第47話 聖なる魔法
「離せよ、兄貴、離せってば!」
ミケランジェロくんはまだジタバタしているけれど、テオドールさんはびくともしない。ミケランジェロくんを吊り上げているテオドールさんの筋肉は、ワイルドで素晴らしいな。僕もあんな風に筋肉をつけたいな。
片手できょんたを持ち上げてみた。
「きょん?」
うーん、軽すぎて筋トレにならないよ。
「俺は行くぜ! 止めないでくれよ! うわ、酔うからそれやめろって!」
死亡フラグを立てまくるミケランジェロくんを揺さぶりながら、テオドールさんが言った。
「……こいつはまだわかっていないようだな。アグネス、一発気合いを入れてやれ」
「わかったわ」
まさか、斧で!?
いや、素手だった。ビビっちゃったよ。
「コロン、なに?」
「なんでもないです」
アグネスさんがデコピンの構えをして、テオドールさんにぶら下げられているミケランジェロくんに迫った。
「やめろ、よせって、アグネスは加減ができないからやだ!」
素手でもヤバいことがわかっちゃったよ。
「それでは、一発行きまーす」
軽い口調で宣言すると、アグネスさんの指から重いデコピンが放たれた。
「!!!!!!」
地面に降ろされたミケランジェロくんは、おでこを押さえて絶句している。
ものすごく痛そうだ。でも、頭が弾け飛ばなかったからよかったよ。
「ミケ、わたしたちのパーティ名はなに?」
「くうううううううーッ、ダイヤモンド一家だ!」
「そうね、ダイヤモンド一家。一家、なの。つまりわたしたちは一蓮托生のファミリーなの。家族なのよ。わかる?」
「あうう」
ミケランジェロくんがようやく立ちあがった。でもまだおでこをさすっている。魔鋼の斧を軽々振るってクマの頭を飛ばすアグネスさんだよ。デコピンの威力もとんでもないんだ。
「ミケが残るならわたしたちも残るわよ」
「だから、危ねえからやめとけって言ってんの! どうせ神聖魔法じゃないと通用しないんだし、使えるのは俺だけだし。ひとりで行くから街に行けよ」
「あんた本当に馬鹿ね。サポートしなけりゃミケの『神聖閃光』は一発打ったらおしまいよ。目を押さえてのたうちまわってるところをぱっくり食べられるわよ」
「……」
「そんな風にわがままを言ってミケの命を無駄遣いするのは、ダイヤモンド一家は許さないわよ」
「でも! 俺は……テオの兄貴もアグネスもコロンも守りたいんだよ! 悪魔って奴は本当に危険なんだよ、俺の大事な家族なんだから危ないことはさせたくねえんだわ! だから、頼むから、とっととルアンの街に向かってくれよぉ……」
ミケランジェロくんが子どもみたいに泣きべそをかいたので、僕は驚いた。
「神殿に追放された俺を拾ってくれて、ずっと一緒に生きてきた兄貴とアグネスと、俺の弟分になったコロンは、とっても大事だから、悪魔に殺されて欲しくないんだよ! 三人が無事なら俺はがんばれるから、だから……」
テオドールさんがミケランジェロくんの頭をぐりぐり撫でながら「そんな頭の悪そうな方向に思い詰めるな。四人で、ひとりもかけることなく街に戻ればいいだけの話だ」と言った。
「役割を分担して、悪魔を足止めする。無理はしない。特別攻撃部隊が来たら任せて撤退。わかったな?」
「でも……」
「ミケランジェロくん、リーダーに従おうよ。僕がみんなを守るからさ、転がって、悪魔の呪いも攻撃も全部引き受けて、みんなを守るよ。だから、一緒にがんばろうよ」
「そうだ。もう時間がない。アグネスは魔物を撃破。コロンは転がってヘイトを集めてくれ。ミケはべそをかいてないで『神聖閃光』で悪魔を焼け。魔力が減ったらコロンに回復してもらい、できる限り魔法を撃っていけ」
「了解!」
アグネスさんが言った。
「了解!」
僕も言った。
「俺はべそなんてかいてねえよ!」
袖で目をごしごしこすって、ミケランジェロくんが言った。
さあ、ダイヤモンド一家の出撃だ!
