第11話 検証をしなくちゃ
肩におさまったロボットの頭を撫でてから「さてと」というと、エルザさんとテオドールさんとアグネスさんが無言で目を逸らした。ミケランジェロくんだけは、ものすごくキラキラした瞳でロボを見つめていた。
「そういえばエルザさん、ギルドの登録料金は大丈夫なんですか?」
「……あっ、そうですね。通常なら小銀貨三枚の手数料がかかりますが、コロンさんは『神の落とし子』としてギルドが保護している関係で、仕事をして充分な報酬が得られるまでお貸しできることになっています」
そうか、お金も持たずにこの世界にやって来る人もいるんだね。それはほとんど罰ゲームだよ。
僕の場合は、不慮の事故で来ちゃったから、天界の人たちがいろいろ準備してお金も持たせてくれたから助かったよ。
「小銀貨三枚なら手持ちがあるので、今払っちゃいますよ。ちょうど金貨を崩したかったし」
ダイヤモンド一家に、ここに連れて来てもらった依頼の報酬を払わないとね。僕はお金のことはきちんとしたい性格なんだよ。
上着の胸ポケットから小袋を出すと、中から金貨を一枚出して「ここからお願いします」とエルザさんに渡す。そして、残りをまたポケットにしまっておく。
「ちょっとコロン、いいかしら?」
突然アグネスさんが迫って来たので、僕は「なに?」と言いながら後ろにのけぞる。アグネスさんは僕の胸を何度か手のひらで叩いてから「お金が入っている感触はないわ」と言った。
「エルザさん、コロンにもう一度鑑定させてみてもらえますか? この、ジャケットの胸の辺りを重点的に」
「そうですね、それがいいと思います」
エルザさんがケースから出して渡してくれたので、僕は再びメガネ型の魔導具を借りて、金貨をしまったポケットを鑑定する。するとそこには『コロン専用無限ポケット。時間停止、容量無制限』と表示がされた。
僕がそのことを伝えると、ミケランジェロくんが「ポケットがマジックバックになってんのかよ。そんなの初めて聞いたぜ」と言った。
「すげえ便利なもんがあってよかったじゃんか! 今度からウサギを狩ったらそこに入れておけばいいんだ。ほら、ちょっと入れてみろよ」
ミケランジェロくんが、彼のマジックポーチから死んだウサギの魔物を取り出した。
「えええええ、それをジャケットに入れるの?」
「大丈夫だって、一匹やるから入れちまいな。……ほら、使用者限定機能がついてて、俺じゃあ入んねえからさ」
ウサギの耳を持って、僕の胸ポケットに入れようとする。ミケランジェロくん、ワイルド過ぎるよ。
「やめてよ、死んだウサギを押しつけないでよ、変な汁が出てるじゃない」
「汚れない服なんだろ? 問題ねえじゃん」
「気持ち的に嫌なんだよう」
耳まで口が裂けて、殴られた頭がベッコリと陥没して、恨めしげに白眼で僕を見つめるウサギを胸に当てられ僕は半泣きになる。
肩にいたロボが、びっくりしてテーブルに落ちてしまった。かしょんかしょん言いながら僕の手首によじ登り、腕輪型になってぷるぷる震えている。
この子はデリケートなロボットらしい。
「そんな気の弱いことを言ってたら、立派な冒険者になれねえって……いて、痛えよ兄貴」
「新人をいじめるな」
テオドールさんが、ミケランジェロくんの頭を片手でつかんで引き離してくれた。
「コロンはこの世界に落ちてきたばかりで荒事に慣れていないんだから、もう少し気を遣え」
「冒険者になるなら、魔物にビビってたら駄目だろう?」
「いいから落ち着け」
テオドールさんが抑えてくれている間に、僕はエルザさんからお釣りを受け取って、ダイヤモンド一家への依頼料を払うことができた。
渋々ウサギをしまったミケランジェロくんが「それじゃあ、このまま地下に行くぜ!」とかっこよく親指を立てたので、エルザさんに別れを告げて部屋を出て、訓練場に向かった。
