間がいる。
地面には、巣へ続く匂いの道も残っている。
この敵を巣へ近づけてはならない。
警戒の匂いが広がった。
仲間たちが、ムカデを囲むように動き始める。
ムカデが頭を振った。
鋭い牙が、一匹の働き蟻を捉えた。
仲間の身体が宙へ持ち上げられる。
6本の足が激しく動いたのは、ほんの一瞬だった。
毒を受けた身体から力が抜け、地面へ落とされる。
別の仲間たちが、一斉に飛びかかった。
ムカデの身体を覆う硬い殻へ噛みつく。
だが、顎が滑る。
節と節の間を狙おうとしても、ムカデは無数の足を動かし、身体をくねらせて蟻たちを振り払った。
仲間が地面へ叩きつけられる。
足で踏み潰される。
牙で挟まれる。
それでも、蟻たちは退かなかった。
敵。
排除しろ。
巣を守れ。
匂いが命令を送り続ける。
自分の6本の足が、強く地面を蹴った。
真っすぐムカデへ向かう。
敵の頭がこちらを向く。
牙が開いた。
自分は直前で進路を変えた。
牙が空を切る。
その横を駆け抜け、ムカデの身体の側面へ回り込む。
脚の付け根へ顎を食い込ませた。
硬い。
別の蟻の殻より、はるかに厚い。
それでも顎へ力を込める。
殻の隙間が軋んだ。
ムカデの身体が激しく動く。
自分は振り落とされるより先に顎を離した。
地面へ着く。
すぐに走る。
上からムカデの足が降りてきた。
横へ跳んで避ける。
仲間たちが次々と身体へ取りついている。
背中を覆う殻には顎が通らない。
だが、脚の付け根なら傷つけられる。
触角なら切断できる。
柔らかな腹側へ回り込めれば、もっと深く噛みつける。
なぜそれが分かるのかは知らない。
ただ、知っていた。
自分は再びムカデへ向かった。
今度は後ろから近づく。
何本も並ぶ足の動きを見ながら、その隙間を駆け抜ける。
一歩でも遅れれば踏み潰される。
だが、自分の足は他の蟻より速かった。
降りてくる足の直前を通り抜ける。
身体の末端近くへ噛みついた。
顎を閉じる。
硬い殻の継ぎ目へ顎が食い込む。
ムカデが身体を丸めた。
後方の足が自分を掻き落とそうとする。
顎を離す。
跳ぶ。
地面へ着くと同時に走り出す。
敵の動きが、先ほどよりわずかに鈍くなっていた。
自分が噛みついた足の一本が、不自然な方向へ曲がっている。
仲間たちも、同じ場所へ集まり始めた。
一匹が噛みつく。
別の一匹が、その隣へ噛みつく。
さらに仲間が重なる。
ムカデの足が、根元から引きちぎられた。
強い刺激臭が広がる。
ムカデが暴れた。
身体を大きくくねらせ、周囲の蟻を弾き飛ばす。
自分も地面を転がった。
すぐに立ち上がる。
右の中足に痛みがある。
だが、まだ動くことはできる。
ムカデは逃げようとしていた。
無数の足を動かし、枯れ葉の下へ身体を向ける。
逃がしてはならない。
このまま巣へ続く匂いの道をたどられれば、仲間たちの住処まで近づくかもしれない。
警戒の匂いが、さらに強くなる。
追え。
噛みつけ。
止めろ。
自分はムカデの前方へ回り込んだ。
速さなら負けない。
大きく弧を描き、敵の頭より先へ出る。
ムカデが進路を変えた。
自分も走り、再びその前へ回る。
牙がこちらへ向けられた。
自分は逃げなかった。
ぎりぎりまで敵を引きつける。
牙が迫る。
地面を蹴った。
横へ跳ぶ。
ムカデの頭が、自分を追うように傾いた。
その瞬間、反対側にいた仲間たちが一斉に飛びかかった。
触角。
脚の付け根。
頭と胴体の継ぎ目。
無数の顎が、殻の隙間へ食い込んでいく。
ムカデが頭を振った。
仲間が何匹も吹き飛ばされた。
だが、離れない者もいる。
自分も地面から駆け戻り、頭の後ろへ噛みついた。
強靭な顎へ、残る力を込める。
殻が軋む。
わずかに亀裂が入る。
ムカデが身体を反らした。
