第46話 足スケルトンの変容
「けっこう早く片付いたなぁ」
「転がりタンクがいると馬鹿に楽ちんだわ」
魔物を一掃した青ワシチームは「いったんギルドに戻ってギルマスの指示を仰ごう」という話になった。
だが、その時。
全員が、おぞましい気配に鳥肌を立てて、森の奥を見た。
そこには、生白い頭の先がのぞいているのだが。
「なんか……大きくなっていないか?」
「頭頂部しか見えないからわからないね」
そんなことを口にしていると、森から連続して信号弾が上がった。
魔石を加工して作られた信号弾は、キュルルルルルと音を立てながら上空に昇ると大きく弾け、さらに続けて二発、上がる。
「三発だと? 超緊急事態じゃねえか?」
リーダー会議に出席しているために、いろいろと詳しい他のパーティリーダーが「あれは、すぐに特別攻撃部隊を出せという合図だ」と言った。
「足スケに異常があったのか……おおっ、あれは? 偵察に出た奴らだ、なにが起きた!?」
森の中から数名の冒険者たちが飛び出してきた。ひとりは仲間に背負われている。
ミケランジェロくんは「負傷者だ、回復してくるぜ!」と言うと、鉄砲玉のように飛び出した。僕たちダイヤモンド一家も青ワシチームメンバーもその後に続く。
「大丈夫か?」
ミケランジェロくんを見ると「ミケか! 助かった」と、怪我人を負ぶっていた人が止まり、他の人たちに「報告に走ってくれ!」と指示を出した。
「怪我と、呪いも受けてるな。おい待て、走る前にあんたたちの呪いも解除するぜ!」
ミケランジェロくんの言葉を聞いて、街へと走り出そうとした人たちもこちらに戻ってきた。
「俺の近くに寄るんだ」
ミケランジェロくんは杖を高く掲げて、神への祈りを捧げた。
「神よ、ご加護をありがとうございます。あなたの敬虔なしもべたちに襲いかかる災いを、神の名のもとに祓い清めます。健かであれ、愛情深くあれ、清廉であれ、我らは神の愛し子であり神を愛し慕う清き魂。『神聖範囲浄化』!」
杖の先端が輝き、広範囲に浄化の光が広がった。淡い水色の光が天から降り注いで、僕たちを優しく包む。
背中におぶさってぐったりしていた人の、溶けた耳や鼻が元通りに戻って、人間らしい顔に戻ったのを見て僕はほっとする。
ミケランジェロくんの神聖魔法は何度見てもすごいよね。
あと、呪文を噛まずにきちんと言えるのもすごい。普段からお祈りしている真面目な神官だからだね。
「これで呪いは祓えたから、もう走っていいぜ」
「助かる!」
片手をあげると、偵察隊の人たちは猛ダッシュで去って行った。おんぶしている人も「俺たちも急いでここを離れるぞ。足スケがえらいことになってるんだ」と焦った表情で言う。
「なにがあったんだ?」
テオドールさんが冷静に尋ねる。
「あいつ、急に巨大化したんだ。その場にとどまり魔物を食って力を溜めていたが、とうとう動き出した。俺たちのあとを追いかけてきている」
振り向くと、確かに足スケの頭が近づいてきている。
あれ? 四つん這いで、赤ちゃんみたいにハイハイしてるんじゃない?
と思ったらまたヒョロロロロロロオオオオオオと鳴き始めた。ちょっと上手くなってロロロロロロのところはミケランジェロくんもびっくりの巻き舌だ。
洞穴みたいだった口に、舌ができたってことなのかな?
「のんびり眺めている暇はないぞ!」
でも、ハイハイだからそんなにスピードは……と思ったら、足スケが立ち上がった。
「ええっ、マジかよ! なんであんなにデカくなってやがるんだよ!」
白くてブヨブヨした頭には、目玉ができていた。目玉と口だけで、耳も鼻もない。
すごく気持ちが悪いよ。
足スケは、森の向こうにいるのにはっきりと顔がわかった。そして、着実にこちらに向かって歩いてくる。
「ここに来るのも時間の問題だ。特別攻撃部隊がすぐに出発したとしても、この辺りで接敵するだろう。早く逃げよう」
「わかった。総員、撤収だ!」
「俺は残る」
ミケランジェロくんが言った。
「神殿の奴らが来るまで俺が足止めする」
「馬鹿野郎、なにを言ってるんだ! ひとりでなにができる!」
「俺の神聖魔法は悪魔にとってすげえ威力が出る。今回は『神聖閃光』を使う。おまえらは街に戻れ」
「ミケランジェロくん……」
「ミケ……」
僕たちはミケランジェロくんのガンギマッた顔を見てため息をつく。
「ほら、あの速さなら神殿の奴らと接敵するのはここじゃねえだろう。もっと街の近くまで行くはずだぜ」
確かに白い悪魔の顔はどんどん近づいている。
「倒せなければどうせみんな死んじまうんだ。やれるだけのことはやっておくぜ!」
じゃあな、と駆け出そうとしたミケランジェロくんの襟首を、テオドールさんが掴んで持ち上げた。
「待て。俺も行く」
「わたしも行くわ」
「僕も行くよ」
ダイヤモンド一家はいつも一緒だぜ!
ミケランジェロくんは「おまえらは来んなよ!」と暴れたけれど、反対意見はテオドールさんに「アレを使うとおまえは目が見えなくなるだろうが」とあっさりと却下された。
「そうだよね。『目が、目がああああーっ!』ってなるもんね」
「コロン、テメェ、俺はそんなにダサくねえ!」
「それでは、ダイヤモンド一家はここで別れる。ギルマスに報告しておいてくれ」
バタバタするミケランジェロくんを片手で吊り上げながら、うちのリーダーが真顔で言った。
「大丈夫、俺たちは死なない」
「……了解した」
みんなは難しい顔をしていたけれど、足スケを食い止められなきゃみんなで仲良く全滅するんだよね。




