第8話 スキルがたくさん
「それでは、こちらの書類に記入をお願いします。それからここの欄に、ペットの種類と名前を書いてください。そうすると、タグが発行されますので……ご自分で書けますか?」
受付のエルザさんが、少し声を落として尋ねてくれたので、指で受付テーブルに名前を書いてみてから、僕も少し小さめに「たぶん書けます」と答えた。
転生しても、会話や読み書きに困らないように加護をもらえたみたいだ。
きょんたが捕まって毛皮にされたら困るからね、しっかりと登録をしておかなくちゃ。
「わからないところは空欄にして頂いてかまいませんが、こちらの欄に特殊技能を書いていただければ、コロンさんに適した依頼をお勧めすることができます」
「スキル……あっ、ここですね」
僕の得意なことは、ええと、なんだろう。転がり?
僕が考えていると、エルザさんが声をかけてくれた。
「スキルを調べたことがなければ、冒険者ギルド持ちで初回に限り無料で調べることができますよ。いかがですか?」
「調べたいです!」
「それでは、この札ををお持ちになって、向こうの受付に提出してお待ちください。そして、公表できる技能を申し込み書類に記入してください」
「ありがとうございます」
僕と見守るダイヤモンド一家の人たち(エヴァンさんは門番の仕事に戻っていった)が別の受付に移動しようとすると、エルザさんのところに来たお兄さんが「お待ちください」と声をかけた。
「エルザさん、ギルマスから、彼の専属になるようにという指示が来ました。新人受付はわたしが引き受けますから、彼についていてください」
「ギルマスが?」
エルザさんは彼から手渡された書類を読んでから「わかりました、それではお願いします」と席を立った。
「改めまして、コロンさんの専属になりましたのでよろしくお願いします。それではスキルチェックも専属のわたしが行いますね。こちらにどうぞ」
「はい、お世話になります」
エルザさんにさっきの札を渡してから、後に続いて建物の二階への階段をのぼった。
「エルザさん、ギルドの人たちの対応がとても丁寧で驚きました。それに、冒険者の人たちもとてもお行儀がいいですよね」
エルザさんは「ありがとうございます」と微笑んだ。
「問題を起こした冒険者はすぐに資格を停止もしくは剥奪されて、依頼を受けられなくなります。そうすると、この街で暮らしていくことはできませんからね。ギルド職員の目が届くところでは、大抵の方はおとなしくしていますよ」
冒険者ギルドって、かなり力があるみたいだね。
「イシューさんはおっかないしな。暴力で解決しようとする不穏な輩は、悪さができねえようにイシューさんに潰されて街の外に放り出されるんだぜ」
ミケランジェロくんが説明してくれる。
「……それって大丈夫なの?」
イシューさんがワイルドなのは、髪型だけじゃなさそうだよ。
でも、なにを潰されるのかな?
「大丈夫じゃねえな。無事に他の街にたどり着くか、魔物に食われるか、ってとこだ。よその街に行っても冒険者ギルド間で連絡を取り合っているから、悪行はバレてる。ここほど厳しいギルドはないだろうけど、そうなると再登録は難しいぜ」
「さらにこの街では騎士団も目を光らせている。ギルマスのイシューヴァさんと、騎士長のトライザーさんがいるから、この街の治安状況はかなりいいんだ」
テオドールさんが「ルアンはこの国でも屈指の安全な街だし、まともな働き方をすれば稼ぎがよくなる。悪質な冒険者には居にくい場所だが、ルールを守れる冒険者はどんどん腕をあげることができるぞ」と教えてくれた。
「ルアンの領主であるスタインデール伯爵があのふたりを引っ張ってきたのは、英断だったな。この街の発展は、伯爵の力によるものだ」
「へええ、すごいやり手の立派な領主様なんだね」
「……まあ、な」
テオドールさんは、なぜがちょっぴり微妙な表情になった。
「こちらの部屋でどうぞ。コロンさん、結果は最初はコロンさんだけにお伝えしましょうか? スキルはその人の判断で、パーティメンバーや一般に公開するかどうか決めます。もちろん、すべてを秘密にしておく方もいらっしゃいます」
