第9話 鑑定してもらいます
僕は紙を見ながら、スキルをもっともらった気がするんだけど……と、ナラクへの道を転がっていた時のことを思い出した。
もしかすると、激しく動いている魂に加護を与えるのって難しいのかな? 僕から外れてしまったスキルがあるのかもね。
せっかくだから、全部もらいたかったなあ……と、よくばりんぼの僕は思ってしまう。
「この『S』ってやつは、特別な効果があるスキルのような気がするぜ。こうさ、隠れたすごい力を秘めているんじゃねえかな?」
ミケランジェロくんが、嬉しそうに言った。そういうのが好きそうだよね。
「俺だったら、まずは『S転がり』をじっくりと試していくな。さっそく訓練所に行こうぜ」
「訓練所?」
「おう、この建物の地下に、武術や魔法の訓練ができる広くて頑丈な部屋があるんだ。ここの領主様はよう、すげえ知恵が回るから、冒険者を徹底的に訓練して強くするために、そういう施設にがっつり資金を投入してくれたんだよ」
「そうなのよ。他の領地ではあり得ないほどに、街の発展のためにいろんな計画を立ててお金を使ってくれたの。だから、冒険者の間ではとても尊敬されているわ……ええ、とてもね」
アグネスさんの語尾が、なぜだかとても弱くなった。
え? 立派な領主様ってことでいいんだよね?
テオドールさんも「まあ、結果を見れば……素晴らしい領主様だ」と、含みのある言い方をしている。
「とにかくさ、登録が終わったら、まずはコロンの実力を見てみようぜ。実戦に出るのはそれからだ。怪我したらつまんねえし、やる気が失せるからなあ」
「明日にはさっそく初心者のための講習を受けろ。エルザさんに言えば大丈夫だ。ギルドの図書室に行くと、この辺りにいる魔物の図鑑があるから、それにも目を通しておけよ」
「武器の適性もチェックしましょうね。スキルがなくても、手に馴染む武器を使っているうちに新たに身につくこともあるのよ。攻撃スキルがないからといって、諦めることはないわ」
「うん、うん、わかった」
僕は指を折りながら、みんなのアドバイスを頭に入れようとがんばった。すると、きょんたが僕の膝に乗り、僕の左腕にあるごついデザインの腕輪を前脚で叩いた。注目しろと言っているみたいだ。
「……あっ、そうか! 装備の点検もしておいた方がいいんだね」
この腕輪、天界の皆さんが用意してくれたものだから、かっこいいだけじゃなくてなにか特別な機能があるんじゃないかと思うんだよ。
「きょんきょん」
今度は服をくわえてひっぱる。
「この服も、加護がついてるかもしれないの?」
「きょん!」
「なるほどね。鑑定できるところで調べた方が良さそうだ」
さすがは天狐、ちっこくても知恵が回るから頼りになるね。
「教えてくれてありがとうね、きょんた」
「きょーん」
抱き上げて頬ずりすると、モッフモフでふわふわな毛並みが僕を癒してくれる。きょんたの一番の功績は、世界一可愛いことじゃない?
「お待たせしてしまって、申し訳ありません」
エルザさんが戻ってきた。なんとなくスッキリした表情だけど、ギルドマスターのイシューヴァさんがどうなったのかは怖いから考えないことにするよ。
「改めて、コロンさんのスキルですね。多くの場合、一番最初に出てくるスキルがその人によって大きな意味を持つことが多いです。しかも、こちらのスキルには『S』が付いていますから強力なものだと思われます。これは文字通りに転がるのが上手になる、というよりも、転がることによって生み出されるエネルギーが別のものに変換できるスキルなのでは、と考えられるのですが……いかがですか?」
あっ、なるほどね! 転がったら、最初にできた傷が治っていたり、防御力が上がっていたりした理由が説明できるね。
「そんな気がします、エルザさん、頭がいいですね」
「ありがとうございます」
エルザさんはにっこりして「冒険者ギルドで仕事をしているうちに、多くのスキルについて学ぶことができました。それでスキルの分析や鑑定など、様々な技術が身についたんです」と説明してくれた。
「魔法は魔力というエネルギーを変換して、様々な事象を引き起こします。コロンさんのはスキルですから、魔力を必要とせずに好きなだけ使えます。使いこなせれば、武器にも防具にもなりそうな、便利なスキルかもしれません」
『S転がり』以外のスキルは文字通りのシンプルなものらしいので、特に気にする必要はないとエルザさんに言われた。
僕は登録申込書のスキル欄に『S転がり』とだけ書くと、他の場所を埋めた。もちろん、きょんたのペット登録もする。
さらに、明日の初心者講習会にも申し込んで、僕は無事に冒険者になることができた。
「こちらのカードは身分証になります。他人には使えないとはいえ、紛失しないようにしてください。再発行には多額の手数料がかかります。ギルドの規約はこちらの小冊子をお読みください。ギルドはランク制になっていて、AからGまでありますが、コロンさんはまだ見習いの身分です。初心者講習を受けて、ダイヤモンド一家の皆さんと何度か現場に出てから、リーダーのテオドールさんが判断したタイミングでGランクに上がります」
強い魔物が相手だと命がけになるので、冒険者を守るためにも受けられる依頼は制限されているとのことだった。
幸いなことに、僕は見習いとしてダイヤモンド一家のパーティメンバーにしてもらったからいいけれど、通常は植物の採取仕事などをしながらギルドの研修を受けて、パーティメンバーを探して、ようやく魔物を狩ることができるらしい。
なので、最初のうちはお金がない。
ギルドの武器や防具をレンタルして、簡易宿泊所に泊まりながら、冒険者生活をスタートするのだ。
「なにか質問はありますか? わたしは新人窓口にいますので、後で聞きたいことができたら気軽に声をかけてくださいね」
「はい、ありがとうございます。この後地下にあるという訓練所に行きたいということと、持ち物の鑑定をしたい場合はどうすればいいのか、相談にのってもらえますか?」
「あら、鑑定ですね。大丈夫です、わたしにもスキルができたので、魔導具を使って鑑定することができますよ。専属受付なので、鑑定料はもちろん無料です」
エルザさんができる女性で助かるよ!
ということで、鑑定の魔導具を持ってきてもらって、僕のアイテムの鑑定が始まった。




