第41話 やっぱりあの脚は…
偵察に出た勝利の旗の報告によると、足スケの移動速度はゆっくりだという。やはりスケルトンに脚を繋いだせいで、接合部分が馴染んでいなくて動作に支障が出ているのかもしれない。
「草原の奥の方で迎え撃つことになるだろう。3日後の出撃になるから各々《おのおの》準備をしてくれ。この後、パーティリーダーによる会議を行うので、大会議室に集まれ」
ごった返す中に、イシューヴァさんの力強い声が響いた。
「ねえ、今更だけど、イシューヴァさんって強いの?」
僕が尋ねると、アグネスさんが「ギルマスは、特殊な魔弓を引く戦士よ。肉体的な力があるエルフでないと引けない弓だから、世界でひとりしか使えない武器なのよ。あと、風系の殲滅魔法が使えるわ。ちょっとした魔物の群れは敵じゃない感じ」
「うわっ、めちゃくちゃ強い人じゃん!」
すらっとしたイシューヴァさんだけど、エルフにしてはたくましいんだよね。きっとその弓を引くために、死ぬ気で身体を鍛えたんだろうなあ。ワイルドでかっこいいや!
「すごい人よ。惚れ込んだ領主さまが懇願……じゃなくて、説得してここのギルド長になってもらったという話よ」
「今、懇願って言ったね」
「ううん、説得よ。縋りついて涙ながらに説得したの」
「それって泣き落としじゃん。領主さまらしいや」
なりふり構わずに、このルアンのためにつよつよモヒカンエルフを連れて来るなんて、さすがは領主さまだ。僕は尊敬するよ。
なんだかんだ言っても、この街の安全は領主さまが身を削って作り出したものだから、変わったおじさんでも、街の人はみんな領主さまを尊敬しているんだよね。
迎撃の準備のため、僕たちはまず、悪魔についてをギルドの図書室で調べた。図書室には、頭脳派らしい冒険者が来て調べものに励んでいるけれど、その数は肉体派に比べるとずっと少ない。
僕は初心者講習会で貰ったまとめノートを広げて、数冊の本から見つけ出した悪魔についての説明を書き込んでいく。
「基本的に、悪魔は召喚されないと現れない。そして、悪魔の目的は人の魂を奪うこと、か。外見は不定ってあるけど……召喚者のイメージや目的で決まるのか。変な魔物だね」
「ああ、一応魔物のくくりに入れてあるけど、魔物にしては知能が高くて難敵なんだぜ。ったく、あのクソ坊主め、とんでもないもんを呼び出しやがってよォ」
「ミケ、下品よ」
アグネスさんに注意された。ほっぺたを引っ張られたミケランジェロくんが「うおおうおうっえあいいういー、いええいええ(クソをクソっつってなにが悪いー、いてえいてえ)」と文句を言っている。
「わたしたちは、上級冒険者パーティを目指しているのよ。もっときちんと振る舞えるようにならなくちゃね」
「おう、そうだな! 俺は品の良い神の敬虔なしもべになるぜ……なるのです」
ミケランジェロくんが、すんっとした顔つきで言った。
さて、悪魔によってはピンポイントで、ある特徴を持つ魂を狙う奴(例えば、魔法使いの魂限定とか、若い女性限定とか)と、とにかく量があれば構わないという大雑把な奴がいるらしい。
「アグラダーの呼び出した悪魔はどのタイプなんだろうね?」
「街を狙って来るなら、量を欲しがるタイプじゃねえか……ございませんか?」
「それじゃあ、全面戦争だわね」
僕とミケランジェロくん、アグネスさんは悪魔についての知識をひたすら漁った。
「召喚者の願いを叶える振りをして、相手をハメることも多いって書いてあるよ。アグラダーって人は王都の神殿にいるくらいだから、頭がいいんじゃないの? なんで悪魔の召喚なんて危険なことに手を出したんだろう」
僕が不思議に思っていると、ミケランジェロくんが「あいつは自分のことを過大評価しがちなアホだったからな。自分なら悪魔の上を行って上手くやれるって考えたんじゃねえかな」と元のワイルドに戻って教えてくれた。
「なるほどね……策に溺れて脚を取られちゃったわけね」
と、そこへ、今後のことについてのリーダー会議に出ていたテオドールさんが戻って来た。
「ギルマスから俺たち限定の内緒話があった」
内緒話だって。ちょっと可愛いね。
「王都の神殿で意識不明だったアグラダーだが、意識不明じゃなくてすでに魂を失っていたそうだ。仕掛けが解けて、身体に模していたものが崩れて土塊に変わったそうだ。そして、アグラダーの魂は脚に宿っている可能性が高いという話だ」
うわあ、内容は全然可愛くなかったよ。
つまり、足スケルトンはアグラダーの魂を持っていて、魔物を率いて襲って来るのは元聖下ってことだよ。こんなことが広まったら、神殿の立場が大変なことになるね。
「脚に魂が? どういうことだ? それじゃあ、脚を切られた痛みで気が触れたってえのは、アグラダーがやってたことじゃねえのか?」
「すべては悪魔が作り出した土人形の演技だったそうだ。罰当たりな真似をするものだな、さすがは悪魔だ」
「アグラダーもどきの人形に苦しむ演技をさせて、神殿の人たちの心を痛めさせるなんて、まさに悪魔の所業だわね。下品だわ」
アグネスさんが顔を歪めた。
つまり、土でできたロボットの動作にみんな騙されていたってことなんだ。脚を切り取られて苦しむ人はいなかったんだ。
あっ、その代わり、魂を脚に突っ込まれて魔物の一部にされちゃったかわいそうな人ができちゃったか! やっぱり酷い話だよ。
「ミケランジェロくん、悪魔はどこにいるのかな? 陰に隠れて魔物を操って喜んでるの?」
「もう少し近づけば、神聖魔法で悪しき気配を読むことができるが、今のところはわかんねーな。なんでだ?」
「足スケルトンが悪魔に操られて街を襲うなら、悪魔を倒しちゃえば魔物の侵攻は止まるんじゃないかと思うんだ」
「なるほど」
テオドールさんが「もちろん、襲って来る魔物を殲滅するのは当然だが、悪魔を倒してしまえば魔物を統率するものがいなくなって、やりやすくなるな」と頷いた。
「なかなかいい着眼点だけど……」
アグネスさんが、本のページをめくりながら微妙な顔で言った。
「とある研究者の独自な解釈なんだけど、悪魔の種類がここに書かれているの。虚栄、傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲に分かれるらしいけど、ミケ、アグラダーの性格的に、どの種類が近いと思う?」
あれ? どこかで聞いたことがある分け方に似てるよ。
「そうだな……一番近いのは傲慢だな。虚栄と強欲の要素もあるけど。地位とか権力への執着が大きかったようだぜ。そういうのって他の真面目な神官たちには理解できなかったから、野放しにされちまったんだ」
「やっぱりそうなのね。となると、陰に隠れるよりも自分の存在を誇示すると思うのよ。堂々と現れる気がするわ」
さすがは賢さ担当のアグネスさんでした。
その後すぐに、アグネスさんの推測が正しいことがわかったんだよ。




