第12話 コロンの実力
テオドールさんが「コロンの役割が見えてきたな」と頷いた。
若いのに渋い。もしかして、年齢を誤魔化していたりして……うわ、にらまれた!
勘がいいよ、さすがは冒険者だね。
僕は憧れのキラキラ瞳で見返して『変なこと考えてないよ?』アピールをする。
テオドールさんは眉根を寄せてから続ける。
「どんな攻撃も無力化する転がりで、パーティの防御力が上がるし、マジックポケットというのか? いくらでも入る胸ポケットはとても役に立つ」
アグネスさんも、笑顔で言った。
「そうね、野営の荷物を持たずに活動できるのは助かるわ。温かい料理もそのまま収納できるんだから、かなり優秀よ。ミケのマジックバッグは獲物を入れるのでいっぱいになるし、時間停止はついていないからね」
料理と魔物の死骸を一緒のバッグに入れるのは、よくないと思います。
「いつも戦闘の時はテオドール兄さんとわたしが近接で、ミケが支援魔法と回復なのよ。だから魔物の攻撃を受けちゃってけっこう負傷が多かったのよね。コロンがタンクを引き受けてくれればずいぶん楽になって、もっと強い魔物も狩れそうだわ。わたしの斧がうなりをあげて実力を発揮できそうね、楽しみになってきちゃったわ」
こんなに可愛い女の子が怪我をしながら魔物と戦うなんて、やっぱりナラクは恐ろしい世界だ。
そして、新たな獲物への期待できゅんと胸を膨らませるアグネスさんが、頼もしいというか血の気の多さが恐ろしいというか……。
「なに?」
「なんでもないです」
だから、この兄妹は勘が良すぎるよ!
「攻撃をした後、魔物は一瞬無防備になる。そこへ俺とアグネスが全力の一撃を入れられるのは大きいぞ。手数が多い俺とは違って、アグネスは一発の威力があるから、余計に違ってくる。狙いが定まりやすくなるからな」
「ってーことは、俺が回復する必要が減るから、その分の魔力を前衛の底上げに使えるわけだな。いいじゃんか」
ミケランジェロくんが、いいじゃんいいじゃんと言いながらきょんたを持ってくるくる回った。遊び好きな子狐は大喜びだ。
どうやら、僕はこのパーティで役に立てるみたいだ。
転がりスキルの使い方がわかってほっとしたよ。
そして、防御力はばっちりということで、今度は訓練所にある木の武器を使って僕の攻撃力も確かめることにした……んだけど……。
「また空振りしちゃったよう」
「おまえ、マジで戦闘のセンスがねえな!」
ミケランジェロくんに、大笑いされながら背中を叩かれてしまう。僕は棒から手を離して「手が痛いだけだった」としょんぼりしながらマッサージする。
練習用の人形を棒で攻撃したんだけど、アグネスさんの言う通りに動いてがんばったのに、やってみてわかったのが、僕にはスイカ割りレベルの戦闘力しかないということだった。
つまり、不安定で、速度がなく、命中率が低く、スイカすらも割れない打撃だったんだよ……。
「きっと、最初は仕方ないんだよ、こういうのはやったことないんだから」
ちょっと言い訳をしてみる。
素振りとかやれば、加護が働いて急速に上達するかもしれないでしょ。
けど、ミケランジェロくんにあっさり否定された。
「いくら武器のスキルがないったって、ここまでとはなあ。練習しても無理なんじゃね? ま、諦めろ。いいじゃんか、おまえは転がるのが上手いんだからさ」
「えー、武器を持ってさっそうと戦うのが冒険者だと思ってたのになー」
「おっかなくてコロンにゃ刃物を持たせたくねえよ。自分を切って泣きべそをかく未来しか見えねえな」
「やだよう、痛そうな未来だよ」
「挑戦するなら止めねえぜ! 回復魔法は任せろ!」
僕があまりにも落ち込んでいるので、テオドールさんに「コロン、得意なところを伸ばせばいいんだ。気にすることはない」と頭を撫でられてしまった。
アグネスさんが「試しに転がってから殴ってみたらどうかな?」と助け舟を出してくれたんだけど、転がってすっくと立ち上がるとそこで動きが終わっちゃって、やっぱりポフンというスイカも割れない殴りしかできなかった。
「……僕、転がりタンクとしてがんばります!」
きちんと棒を片づけると、かっこよく親指を立てた。きょんたが頭に乗って「きょん!」と応援してくれた。
ということで、今日はこれでおしまいになった。
ギルドの簡易宿泊所は値段が安くて、ちょっとカプセルホテルに似ている感じの部屋だ。
僕の身長だと頭がつかえるくらいの高さが二段になっていて、体格のいい人でも横になれる程度の箱がずらっと並んでいる。一応、かんぬきがかかる木の扉が付いている。
ギルドの食堂での朝ごはん付きで、一泊小銀貨一枚(約千円)。これは新人でも薬草採取をすれば余裕で払える値段だという。ただし、布団は一週間銅貨二枚でレンタルされる。マントにくるまって寝る人も多いけれど、野宿するよりずっと楽だからと布団を借りないのもアリらしい。
静寂と浄化の魔法が魔石を使って軽くだけどかかっているので、うるさくて眠れないこともない。なかなかのサービスだ。
ここに泊まりながらお金を貯めて装備を整え、ギルドの講習を受けて、ひとり立ちを目指すから、この街に限り新人の死亡率がかなり低いのだという。
僕もそこに泊まることになるのかなと思ったけれど、ダイヤモンド一家の定宿があるということで、そこを勧められた。
『銀の輪亭』という冒険者相手の宿屋で、食事も美味しいというのが嬉しい。ペットもギルドに登録した子ならペット料金で食事付き宿泊ができるという。
テオドールさんとミケランジェロくんが二人部屋、アグネスさんが一人部屋を使っているので、一人部屋を新たに借りる。料金をポケットに入っていたお金で払おうとしたけれど、見習いとはいえパーティメンバーになるのだからと、テオドールさんがダイヤモンド一家のパーティ費から出してくれたんだ。
「それじゃあ、コロンの加入に乾杯!」
「ありがとう。これからよろしくね」
この国というか世界では、子どもでもエールを飲むのが普通らしい。ということで、宿屋の食堂で乾杯して美味しい夕飯を食べ、素朴な部屋の清潔なベッドに入った僕は朝までぐっすりと眠った。