訓練場は、地下にある運動場といった感じの施設で、床は土で、周りはぐるっと僕の背丈くらいの壁で囲まれている。この壁は結界になっていて、ギルド職員がスイッチを入れると、天井も含めてドーム状の結界を張れるという。魔石を消費してお金がかかるから、普段はやらないけれど、料金を払えば対応してくれるそうだ。
結界を張らなくても、通常の魔法攻撃や武器による衝撃にはびくともしないくらいの強度があるらしいので、安心して訓練ができるけれど、大規模魔法の練習はしてはいけないそうだ。
って、当たり前だよね。
「最初は転がりの検証をするぜ!」
ミケランジェロくんがやる気満々に言いながら、きょんたを受け取って自分の頭に乗せた。狐の帽子は大人気だね。
「コロン、おまえのスキルは何が起こるかわからない。嫌な予感がしたら止めるからな」
テオドールさんに注意された。
「霊峰の森を通り抜けて無事なんて、絶対におかしなスキルに決まってるわ」
アグネスさんが酷い。
「では、まずは普通に転がってみます」
僕は前転した。
普通だな。
「すごいぞ、いい感じの回転だ!」
ミケランジェロくんがめっちゃ褒めてくれたので、さらに二回転してみる。回れば回るほど身体に馴染む気がするので、ダイヤモンド一家のみんなの周りをコロコロと転がってみる。
転がり終えるとすっくと立ち上がる。
「どう?」
「滑らかで光るものがある回転だったぜ!」
ミケランジェロくんには絶賛されたけれど、テオドールさんとアグネスさんは「どんな効果があるのか、よくわからんな」「魔力は感じなかったわ。魔法的な現象は起きないみたいね」と首を傾げている。
「やっぱ実戦でわかるんじゃねえか? よし、俺が殴るから転がってみろ」
「えっ、そんな突然、うわあっ」
ミケランジェロくんが杖を振りかざして攻撃してきた。
あれは、魔物の頭を一撃で潰すえげつない攻撃だよ!
僕は避けきれずに殴られて、そのまま倒れて転がった。確かに殴られた感覚はあるのに、痛みがまったくない。そのまま何度か回転してからすっくと立ち「急に殴るなんて酷いよ!」と抗議をする。
「ごめんごめん、でも俺は神聖魔法が得意だから死ななければ回復できるぜ」
「治せばいいってもんじゃないよ!」
「えー、いいじゃんかー」
ミケランジェロくんはちょっと感覚が変だと思うよ。
テオドールさんは、そんなミケランジェロくんに注意することもなく、僕に言った。
「攻撃が無効化されたようだな……アグネス、ちょっと斬ってみろ」
「斧で?」
「いや、ナイフがあるだろう」
「わかったわ」
いやいや、わかんないよ、テオドールさんまでどうしちゃったの? アグネスさんも、腰に刺してあるナイフを手にしないでよ!
「危ないからやめて、本気でやめてよ」
「大丈夫、ミケの回復魔法はとても効くのよ」
「そういう問題じゃないんだよおおおーっ、うわああああーっ!」
アグネスさんがとても素早く切りつけてきたので、僕は避けられずに切られて転がった。そして何回転もして訓練場の真ん中まで転がって、すっくと立った。
「酷いよ!」
「なんともない?」
「なんともないわけないでしょ、ナイフで切られて……あれ?」
切られた感覚はあったのに、痛くなかったし、切られた跡もない。
「アグネス、次は斧で」
「了解」
「了解しないでよやだやだ来ないでうわああああああああああああーっ!」
ダッシュで目の前に迫ってきたアグネスさんの斧が、僕の身体を上下にさようならさせた……と思ったのに、僕はそのまま転がって、訓練場の端をぐるっと一周してからアグネスさんの前に戻ってきた。
「アグネスさん! 怒るよ!」
「……すごいわね、コロン」
「え?」
「そのスキルを使えば、無敵のタンクになれるわよ」
「たんく?」
ええと、大きな盾を持って「ここは俺に任せて先に行け!」っていう人のことかな?
「あなたは防具の要らないタンクよ。どんな攻撃も転がって受け流す、回復する必要のない転がりタンク。パーティの防御の要ね」




