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転がりぼっちゃん〜もふもふと『転がり』ですべて解決する!〜  作者: 葉月クロル


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7/11

第7話 冒険者デビュー、楽しみです

 騎士のトライザーさんはギルマスのイシューヴァさんに「領主に連絡してくる」と言うと、門番のエヴァンさんになにやら指示を出した。エヴァンさんが真面目な顔で「全力で任務を遂行します」と答えると、トライザーさんはその場から去って行った。


 エヴァンさんがどこからかマントを持って来て、僕に羽織るように言った。


「その異国の服装だと目立つから、登録が終わるまではこれで隠しておいた方がいいぞ。可愛い狐は……」


 今はなぜかテオドールさんの頭の上で、帽子のふりをしているきょんたを見て「テオドールが面倒を見ているなら大丈夫だな」と頷く。


 背が高くてたくましいイケメン冒険者なのに、頭に子狐を乗せている……なんだかミスマッチだけど、テオドールさんがとても満足そうなので、そのまま乗せておいてもらおうかな。

 アグネスさんが「兄さん、ずるいわ。わたしもきょんたくんを乗せたいのに」と唇を尖らせているけれど、テオドールさんは「いや、万一に備えて俺が預かるから」と譲らない。

 テオドールさんって少しシスコン気味だと思った(でも、こんなに可愛い妹がいたら、仕方がないかな)けれど、アグネスさんよりも子狐を選ぶとは……モフモフの魅力、恐るべし! だよね。


「それではイシューさん、ギルドに行きましょうか」


「そうだな」


 どうやらエヴァンさんが冒険者ギルドまで護衛をしていってくれるらしい。

 エヴァンさん、イシューヴァさん、ダイヤモンド一家に囲まれるようにして、僕は門の脇の建物を出て街の中へと向かった。


「しっかりと整備されてますね」


 驚いたのは、広い石畳で馬車が通りやすい道が整備されていて、並んでいる建物も石やレンガといった建材による頑丈そうなものだったことだ。

 正直、魔物の脅威がある世界だということで、もっと荒れているというか、狭くてゴミゴミした街なのかと思っていた。街路樹こそ植えられていないけれど、建物の前にはところどころに鉢が置かれていて花が咲いている。


 街の中心部に向かうと、また石の壁が見えた。

 アグネスさんの説明によると、あの先が貴族街で、領主の住むお屋敷も壁の中にあるらしい。


「身分の高い人は二重の壁によって守られている、というわけよ」


「ふうん、やっぱり身分差がある世界なんだね。王様もいるの?」


「いるわ。王族や大貴族は王都の宮殿に住んでいるわ。他の貴族は自分の領地に住んでいるけれど、王都に別邸があって、一定期間は王都に滞在して過ごすのよ」


「そうなんだ」


 僕には関わりがない話だけどね。


「わたしたち冒険者は、この国の国民ではないから厳密には王に頭を下げる必要はないけれど……まあ、王族に会うこともまずないかな。よほど腕があって冒険者として名をあげると、表彰されることがあるくらいね」


「へえ」


「コロンも、『神の落とし子』という身分のまま冒険者になると、国民ではないから貴族や王族のいうことに従う必要はないの。騙されないように気をつけるのよ」


 アグネスさんは声をひそめて「コロンの転がり能力は珍しいし、もしかすると利用価値の高いものかもしれないから。詳しいことはあまり広めない方がいいと思う」と僕にアドバイスしてくれた。


 アグネスさんはとても知識がある。

 田舎の村からテオドールさんと出てきたといっているけれど、そんな地方でも勉強できる環境があるのだろうか?

 それに、なんとなく、品があるんだよね。

 冒険者といえば荒くれ者もいるだろうし、女の子でもワイルドに振る舞って舐められないようにしなければやっていけないと思うんだけど、もしかすると元はお嬢様だったりしてね。


 アグネスさんは、歩きながら説明を続ける。


「神殿は貴族の壁の向こうにあるわ。でも、教会と、併設する孤児院は壁の外側にあるの」


「あー……なるほど、そういうことね」


 ミケランジェロくんが「けっ」と言って顔をしかめた。嫌なことを思い出してしまったのだろうか。

 気配を察知したのか、帽子になっていたきょんたがテオドールさんの頭から飛び降りてミケランジェロくんの肩に移り、優しく「きょん」と鳴いた。

 さすがは天狐、優しい気遣いだね。


 こんなにモフモフした茶色いちっちゃな可愛い生き物にそんな風に鳴かれて、気分を損ねたままでいられる人はいない。ミケランジェロくんは「ふへっ」と笑った。すっかりにこにこ顔だ。

 そうすると、輝くような美少年になるものだから、すれ違う人たちはミケランジェロくんの顔に目を奪われてしまう。おかげでマントを着た謎の地味少年(僕のことだよ)は意識にも残らずに済みそうだ。


「コロン、ここがギルドだ」


「うわ、大きい」


 僕は案内された建物を見て驚いた。

 なんか、市役所みたいに大きくて立派な建物だよ。窓からすると四階建てのようだ。


「ちなみに隣はギルドの店と食堂、上の方が簡易宿泊施設で、その向こうが買取り所になっている。冒険者には割引があるぞ」


「僕の想像していたギルドと違う」


 なんかこう、西部劇に出てくる酒場みたいな建物の中に、ちょっとガラの悪いか人とかお酒の入った人がいて「おい、よわっちいやつがなにしに来やがった?」とか絡んできたり「ちっと先輩に酒でもご馳走しろよ。冒険者の心得を教えてやる」とか言ってお金を巻き上げようとする、なんてことが起きる場所だと思っていたのに。


 大きく解放された入り口の中に入ると、たくさんの受付窓口が並んでいて、それぞれに冒険者らしい人たちが整然と並んでいる。門番のエヴァンさんをちらっと見てる人がいる。エヴァンさんを見上げると(この人も背が高くてがっちりしてるんだよ)「俺は衛兵だから、気になるんだろうよ」とニヤリとした。

 急に警察官が来たようなものなのかな。


「おまえはこっちだ」


 イシューヴァさんが親指をくいっと動かした。

 窓口にはそれぞれ『総合案内』とか『一般受付』とか『特別依頼受付』『依頼申し込み』などの看板が出ていて、僕はその中の『新規受付及び相談』というところに連れて行かれた。


「エルザ、新人の登録をしてくれ。ダイヤモンド一家の見習いとしての登録も頼む。コロン、初心者の相談に乗ってくれる担当のエルザだ」


「ギルドマスター!」


 エルザさんは、若いお姉さんだった。彼女はイシューヴァさんを見て目を見張ったけれど、すぐに「わかりました。エルザです、よろしくお願いします」と落ち着いた挨拶をしてくれた。


「僕はコロンです。それから」


 僕は肩に戻ってきたきょんたを見せて「相棒の子狐のきょんたです。この子にも手続きが必要ですか?」と尋ねた。


「契約している魔物ですか?」


「いいえ、魔物じゃないです」


「では、念のためにペットの印となるタグを発行しましょう。野生の狐だと勘違いされて捕まってしまうと困りますからね。ギルドショップに首輪が売っていますので、よく見えるようにそこに付けてください」


「わかりました」


「きょん」


 きょんたがきちんとお返事をしたので、エルザさんが「まあ、可愛い」と笑った。

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