第45話 活躍する転がり
「みんな、魔物はコロンが転がりタンクとして引き受けるぞ」
青ワシチームのみんなにテオドールさんが言ったので、僕は「みなさんは魔物たちを後ろから殴り倒しちゃってくださいねー、攻撃は僕が全部受けますから!」と続けた。
すると、まあ当然だけど、冒険者たちから「なにを無茶なことを言ってるんだ、ガキを殺す気か?」「正気の沙汰じゃねえだろうが」と反対の声があがる。
「えー、変な作戦よりもいつもの感じの方がやりやすいんだけどなあ……あっ、イノシシの群れをはっけーん」
「きょきょーん」
僕ときょんたがカクレイノシシが巧みに姿を隠しながら群れているのを見つけた。
「それじゃあ、本命の前に軽く転がって見せるから、冒険者のみんなは見ててね。テオドールさん、いつものやつで」
「了解、『作戦一』だな」
「ミケランジェロ、了解!」
「アグネス、了解!」
ちなみに、ダイヤモンド一家には『作戦一』しか存在しません。えへへ。
「きょおおおおおおおおおおおおおーん!」
きょんたの雄叫びを聞いた冒険者が、ギョッとした表情でこっちを見た。
天狐の煽りに反応したカクレイノシシの群れも、偽装を解いてこっちを見た。
「うわっ、大量のカクレイノシシがいやがったぜ!」
それまでイノシシに気づかなかった冒険者たちが、きょんたを見て「子狐、すごいな」と言った。
ねえねえ、僕も見つけてたよ?
「隠れ方が上達してねえか? もしやあれも、悪魔の影響なのかもしれん。となると、いつもの弱い魔物だからといって油断したら危険だ」
うんうん、でもね、僕がいれば大丈夫だよ。
頭にきょんたを、肩にロボを乗せた僕は、カクレイノシシに向かって転がった。
「オラオラオラオラァ、美味しいお肉ちゃん、こんなところでバーベキューの用意ですかァ?」
「きょおおおおおおおおおおーん?」
「マヌケな顔だけど脂が乗ってて美味しいから許してやるぜェ、みんな揃ってロースになっちまえええええええええーっ」
「きょきょきょおおおん!」
きょんたと僕の力を合わせた煽りが炸裂した。カクレイノシシたちはふんぬふんぬと憎しみに満ちた鼻息を吐き、もう僕を殺すことしか考えていない。猛ダッシュでこちらに駆けてくる。
「ふんふんふーん、お肉さんこっちらー」
「きょんきょんきょーん」
僕は全力で転がって、殺意で口を耳のところまで引き裂きながら、だらだらよだれを垂らすイノシシの群れと激突した。
「ブモオオオオオオーッ!」
イノシシたちは牙で噛みつき、体当たりをし、頑丈な前脚で僕をボコボコにしようとするが、転がりスキルがすべての攻撃力を吸収して、転がりパワーに変換してしまう。
ああ、今日も草原を吹く風が気持ちいいや。
転がるほどに気分がリフレッシュするよ。
「うわああああっ、コロンが危ないぞ!」
「いくらなんでも無茶だ!」
冒険者たちが顔を引き攣らせているのが見えた。僕は大きな声で「全然平気だよーん、今日も転がりは絶好調さ!」と叫んで、安心してもらおうとした。
「ばかやろう、平気じゃねえよ!」
「生きたままイノシシに食われたいのか? 今すぐ助けてやるからな!」
わあ、安心してもらえなかったよ!
でもね、お気持ちだけいただきますね。
「シッ! シッ!」
いつの間にか忍び寄っていたテオドールさんが、イノシシの首に短剣を差し込んで電撃で即死させていく。
「オラオラオラオラオラオラァァァァァーッ、気持ちよくボコられやがれよォ、ヒャッハァァァァァァァァァァァァ!」
うちの神官が、聖職者にあるまじき巻き舌で世紀末的なことをかましながら、聖なる力を込めて鍛えた杖でイノシシを撲殺している。
力がついたから、もうクマくらいの魔物までは一発で仕留められるようになったんだよね。これでもう、立派な撲殺神官だよ。
「ふっ、ふふっ、うふふっ」
でも、冒険者たちが一番ビビったのは、アグネスさんの姿だった。
だって、スキップして笑いながら「お首がひとーつ、お首がふたーつ、うふふ、楽しいわね」ってイノシシを殺っていくんだよ?
殺意のまったくない、まるでお花畑で花を積んでいるような柔らかな笑顔で、イノシシの首を魔鋼の斧でチョンパチョンパしていく美少女……僕だったら近寄りたくないな。
「ん? コロン、どうしたの?」
「なっ、なんでもないよ!」
僕の怯えが伝わっちゃったみたい。勘のいい美少女なんだ。
「こんな感じでやるのが『作戦一』だ」
しれっと説明するテオドールさんに、冒険者たちが「どんな感じだよ!」「頭おかしいだろ!」と突っ込む。
その背後では、ミケランジェロくんが(豊富な資金を使って機能を大幅に拡張した)ウエストバッグに、「今日も大儲けだぜェ、ウヘヘヘヘ」とゲスいことを言いながら、天使の笑顔でカクレイノシシの死体をしまっている。
多少汚れても浄化ができるから大丈夫。神聖魔法は便利だね。
「よし、しまい終えたぜ。コロン、転がり回復を頼む」
「いいよー」
僕はミケランジェロくんを背負って、アグネスさんの蹴りで数回転がった。攻撃を受けた方が効果があるっていっても、毎回蹴飛ばされるのはちょっと……と言いつつも、慣れてしまったよ。
大丈夫だよ、アグネスさん以外には蹴られないから!
もし蹴ろうとしてもアグネスさんが斧でチョンパするだろうからって、誰も試さないよ。
「コロンを蹴っていいのはわたしだけよ」
やめてよ、変な趣味してるみたいに思われちゃったらどうするの。
ミケランジェロくんの魔力も満タン回復したし、とにかく、これで転がりの力が冒険者たちに伝わった。
「きょきょきょきょーん!」
「テオドールさん、そろそろ本命の群れが森から出てくるってきょんたが言ってるよ。転がってもいい?」
「そうだな。それでは『青ワシ』、出撃だ!」
「おう!」
こうして、『青ワシ』チームの奮闘で、魔物の群れの第一陣は綺麗に狩り尽くされたのであった。
そして「転がりの坊主はちょっとおかしい」という評価が僕に下されてしまったのだった。ぐすん。