森の中だと視界が悪くて、足スケルトンと共にやってくる魔物をさばきにくくなるというのと、なるべく直接、足スケルトンの全身に光を当てたいということで、森から出てきたところを叩くことにした。
森の上ににょっきりと頭を出しながら、足スケがやってくる。
白い顔に、目玉がふたつとベロをベロベロさせている口がついている。
ブヨブヨして、センスのかけらもない気持ち悪い顔を見ていると嫌な気分になってくるけれど、ミケランジェロくんが結界を張ってくれたので呪いにかかることもなく迎撃できる。
「森から出た。胸まで肉体ができているな」
ブヨブヨの肩からは腕も生えていて、それを見たテオドールさんが「殴り攻撃ができるようになってしまったな。面倒なことになった」と呟いた。
ほぼ球体の頭にボコボコした胸までの肉体、そしてもものあたりまでが白骨で、膝上からは肌色の人間の巨大な脚が付いている。
あれが、大きく育っているけど、アグラダーの脚なのかな?
とても気持ちの悪い姿の魔物だね。
「それじゃあ行くぜ」
ミケランジェロくんは杖を掲げて、神さまに祈った。
「神よ、ご加護をありがとうございます。ミケランジェロはあなたのために戦う聖なる戦士であり、敬虔なる下僕です。神の名の下に発します、『神聖閃光』!」
さっき「たぶん、気合いが入りすぎるから、腕でかばってしっかりと下を向いておけ」とテオドールさんに言われたので、僕たちはぎゅっと目をつぶり厳重に目を守ったけれど、それでも明るい光が放たれたのがわかった。
「ぐあああああああーッ!」
ミケランジェロくんが絶叫する。ものすごく痛そうだ。
見なきゃいいのに、信仰を守るのも大変だね。
凄まじい光量の『神聖閃光』を受けてしまった魔物たちは、足がすくんでその場にとどまり、中には倒れてしまったものまでいる。それをアグネスさんが、さくさくとどめを刺していく。
「ミケ、耐えろ、回復だ」
テオドールさんがミケランジェロくんを抱えて後方に下がる。
肝心の足スケは……しっかりと足止めをされているね。手で顔面を押さえて、その場にうずくまっている。
聖なる光なので、ダメージも入ったようだ。
「……治した!」
「よし」
おろされたミケランジェロくんが「コロン、かなり魔力を使っちまったから回復を頼む」と言ったので、僕は「了解」とおんぶして、何回か転がった。テオドールさんは魔物のとどめ刺しに向かった。
「……このくらいで充分だ」
僕はミケランジェロくんをおろすと「すぐにまた、魔法を打てるの?」と尋ねた。
「打てることは打てる」
「少し休んだ方が、全力で打てる感じかな。そうしたら、足スケに向かって転がってくるよ。休んでて」
さすがは足スケ、親玉だけあってもう回復してきたみたいだ。顔を覆うのはやめて立ち上がっている。
僕はまっすぐ足スケに向かって転がる。ぶつかる直前に肩に乗っていたロボが素早く変身して、僕をトゲなしアルマジローンにした。
ロボ、ナイス判断だった。
足スケルトンの重い殴り攻撃は、僕を軽くふっ飛ばしたのだ。痛みはないけれど、かなりの衝撃を感じて驚いた。
「ヤバッ、離れちゃったよ!」
僕はぎゅいんと曲がると、また足スケルトンに向かって転がった。ヘイトを集めるために、きょんたが「きょおおおおおおおおおおおおおん!」と遠吠えをしてくれた。
狐も遠吠えができたんだね?
悪魔の頭はゆっくりと僕を見ると、ヒョロロロオオオオオオと鳴いた。
「テオ兄、アグネス、結界を投げる!」
ミケランジェロくんの杖から光が放たれて、テオドールさんとアグネスさんの身体を包み込んだ。
「コロンは弾いてるな?」
「なにを?」
「呪いだ」
あの鳴き声と同時に、口から呪いを発していたのかな。
もちろん、僕には効かないよ。
「また魔法を打つから、詠唱の間にコロンは転がってくれ」
「了解!」
足スケがまた歩き出したので、僕はきょんたと一緒に煽って攻撃を受け止めて、その間にミケランジェロくんが詠唱をして『神聖閃光』を放つ。
テオドールさんとアグネスさんが、魔物の群れを片付けていく。
こうして、どうにか足スケルトンを足止めしていると、ギルドの騎士、聖騎士、神官及びサザーワン聖下による特別攻撃部隊が到着した。




