第39話 近づく気配
僕たちはそのあとも検証を続けた。
背中のトゲトゲは出したり引っ込めたりできることがわかったので、ウサギとミニダチョウを狩りつくしてからは、トゲを引っ込めて怪我をしないようにしてから、ミケランジェロくんの杖で殴ってもらったり、アグネスさんに蹴ってもらったりして転がる練習をした。
テオドールさんは「俺には殴れない」と腕組みをして眺めていた。
優しいね。
子どもの遊びに混ざるような照れ臭さがあるからやめたんじゃないよね。
「オラオラ転がれ!」
「えいっ、えいっ、えいっ」
見た目が完全にいじめなので、他の冒険者の目に入らないように注意したよ。ダイヤモンド一家の評判が下がったら困るからね。
ふたりが疲れたので、ちょっと休憩する。
「自力で転がるよりは距離が伸びるけど、まだまだ実用レベルにはならないね」
「きょんきょん」
転がり回復効果でまったく疲れていない僕ときょんたは、浮かない顔で言った。
「その亀の甲を付けてると、動きがだいぶ鈍くなるな。そいつは対大物専用防具のようだぜ」
やめてミケランジェロくん、亀の甲なんてダサい名前をつけないで。せめて、アルマジローン……とか? よくない?
「それにしても重いわね。重いというより、パワー? 転がすためのパワーが足りないの?」
「転がりに変換できるだけの力が、俺たちにはないってことじゃねえのか」
「なんか腹立つわね……わかった、わたしには殺意が足りないんだわ」
美少女がにっこりしながら斧をかまえた。
「強烈な一発、行くわよ」
やめてよアグネスさん!
パーティーメンバーに殺意を向けるのは良くないと思います!
「次はクマあたりで検証してみるか? 金になるし」
「そうだよクマだよ、アグネスさんは斧をおろして! その殺意はクマに向けて!」
「うーん、確かにクマはお金になりそうね。ホーントベアが出るところに移動しましょう」
テオドールさんの助け舟があってよかったよ。
僕はロボに頼んでアルマジローンをたたんでもらって、草原の奥へと転がった。
「ええっ、またクマの群れが出たよ」
森の近くに移動するとすぐに、ホーントベアとブルーホーントベアとレッドアグリーベアと、おまけにカクレイノシシとストーンボアまで群れをなしてこちらに駆けてくるのが見えた。
「クマとイノシシは仲良しなの?」
「そんなわけないでしょ。ほら、早く甲羅を背負って」
「アグネスさん、言い方! かっこ悪く言わないで!」
僕は文句を言いながらロボにアルマジローンに変形してもらう。まずはトゲトゲを出さない形態で、クマに向かって転がった。
前回はすぐに逃げ出したけれど、今のダイヤモンド一家はあの時とはわけが違うんだよ。僕の転がりもパワーアップしているし、テオドールさんとアグネスさんは武器を替えたので、使いこなしている今はかなり攻撃力が上がっている。
「オラオラオラオラァ、バフをかけてやるぜェ!」
チンピラ風味のはぐれ神官は、攻撃力上昇、防御力上昇、バリア、身体能力上昇と前衛のふたりに立て続けに魔法をかけた。
ひとつも失敗することなく魔法をかけられるミケランジェロくんは、かなり優秀な神聖魔法使いだ。
チンピラ風味だけど。
「きょおおおおおおおおおおおおおおーん!」
胸に抱えたきょんたが大きく鳴いて、魔物たちのターゲットをこちらに引っ張る。
「オラオラオラオラーッ、突っ込むぜェ!」
あっ、僕もチンピラ風味になっちゃったよ。
結果、クマとイノシシはダイヤモンド一家の敵じゃなかった。
僕の転がりで魔物たちの殺意を引きつけて、無防備な背後からアグネスさんが頭を切り落とす。
魔鋼を使った重い斧なので力が乗って、余裕で首が飛ぶ。
首狩り斧娘だ。
「なにっ、コロンッ?」
「なんでもないですぅ」
斧を振り回しながら心を読むのはやめてください。
「どうしたコロン、おめえの転がりはそんなもんじゃねえはずだろう!」
「こんなもんだよ、あんまり転がれないんだ」
「まあ、ウサギん時よりかは転がってるか」
「うん」
一番凶悪なレッドアグリーベアの攻撃は、まあまあ転がることができたけれど、背中のトゲトゲを生かした反撃は出せなかった。
ということは、もっと強い魔物と戦わないと、僕の攻撃は使えないの?
残念だよ。
あっ、背中がプルプル震えている。
違うよ、ロボは全然悪くないから気にしないでね。
「オラオラオラオラーッ!」
たくさんの戦闘で経験値的なものを吸い込んだミケランジェロくんは、殴りパワーがアップしていて、イノシシの頭を次々と陥没させている。
ストーンボアって頭に岩の帽子をかぶっているようなものだから、かなり固いんだ。それをビスケットみたいにザクザク砕いているよ。とても聖職者には見えない姿だよ。
テオドールさんは黙々と短剣で魔物の急所をえぐっている。軽い散歩でもしているようなフットワークでさくさく巨大な魔物を狩る姿は、とてもクールでかっこいい。僕はやっぱりこの路線を目指したいよ。
「きょおおおおおおおおおおーん!」
「オラオラオラオラオラオラーッ!」
現実はこれだけどね……いいんだ、僕には伸びしろがあるんだよ。
「なかなか美味しい狩りだったわね」
「ああ、もうクマとイノシシは楽勝だな。次は森の中か?」
「無理はせずに攻めていこう。コロンは必殺技が出せなくて残念だったな」
「うん。もっと訓練して、転がり爆裂アタックとかやりたいな」
「がんばれ」
なんて話しながら街の方に向かおうとした時。
ルアンの方角から、緊急事態アラームが鳴り響いた。
四方を囲む壁の上に付いているアラームだ。滅多に鳴らさない、本当の緊急事態を知らせるアラームに、僕たちは顔を見合わせた。
「なんだろう?」
「とりあえず冒険者ギルドに行ってみよう」
僕はロボに「腕輪に戻ってね」とお願いしてアルマジローンを脱ぐと、ダイヤモンド一家と一緒に街に向かって転がった。