頭がこちらへ向く。
本能が危険を告げていた。
顎を離せ。
すぐに走れ。
だが、自分は離れなかった。
ここを噛み砕けば、敵を止められる。
巣を守れる。
仲間が生き残る。
その命令だけが、身体を支配していた。
顎へ、さらに力を込める。
殻の亀裂が広がった。
敵の身体が大きく震えた。
次の瞬間、ムカデの牙が自分の腹へ突き刺さった。
鋭い痛み。
身体の中へ、焼けるような熱が流れ込んでくる。
毒。
本能が、その危険を告げた。
それでも顎を離さない。
噛め。
砕け。
敵を止めろ。
自分は残るすべての力を顎へ込めた。
乾いた音がした。
ムカデの頭と胴体をつなぐ殻が割れた。
仲間たちの顎が、その隙間へ集中する。
ムカデが激しく身体をくねらせた。
自分の身体は牙から外れ、地面へ投げ出された。
立ち上がろうとする。
足が動かない。
毒が身体を巡っていた。
視界の端で、ムカデが暴れている。
何本もの足が地面を掻く。
身体が一度、大きく反った。
やがて、その動きが鈍くなっていく。
仲間たちは離れない。
殻の隙間へ噛みつき続けている。
ムカデの足が、一本ずつ止まっていく。
最後に長い触角が地面を叩き、そのまま動かなくなった。
敵。
排除。
成功。
周囲へ新たな匂いが広がった。
ムカデは死んだ。
自分たちが倒した。
だが、喜ぶ者はいなかった。
仲間たちはすぐに動き始めた。
死んだ仲間を運ぶ者。
ムカデの身体を調べる者。
再び甲虫の死骸を解体する者。
巣への危険がなくなれば、次の仕事へ移る。
それが蟻の生き方だった。
自分は地面に倒れたまま、その匂いを受け取っていた。
働け。
運べ。
巣へ戻れ。
身体を動かそうとした。
6本の足のうち、動いたのは一本だけだった。
もう一度、力を込める。
身体は起き上がらない。
腹には、ムカデの牙で開けられた傷がある。
そこから体液が流れ出していた。
毒も身体を蝕んでいる。
終わりが近い。
それでも、巣は守られた。
仲間たちは生きている。
大きな敵は、もう動かない。
それでいい。
自分が死んでも、別の働き蟻が食料を運ぶ。
別の働き蟻が巣を守る。
自分は、無数にいる働き蟻の一匹にすぎない。
薄れていく感覚の中で、何かが頭の奥へ浮かんだ。
山の木々。
大きな背中。
節くれ立った手。
低く穏やかな声。
――必要以上に獲るな。
――獲った命は、一つたりとも無駄にするな。
誰の声なのかは分からない。
それでも、その声を聞くと不思議と落ち着いた。
ムカデの死骸へ、仲間たちが集まり始めている。
硬い殻の隙間から肉を切り取り、巣へ運ぶのだろう。
倒した敵も、巣を生かす食料になる。
無駄にはならない。
最後にそう感じたとき、自分の身体から力が抜けた。
◇
『個体の死亡を確認しました』
感情のない声が響いた。
その声とともに、失われていた記憶が戻ってくる。
人間として16歳で死んだこと。
最初の蟻生を寿命まで生きたこと。
2度目の蟻生で蟻地獄に捕食されたこと。
強靭な顎と脚力強化を選んだこと。
そして、3度目の蟻生で仲間とともにムカデを倒したこと。
「倒せたのか」
ムカデは、自分よりはるかに大きかった。
一匹では到底かなわない相手だった。
だが、仲間たちと力を合わせることで倒すことができた。
そして自分も、その直後に死んだ。
暗闇の中に、白い文字が浮かび上がった。
――――――――――
【第3生 集計結果】
種族:蟻
役割:働き蟻
生存期間:180日
死亡原因:ムカデの毒および外傷
討伐対象:ムカデ
獲得EP:10
獲得SP:3
――――――――――
【現在の保有値】
EP:11
SP:4
――――――――――
生きた日数は、これまでで最も短かった。