「俺たちが後ろ盾になるからって、全部手の内をさらすことはないぞ」
テオドールさんも、そう言ってくれた。
恥ずかしいスキルなんてついてないよね? ついていたら内緒にしちゃおうかなあ……。
「それでは、この板の上に血を少しだけ垂らしてから、手のひらを当ててください」
「えっ、血?」
「ここのボタンを押すと、自動的にできますよ」
「はい」
恐る恐る指先で押すと、瞬間的に針が出たのかちくっとしてから、板が光り出した。
「充分な血が取れましたね。では、手のひらをどうぞ」
僕は右手をパーにして板の上に乗せた。
すると、板の上から紙が出てきた。なにもない空中から現れた紙に驚いていると、エルザさんの指が紙をつまんだ。そして「正確に作動したか、わたしが拝見することになっているんですけれど大丈夫ですか? もちろん内容は他の方には、ギルドマスターにも漏らしません」と言った。
「こちらに契約魔法の書類がありますので、死んでも内容を話せないようにできます」
「死ぬ前に喋っちゃっていいよ!」
命懸けで秘密を守ります、みたいなやつは怖いってば。
「いや、むしろ契約した方がいいぜ」
ミケランジェロくんが言った。
「コロンは『神の落とし子』っつー特殊な立場だから、その情報を知りたがる悪人が現れるかもしれないじゃんか。そういう時にさ、万一エルザさんから聞き出そうとしても、契約魔法が発動するのを見て相手が引くだろうよ。契約魔法を突破するのは難しいんだ。だから、荒事に不慣れな女性には、かえって安全になる」
「なるほど。ミケランジェロくん、頭いいね!」
「まあな」
満更でもない顔になる。
「それでは、先に契約をしてしまいましょう」
僕とエルザさんは『コロンのスキルチェックでわかった内容を、コロン、テオドール、アグネス、ミケランジェロ以外には漏らさない』という契約書にサインをした。
テオドールさんに「いいのか?」と確認されたけれど、なにも知らない新人冒険者を引き受けてくれたダイヤモンド一家の人たちには、むしろ僕になにができるのかを知っていて欲しかったからだ。
「それでは、拝見しますね」
いよいよ僕のスキルの発表だ!
ワクワクしながら紙を見る。
最初に目に入った『S転がり』は、すごい転がりかな。
それから『幸運』『人脈』『言語の習得』『元気』『健康』『成長補正』だ。
「攻撃スキルがねえな」
ミケランジェロくんが呟いた。
「なんだか商人にも向いているように見えるな」
これはテオドールさんの感想。
「わたしは冒険者向きだと思うわ。『幸運』『元気』『健康』は冒険者にとても役に立つスキルだと思う。それに……」
アグネスさんが、少し考えてから言った。
「コロンが霊峰のてっぺんから転がり落ちてきて、服も破れていないしかすり傷ひとつ付いていなかったわよね。これは『S転がり』スキルの効果だと思われるわ。つまり、防御力が上がるスキルってことじゃない?」
なるほどね、ただ転がるのが上手くなるスキルじゃないんだね。
「……あの、よろしいですか?」
エルザさんが、顔を引き攣らせながら言った。
「こんなにたくさんのスキルをお持ちだなんて、コロンさんっていったい……」
「こいつは『神の落とし子』だぜ。霊峰のてっぺんに現れて、そこからコロコロ転がって草原まで来たところを俺たちに発見されたってわけさ」
「あら、ギルマスから伝わってなかったの?」
ミケランジェロくんとアグネスさんにそう言われて、エルザさんは「伝わってなかったです! もう、こんな大切なことをどうして! ちょっと失礼します!」と叫ぶと、顔を真っ赤にして出て行った。
「あー、あれはギルマスが叱られるやつだなー」
「仕方がない、あれはイシューさんが悪い」
「自慢のモヒカン、怒ったエルザさんに潰されそうだわね」
ということで、僕たちは部屋にあったソファにゆったりと座り、改めてスキルの書かれた紙を見た。




