第40話 現れた脅威
アラームを聞いた冒険者たちが続々とルアンの街に戻って来ていて、冒険者ギルドはごった返していた。その一角で、真剣な表情のギルマスが「治療師はまだか!?」と叫んでいる。
それを耳にしたミケランジェロくんが「おい、怪我人か?」と素早く駆け寄った。
「どうしたギルマス」
「ミケ! 偵察に出ていたパーティーが魔物に襲われたんだ」
床に倒れて血溜まりを作っている冒険者を見たミケランジェロくんは『神聖回復』を唱えて「止血はした。ちょっと診察させろ」と冒険者の横に膝をついた。
「あれ? この人、普通の怪我じゃないよ」
手足の先が溶けてる……なんて恐ろしい! 超ビビる!
「……これはヤベェな。おい、こいつに触ったやつは全員こっちに来い。呪いをもらった可能性がある。ギルマスもだ」
「呪いだと?」
「気になるやつはみんな俺の近くに寄れ。まとめて浄化するぜ」
ミケランジェロくんはそう言うと、神様への祈りの言葉を唱え出した。
「神よ、ご加護をありがとうございます。あなたの敬虔なしもべたちに襲いかかる災いを、神の名のもとに祓い清めます。健やかであれ、愛情深くあれ、清廉であれ、我らは神の愛し子であり神を愛し慕う清き魂。『神聖範囲浄化』!」
ミケランジェロくんを中心に、淡い水色の光が天から降り注いだ。
これが呪いを払う浄化魔法なんだ。すごく綺麗だ。爽やかな心地になるよ、心の中までピュアピュアになりそう。
ああっ、怪我した人の手足が生えてるよ!
呪いが払われたから、本来の姿に戻ったってことなのかな。
「ミケランジェロくん、すごいよ!」
僕は尊敬の瞳でミケランジェロくんを見た。
彼は「ありがとう……」と力なく笑ってお礼を言う冒険者に、「おい、流れた血は戻らねえからな、しばらくはメシ食って寝てろよ。体力が回復するまでは活動をやめとけ」とぶっきらぼうに言った。
そして、僕に向かって手招きをする。
「ちょい、コロン……」
「なになに?」
僕が隣にしゃがむと、ミケランジェロくんは半分白目をむきながら「ガス欠になったぜ……」と言って、僕にもたれかかった。
「ええっ、大丈夫なの? ミケランジェロくん? ミケランジェロくん!」
うわあどうしよう、返事がないよ!
「大丈夫よ、コロン。おんぶしてやって」
アグネスさんがそう言って、僕と一緒にミケランジェロくんを支えてくれた。言われるままに僕は彼を背負った。
「魔力を使い過ぎて、立てなくなっちゃっただけなのよ。少し経つと自然回復するから、しばらく面倒を見てやってね」
「うん、わかったよ」
この世界に来て、僕もたくましくなったんだよ。こうやっておんぶして、立ち上がって……。
「あっ」
そのまま冒険者ギルドの床を転がってしまった。
駄目だ、僕にはまだたくましさが足りてないや。
「おっ、転がりか」
「場所をあけてやれよ」
「そら行け! 面白えスキルだな」
僕の転がりスキルは有名になっていたから、みんなが親切に場所をあけてくれて、ギルドの床に僕をコロコロと転がしてくれた。
いや、違うんだけど。
ミケランジェロくんの重さに負けちゃっただけなんだけど。
でもまあ、転がっておこうか。
僕の転がりスキルは、一定の密着があれば(例えば、頭の上に乗ってるきょんたくらいね)問題なく一緒に転がれるようで、ミケランジェロくんを背負ったまま調子よく転がって、すっくと立ち上がった。
なぜか拍手が起きた。
すると、背中のミケランジェロくんが「おおー、なんだ今のは! すげえな、一気に魔力が回復したぜ、転がり半端ねえな!」と元気な声をあげた。
「えっ、マジ? ガス欠治ったの?」
「治ったぜーい!」
ミケランジェロくんをおろすと、その様子を見たアグネスさんが「嘘……こんな短時間で魔力を回復させちゃうなんて、とんでもないことよ」と呟いた。そして「コロン、あなた、魔法使いに誘拐されないように気をつけなさいよ。転がりの力は役に立ち過ぎるわ」と忠告してくれた。
魔法使いにとって、魔力切れは大敵なのだ。それを、おんぶして転がるだけで回復させてしまうなんてあり得ないことで、大魔法使いと僕がコンビを組んだら、広範囲殲滅魔法を連発できるようになってしまうらしい。
ミケランジェロくんが、僕の肩をがしっとつかんだ。
「コロンはダイヤモンド一家の仲間だ。おかしな真似をする奴がいたら、叩きのめしてやるからな、ギルマスが!」
「俺かよ!」
ギルマスが上手く突っ込んだ、そして「いや、遊んでいる場合じゃないぞ。みんな、聞いてくれ!」と声を張った。
「Bランクパーティの勝利の旗が、森を抜けた向こう側まで偵察に出ていたんだが、そこで巨大な魔物を発見した。スケルトンだが、膝上くらいからの両脚は肉体だ」
森を抜けるには、身体強化をかけたレベルの高い冒険者でも数日はかかるというから、かなり遠くまで偵察に行ったんだね。
それにしても両脚が肉体って……。
どこかの悪魔が持って行った元聖下の脚じゃない?
なんかすごーく嫌な予感がするよ。
「これは人為的に……人じゃないな。おそらく悪魔が作り出した融合体だと考えられる。そしてそいつは、魔物を統率する能力があるようだ」
「どういうことだ?」
「奴は魔物の群れのリーダーとなっている。そして、そいつはルアンの街の方に進軍している。魔物の軍隊がこの街に近づいてきているんだ」
その恐ろしい知らせを聞いた僕たちは、何も言えずにギルドマスターの顔を見た。
「さっき、ミケがそいつの攻撃が呪いだと判別した。そこで、王都の神殿に聖騎士の派遣を申請しようと思う。この魔物の呼称は『足スケルトン』略して足スケだ!」
「足スケ?」
「そうだ。いいか、みんなで力を合わせて足スケを倒し、ルアンの街を守るんだ!」
ざわめきが起こる。
ギルマスのネーミングセンス……いや、なにも言わないよ!




