第10話 役に立つアレ
エルザさんが持ってきてくれたのは、ケースに入ったメガネ型の魔導具だ。「こうやって使うんですよ」とかけて、僕に見せてくれた。ちょこっと『女教師』みたいだなと思ってしまう。
これはどこからの知識かな?
ナラクに落ちる時に、一般常識を投げてくれた管理者さんがいたみたいだけれど、その中に妙にマニアックなものが入っていたような気がするんだ。
「これは鑑定スキルを補助するための専門の魔導具です。よほどスキルを磨いていないと、通常の鑑定ではあまり情報を得ることができないんですよ。だから、鑑定の専門家もこのような道具を使用しています」
「なるほど、スキルの効果を増幅させる魔導具なんですね」
「はい。鑑定以外でも、元々才能がある場合には、魔導具を使ったことでスキルが身につくこともあります。そのため、ギルドでは保有する魔導具を有料で貸し出すこともあります。ギルド内での使用に限りますが、コロンさんもこれと思うスキルがあったら、魔導具を試してみるのもいいですよ」
「はい、わかりました」
僕がこの世界のことをなにも知らないので、エルザさんは丁寧に説明をしてくれる。助かるな。
「それではコロンさんが身につけているものを、上から順に鑑定していきますね」
エルザさんは、僕の服をじっと見つめてから、手元の紙に書き込んでいく。わかったことを写してくれているらしい。
「あの……」
「なんですか?」
エルザさんは、少しためらいながら言った。
「その、下着も鑑定……した方が……」
僕は冷静なふりをして「はい、お手数をおかけしますが、靴下とか、すべてを鑑定してください」と答えた。
「それでは、失礼いたします」
パンツを見せてごめんなさい。
でも、ズボンをずらしてちょこっとだけだから、セーフ! セーフだよ!
女教師風の綺麗なお姉さんにパンツを見られて動揺したとか、全然、ないからね!
で、見てもらってよかった。
僕の全身が特別製の防具で包まれていたよ。
「すべてに、『転がり対応』という効果が付いていて、転がることにより自動修復、新品化、自動洗浄が行われます。セット効果ですので常にすべてを身につけている必要がありますね」
「靴もですか?」
「靴もです。おそらく、通常の防具や衣服だと、『S転がり』スキルに対応できずに消滅する可能性が高いです」
それってつまり、うっかり転がると全裸に……トライザーさんに逮捕されちゃうよ……。
いつまでも新品同様に綺麗なままだと聞いて、僕はこの服を脱ぐのはやめようと決意した。アグネスさんが「変わったデザインの服だけど、とてもきちんとして見えるから、貴族や王族の前に出てもおかしくないと思うわ」って言ってくれたしね。
「それでは、その腕輪を鑑定してみますね」
エルザさんの指示で、僕は左腕ごと鑑定してもらった。
「……これは……なるほど」
しばらく鑑定していたエルザさんは、額の汗を拭いながら、ふう、と息をついた。
「とても不可思議で、力の強いアイテムのようです」
まずは、と紙を見せてくれた。
「この腕輪には銘がありました。少し意味がわかりにくいのが気になるのですが『ヤクニタツアレ』という名前の腕輪で材質は不明です」
「ええっ!」
僕は腕輪を見た。
まさかのこれが『役に立つアレ』だったよ。受け取り損ねたスキルだと思ったら、こうなっていたんだね。
どんな風に役に立つのかな、楽しみだ。
「それで、そちらの効力が『ふわっと身軽』でした。力のあるアイテムのようで、それ以上の具体的な情報を、わたしの能力では知ることができません。付けている者の運動能力を上げるのか、体重を減らすのか、そのあたりが不明なのですが、身体的な効果がありそうですよね。付けていて、なにか感じますか?」
「ううん……特に身軽になった感じはしません」
僕はソファーから立ち上がってその場でジャンプしてみた、
別に変わったことは起きない。
「そうですか。もう一度鑑定してもいいですか?」
「ぜひお願いします」
エルザさんが腕輪を見つめながら集中して、それを見守る僕たちも息を止めて集中していたら、大きなため息をついて肩の力を抜いたエルザさんが言った。
「見えました。所有者限定のなにかがあるらしいです。『*詳細は持ち主による鑑定時に伝えます』と出ているので、この魔導具を使って見てもらえますか?」
僕はメガネ型の魔導具を受け取って、かけてみた。
その辺を見回しても、視界には特に異常はない。見えたもののすべてに名前が出るとかいうやつを、ちょっと期待しちゃったのに。
で、腕輪を見ると、そこに文字が浮かんで見えた。
『コロンくんへ。魔力を扱える身体になっていると思いますので、腕輪に流してください。仲良くしてあげてね』
こ、これは、僕宛のメッセージだよ!
