第6話 冒険者になりたいです!
トライザーさんはミケランジェロくんに向かって言った。
「『神の落とし子』としてコロンが現れたことを神殿に隠していると、間違いなく後で面倒なことになるだろう。なるべく早いうちに、本人の口から冒険者になる道を選ぶと、はっきり言わせた方がいい」
騎士のトライザーさんは、怖い表情をしているけれど、どうやら僕たちの意思を尊重してくれるいい人のようだ。
「神殿には力があるし、ミケランジェロが嫌うような輩がいないとは言わん。だが、まともな者もそれなりにいるだろう」
「んなこたぁわかってるぜ! でも俺はどうしても神殿を信用できねえよ」
「……ミケランジェロはあまり表に出るな。余計ないざこざを神殿との間に起こすな」
冷静なトライザーさんに、ミケランジェロくんがくってかかる。
「だがよう、こいつはまだこの世界に来たばかりだっつーし、見るからに人の良さそうなおぼっちゃんじゃねえか。付け入る隙を見せたら、食い物にしようってやつがわんさか寄ってくるに違いねえだろうが」
「ミケ、落ち着け」
テオドールさんが、ミケランジェロくんの頭をわしっとつかんだ。
「コロンを守りたい気持ちはわかるが、過保護にし過ぎるのはこいつのためにならないぞ。そして、おまえはもっと人を頼ることを覚えろ」
彼はミケランジェロくんの頭をぐらんぐらんするほど撫でた。
「言っただろう、ダイヤモンド一家がコロンの後ろ盾になるって」
「そりゃあ、テオの兄貴が気にしてくれるんだったら……でも」
「ミケランジェロくん……」
僕を見るミケランジェロくんの目の奥をのぞきこんでわかった。彼は本当の本気で僕のことを心配してくれているんだ。
今日、会ったばかりなのに。
僕は、ちょっとワイルドが過ぎて口が悪いけれど、僕なんかよりもずっと人がいいミケランジェロくんの手を握って言った。
「ありがとう、ミケランジェロくん! でもね、僕のためにミケランジェロくんが嫌な思いや辛い思いをして欲しくないよ。僕はちゃんと、神殿には行きませんって断れるから大丈夫。どんな人にだってはっきりと断るよ。僕は冒険者になる。そして、ミケランジェロくんと一緒にウサギを狩りたいんだ」
ミケランジェロくんは驚いて僕を見た。
「僕はたくさん練習して、強くなって、ミケランジェロくんを神殿から守るよ! 悪い人をミケランジェロくんに近寄らせないから!」
「なっ、おまっ、それは……」
彼は真っ赤になった。
「お……おう! おう! 言ってくれるじゃねえか! この俺を守るほど強くなるって? そうだな、それじゃあまずは一緒に冒険しようぜ! ウサギもネズミもモグラも、他にももっと強い魔物だった狩れるようにしてやるからな。その先は、クマとか、なんなら竜とかもだ!」
「うん、よろしくね。竜は凄そうだね。でも、それくらい強くなるよ」
「俺に任せろ。それで、神殿のやつに絡まれたら、ふたりでけちょんけちょんにしてやろうぜ!」
「おう、けちょんけちょんにしてやろうぜ!」
僕はすごくワイルドに返事をして、ミケランジェロくんと「うおおおおおおーっ!」と雄叫びをあげた。
アグネスさんが「兄さん、アホが増殖しちゃったわ」とため息をついた。
そこへ、新たな男の人が現れた。
「なにを盛り上がってるんだ、それより『神の落とし子』が現れたって? ……まさか、このぼっちゃんか?」
「あっ、モヒカンエルフだ」
「なんだこの失礼なガキは!」
いや、だって、あなたそのまんまモヒカンエルフだよね?
背が高くてすらっとして、ちゃんと筋肉もついてる細マッチョで、彫刻のモデルみたいに整った顔をしているのに、ものすごく美形なのに、金髪がモヒカンカットだよ!
耳の先がとがっていて眼は濃い緑色をした『森からやってきた完璧な森人エルフ』って見た目なのに、モヒカンカットだよ!
「どうやって髪を逆立ててるんですか?」
「毎朝スライムジェルで固めて、温風でセットを……いや、俺の髪型はどうでもいいだろうが」
「うわあ、ワイルドだな。世紀末っぽくてかっこいいなあ」
「よし、おまえはいいやつだ」
男の人はなぜか友好的になり、握手をしてくれた。
「おまえのかぶっている帽子もなかなかセンスがいいぞ。その尻尾風の飾りが垂れているのが野生味があっていいと思う」
「あっ、これは帽子じゃなくて狐なんですよ。きょんた、皆さんに挨拶して」
「きょん」
アグネスさんに帽子扱いされたから、その気になって偽装していたらしいきょんたが、僕の頭の上で座り直して挨拶がわりに鳴いた。
門番のエヴァンさんと、騎士のトライザーさんと、モヒカンエルフさんが驚いて目を見張った。
「帽子じゃなかっただと? このベテラン門番の目から逃れるとは、たいした狐だぜ……」
「完全に擬態していたな。不覚にもすっかり騙されてしまった。魔物ではなさそうだが、それは特殊な能力を持つ獣なのか?」
「生きているとはイカした帽子だぜ! 眷族として契約しているなら、きちんとギルドに申請するように」
きょんたは「きょんきょんきょーん」と調子良く鳴いた。
「この子は僕の相棒の、子狐のきょんたです。特技は……モフモフして可愛いことです。抱っこした時にあまりぎゅっとすると苦しくなるので、やめてあげてね。よろしくお願いします」
「きょんきょんきょんきょんきょーん」
僕の肩に移ったきょんたが、僕の言うことに同意するように鳴いてからちょこんと頭を下げた。
「可愛いわねえ……」
すっかりきょんた贔屓になったアグネスさんが、目をハートにしてきょんたを見ている。
「おい、のんきになごんでいる場合じゃないだろう。コロン、この人は冒険者ギルドのマスターのイシューヴァさんだ。イシューさん、早く手続きを頼む」
テオドールさんは僕の肩からきょんたをつかみ上げると、自分の頭に乗せながら言った。
モヒカンエルフはギルマスさんだったよ。
「ワイルドで強そうだと思ったら、ギルマスさんだったんですか。僕は冒険者ギルドの保護下に入ることを選びますので、ギルドへの登録をお願いします」
「なかなか見どころのある落とし子じゃないか! おっと、我々としては大歓迎なんだが……本当にいいのか? ミケがなんだかんだ言ったんだろうが、神殿預かりになれば穏やかに暮らせる可能性もある。うちは荒事専門の生活になるぞ。採取をメインにして暮らすという生き方もなくはないが、だいたいは魔物を狩るという暴力的な仕事に携わることになる。それを承知で言っているんだな?」
ミケランジェロくんが、無言で僕の背中に手を当ててくれた。
アグネスさんが「霊峰から単独で、しかも無傷で転がってこられる能力を持つのよ。これは期待の新人ってことよね」と、冷静に後押しをしてくれる。
テオドールさんが「うちのパーティで、一から鍛えて一人前に育ててやる。覚悟しておけよ」と僕の頭を撫でてくれた。
僕はこんなにも頼りになる人たちに出会えたんだ。
こうなったら、この世界でワイルドに暮らしてやろうじゃないか!
「はい、承知しています。僕は冒険者になります!」




