第42話 悪魔の合体技
ギルドからは、手練の冒険者による足スケルトンの偵察が頻繁に出されているので、変化があるとすぐに情報が回る。
「足スケの頭が妙なことになっているらしいぞ」
翌朝、冒険者ギルドに顔を出すと、顔馴染みになったおじさん冒険者が教えてくれた。
「スケルトンだから、普通は頭は骸骨のはずじゃねえか。それが、白くてブヨブヨしたもので覆われて、顔ができてきたんだとよ」
「ブヨブヨ? なんだろうね……」
「スケルトンに顔ができるなんて、聞いたことねえな」
「悪魔が絡んでいるからかしらね」
テオドールさんは、朝の会議に出ているので、僕とミケランジェロくんとアグネスさんは顔を見合わせた。
その時、ヒョロロロオオオオオオという、とても気持ちが悪い音が外から聞こえた。
「なんだ?」
「不気味だな」
「鳥か獣の鳴き声か?」
また聞こえた。
僕たちは外に出た。
遥か遠くに、生白くてブヨブヨした大きな頭が見えた。
それは生理的に本当に気持ち悪くて、みっつの穴が目と口の位置に開いているのもまた気持ち悪くて、気丈なアグネスさんが口元を抑えて涙目になってしまうくらいに禍々《まがまが》しく存在を許せないモノだった。
「きょおおおおおおおーん!」
きょんたが警告するように大きく鳴いた。
腕輪になってるロボが、激しく震えている。
「ロボ、大丈夫? ……うわ、あいつ、口を開けてる」
白いブヨブヨの、黒い口に当たる部分が広がると、そこからヒョロロロロロロロロオオオオオオと不気味な音が鳴り、にやりと笑うように両端が持ち上がった。
「うわー、あんな気持ち悪い笑顔、初めて見たよ」
「いやっ」
僕が感心していると、アグネスさんが小さく悲鳴をあげた。両手で耳を塞いで目をつぶっているけれど、顔が真っ青だ。
「アグネスさんは中に入ってなよ。あんなもん見ちゃ駄目だ」
僕はアグネスさんを抱えると、ギルドの建物の中に向かって転がった。
「うわっ、転がりの坊主か。どうした?」
冒険者たちの注目を浴びてしまったけれど、僕はアグネスさんを横抱きにしてすっくと立ち上がった。
「足スケがヤバいことになってるんだよ。ちょっとアグネスさんを座らせたいんだけど、いいかな」
「おう、こっちの椅子にかけろ」
アグネスさんは「今の転がりで気分が落ち着いたわ、ありがとう」と言いながらも、素直に椅子に座った。
「アレは間違いなく悪魔だわ。まさかスケルトンの頭になるなんて思わなかった。アグラダーの傲慢さがあんな化け物を呼び出してしまったなんて……おぞましい話だわね」
「そうだね。人の心の醜い部分が形になって現れちゃったね」
建物の中に、気分が悪くなった人たちが続々とやって来た。きょんたはきょんきょん鳴きながら、人々の頭から頭へと飛び移っている。
「なんだ? 子狐に踏まれたら調子が悪いのが治ったんだが」
役に立つ子狐だね。
「きょんたは天狐だから、悪魔の放つ波動とか悪意とかを祓う力があるのかな」
「小さくても天狐ね、さすがだわ」
僕たちが頷き合っていると、テオドールさんがなぜかミケランジェロくんを横抱きにしてやって来た。
「おろせよ、俺は行かなきゃならねえんだ!」
バタバタ暴れるミケランジェロくんを、アグネスさんと一緒に「どうしたの?」と首を傾げながら見た。
「あいつを浄化しなければ! 神官として、神殿の落とし前をつけなきゃならねえんだよ! あんなもんを放置したらろくなことにならねえよ、今すぐ特攻だ! やってやる! 俺はやってやるぜ!」
「馬鹿者、勝手に特攻するな」
テオドールさんが、ミケランジェロくんを叱りつけた。
「この街を守らなくちゃならない時に、命を無駄遣いするんじゃない。どうしたらあいつを倒せるか、きちんと頭を使ってから攻撃しろ」
「でも兄貴、アレは早く倒さなきゃいけないシロモノだって、ビリビリ感じるんだよ」
ミケランジェロくんは熱いワイルドマンだけど、今日は殊更ギラギラして見えるよ。どうしたのかな?
「アレは普通の攻撃は効かないんだ。神官としての勘がそう言ってる!」
「落ち着け。さっきギルマスから指示があった。足スケへの攻撃は、聖騎士と神官で構成された特別攻撃部隊が行う。俺たち冒険者は、足スケに追い立てられた魔物たちの討伐が担当だ。足スケには手を出すなと釘を刺されたからな」
「……足スケには聖なる攻撃しか通らないってことだろう?」
「そうだ」
「じゃあ、俺もそっちに行く!」
「ミケは破門されてるから駄目でしょ」
アグネスさんにクールに言われて、テオドールさんの小脇に抱えられているミケランジェロくんは「あああああーっ、そうだったぜ……」と、身体をだらんとさせた。テオドールさんは「持ちにくい」と一言言って、ミケランジェロくんを床に捨てた。
ワイルドだぜ!
「これから、街の人々は皆、壁の中にある避難所に移動する。すでに領主さまからのおふれが出ているし、普段から避難訓練を重ねているから大丈夫だろう」
テオドールさんの言葉に「避難訓練?」と驚いてしまった。
「このような事態は想定内だからな。非常時用のシェルターが貴族街にいくつか造られていて、住民全員が避難できるようになってるんだ」
さすがはビビリの領主さまだ、安全への取り組みが手厚いね!
「こんな時のために、街の外壁には聖なる結界も張れるようになっているからな。足スケは呪いを振り撒くだろうが、悪魔は聖なるものにめっぽうか弱いから安心だ。というわけで、俺たちダイヤモンド一家は森から出てくる魔物を迎え討つぞ」
魔物がやって来るのは、おそらく明日になるという。
「図書室に行って、森の向こうに出る魔物についても調べておくぞ。アグネス、調べたことを大きな紙に書いて貼ってくれるか? ギルマスに頼まれたんだが」
「わかったわ。もちろん、依頼として扱っているのよね?」
「……」
「ギルドに交渉して来るわ」
しっかり者のアグネスさんが、ただ働き許すまじ! という気合いのこもった足取りでギルドのカウンターに向かった。その後を、リーダーのテオドールさんが続く。
「おい、コロン」
ミケランジェロくんが、声をひそめて言った。
「おまえはさっきの悪魔の叫びを聞いて、どうだった?」
「気持ちが悪い声で鳴くなあって思ったよ」
「それだけか? ふらついたり、恐怖にとらわれたりしなかったか?」
「別に平気だよ。ただロボがすごく怖がっていてかわいそうだった」
ミケランジェロくんは少し考え込んでから「『神の落とし子』だから、悪魔に耐性があるみたいだな。もしかすると、おまえの転がりに頼ることになるかもしれねえぞ。テオの兄貴には内緒だけどな」と囁いた。