他の人には言わない方がいいかな。腕輪と仲良くなるって、どういうことだろうか。撫でたり話しかけたりすればいいの?
「腕輪には僕の魔力を流すようにって出ています」
「やってみてください」
「なにかあったら、俺が結界を張ってやるよ」
ミケランジェロくんが杖を構えて僕に頷いた。
「うん、お願いするね」
魔力、魔力、ええと……。
僕は腕輪に手のひらを当てて『ちちんぷいぷい、僕の魔力よ流れろ〜』と念じてみた。
「うむむむむ、流れろ〜、流れろ〜、魔力よ流れろ〜、あっ」
僕の身体からなにかがごそっと抜けて、手のひらから出て行った。今のが魔力だったようだ。
魔力を受け取った腕輪が温かくなり、光を放ち始めた。ぷるぷると振動もしている。
変化を見守っていると、腕輪が一枚の板に変形して僕から離れて、伸びたり切れたり丸まったりと目まぐるしく形を変えていく。
「わあ、すごいな。生きている金属だ」
かしょんかしょんという軽い金属がぶつかる音をたてながら、それらは複雑に絡み合うと……人に似た形になった。
金属でできた、手足が二本に頭と胴体があるそれは、僕たちの前にあるテーブルにかしょん、と着地した。
うわあ、腕輪が変形合体ロボットになったよ!
「きょ?」
子狐はテーブルに降り立つと、金属の匂いを嗅いで「きょん」と鳴いた。
「変な匂いはしない?」
「きょん!」
きょんたは頷くと、僕の肩に戻ってロボットを見た。ロボットは、自分の身体をペタペタ触って確認すると、僕の顔を見て首を傾げた。
「ええと……こんにちは、腕輪くん? 僕はコロンって言うんだけど、仲良くしてね?」
ロボットは二、三歩後ろに下がるようによろめいた。そして、僕に近寄ると左腕によじ登ってしがみつく。かしょんかしょんと軽い音を立てて、ここ、ここにいたんだよとアピールする。
「そうだよね、さっきは腕輪だったよね」
ロボットは大きく頷いてから腕から離れて、テーブルに戻るとかっこいいポーズをとった。
「なるほど、今は腕輪じゃない、と」
ロボットはそうそう、というようなジェスチャーをしてから、いくつかのポーズをとる。そして、僕の方を伺っている。
「……あっ、腕輪くんっていう名前じゃ合わないってことか」
それそれ! というジェスチャーをするロボットに、どうやら名前を付けなければならないようだ。
どうしようかな、ここにはテーブルと椅子と戸棚と……。
「きょ!」
僕のネーミングセンスに疑いを持つきょんたに鋭く注意されてしまった。
「わかったよ、かっこいいやつにするから……よし、君の名前は『ロボ』だ!」
ロボットは満足そうにかしょんとガッツポーズをとった。
気に入ってもらえてよかったよ。
「というわけで、僕に仲間が増えました。ロボをよろしくね。エルザさん、この子にも登録が必要ですか?」
「……アイテム扱いなので……ええっ、まさか金属ゴーレムとか? だとしたら魔物になるのかも……」
ロボは、魔物などとはとんでもございません、自分はコロンのアイテムですから、という意味のジェスチャーをしたけれど、彼の言いたいことは心が通じ合っている僕ときょんたにしかわからないみたいなので、代わりに説明をした。
ロボはふわっとジャンプすると、きょんたと反対側の僕の肩に着地してそこにいそいそと座った。器用に体育座りをしていて可愛い。
なるほど、『ふわっと身軽』なロボットなんだ。
仲間が増えて嬉しいな。