寿命まで生きてはいない。
日々の働きにも、特別な出来事はほとんどなかった。
そのため、得られたSPは3だけだった。
だが、EPは一気に10増えていた。
自分よりはるかに強大なムカデを倒した。
一匹の力ではなかったとしても、その討伐へ大きく貢献した。
その経験が、進化点として認められたらしい。
『進化先が解放されました』
白い文字が切り替わった。
――――――――――
【選択可能な進化先】
蜘蛛 必要EP:8
ムカデ 必要EP:10
カブトムシ 必要EP:12
【保有EP】
11
――――――――――
初めて、働き蟻以外の生物が選択肢へ現れた。
蜘蛛。
8本の足を持ち、糸や毒を使って獲物を捕らえる生物。
ムカデ。
無数の足と毒牙を持つ捕食者。
先ほどまで自分たちが戦っていた、蟻よりはるかに強大な存在。
どちらも、今すぐ選ぶことができる。
EPを8使えば、蜘蛛になれる。
EPを10使えば、ムカデになれる。
蟻としての小さな身体から抜け出し、これまで恐れていた捕食者の側へ進むことができる。
だが、最後の選択肢が目に留まった。
カブトムシ。
必要EPは12。
保有しているEPは11。
わずか1だけ足りない。
その身体は硬い甲殻に覆われている。
大きな角を持ち、蟻よりもはるかに強い力で敵を押し退ける。
毒牙はない。
蜘蛛の糸もない。
それでも、硬く強い身体は魅力的だった。
病に蝕まれた人間の身体。
簡単に踏み潰される蟻の身体。
砂の罠から逃げられなかった身体。
ムカデの牙に貫かれた身体。
何度も、身体の弱さによって死んだ。
だからこそ、硬く強い身体に惹かれた。
あと1。
あと1EPを手に入れれば、カブトムシを選べる。
ここで蜘蛛やムカデへ進化すれば、保有しているEPを消費する。
次にカブトムシへ到達するには、再び多くのEPを集めなければならないかもしれない。
進化を急ぐ必要はない。
もう一度、蟻として生きる。
次の生でEPを一つでも増やせば、カブトムシへ届く。
『進化先を選択してください』
「進化しない」
『EPを使用せず、同一種族へ転生しますか』
「そうだ」
蜘蛛にもなれる。
ムカデにもなれる。
それでも、今は選ばない。
目指すのは、その先だ。
『技能を選択してください』
表示が切り替わる。
――――――――――
【強化可能技能】
強靭な顎 Lv.1 → Lv.2
必要SP:4
【保有SP】
4
――――――――――
保有しているSPは4。
必要なSPもちょうど4だった。
強靭な顎をLv.2へ強化すれば、さらに硬い物を噛み砕けるようになる。
顎そのものの強度も増し、噛みついた相手へ与える傷も深くなる。
ムカデを倒した最後の一撃。
あの硬い殻を砕けたのは、強靭な顎があったからだ。
次も蟻として生きるなら、この力をさらに伸ばしたほうがいい。
「強靭な顎をLv.2へ強化する」
『SPを4消費します』
『技能――強靭な顎がLv.2へ上昇しました』
――――――――――
【保有技能】
強靭な顎 Lv.2
脚力強化 Lv.1
【現在の保有値】
EP:11
SP:0
――――――――――
『転生先――働き蟻』
『保有技能を継承します』
『第4生を開始します』
白い光が暗闇を満たしていく。
蜘蛛やムカデへ進化できること。
あと1EPでカブトムシへ届くこと。
カブトムシを目指すと決めたこと。
その意思は、次の生へ残らない。
それでも、EPは消えずに残る。
技能も残る。
強くなった顎と、素早く動ける足。
積み重ねたものだけを、次の自分へ託す。
光が意識を飲み込む直前、俺は願った。
次の生では、あと一歩だけ先へ進めますように。
その願いさえ忘れ、俺は再び働き蟻として生まれ落ちた。




