第38話 不穏な知らせとロボ
ギルドに着いた僕たちダイヤモンド一家は、担当のエルザさん経由で「サーザワン聖下がギルマスに会いに来るらしいですよ」と伝言を頼んだ。
するとすぐに奥から真っ青な顔の、モヒカンエルフことイシューヴァさんが出てきた。
「おい、どういうことだ?」
「こんにちはー、皆さんまだ領主さまのお屋敷だけど、準備しておいた方がいいですよ」
「なんてこった、この忙しい時に……だが、こんなところにわざわざ足を運ぶとは、ただごとじゃなさそうだな?」
確かにすごく忙しそうだ。
目の下にクマができてるよ。
「『神聖回復」
ミケランジェロくんが回復魔法をかけると、ギルマスの顔色が良くなった。
「おお、ミケ、ありがとう」
「いいってことよ」
優しいなあ、ミケランジェロくんのそういうところが、真の聖職者なんだよね。
僕はギルマスをちょいちょいと指で呼ぶと、「ここだけの話、魔物の異常に関する重大な情報があるんです。防音室を用意してください。あと、聖下には警備の鎧の人がガシャガシャ着いてくるので、たくさん入れる部屋がいいですよ」と耳打ちしてあげた。
「最近その地位についた聖下らしいですけど、悪い人ではなさそうでした。神殿の方でえらいことになってるみたいだから、優しくしてあげてくださいね」
「お、おう、優しくな」
「ミケランジェロくんがよく知ってるみたいですよ」
そう言うと、ミケランジェロくんもこそこそ話に入って来た。
「サーザワンは腕っぷしが強くて、孤児院のガキに遠慮なく雷を落とす神官だ。俺もガキの頃だいぶゲンコツを落とされた。昔は権力欲なんてなかったんだが、成り行きで聖下なんてものになっちまった荒っぽいおっさんだから、ギルマスとは気が合うんじゃねえか?」
「きょんきょん」
「まあ、なんか手伝えることがあったら声をかけてくれよ」
「僕も手伝いますからね。イシューヴァさん、あんまり無理をしないでくださいね」
「回復魔法くらいならいくらでもかけてやるぜ」
「きょんきょん」
「……おまえたち、いい子だなあ」
ギルマスはきょんたの頭を撫でた。
そして、油断していた僕の頭とミケランジェロくんの頭を撫でた。
ミケランジェロくんは「おい、俺まで撫でるんじゃねえよ、コロンでやめとけっての」と照れて避けようとしたけれど、素早い動きのギルマスに捕まってぐりぐり力を入れて撫でられていた。
ギルマスもかなりの腕利きと見たよ。
それからサーザワン氏たちがやって来て、ギルマスと情報の共有をしたらしい。僕たちは「今日はおしまーい! ゆっくり休みましょう」というアグネスさんの一言で解散して、各々自由時間を楽しんだ。
僕はきょんたを頭に乗せて街をぶらつこうと思ったんだけど、ロボが変身して『ちょっと草原に出ませんか?』と言うので、初めて僕ひとりプラスきょんたとロボで街の外に出た。
怖がりやのロボは、ジェスチャーが終わるとすぐに腕輪に変わって僕の腕にしがみついている。
街の付近にはほとんど魔物は出ないし、万一出てもせいぜいウサギが一匹くらいだから、その辺を歩いている初心者冒険者に「お願いしまーす」と渡してしまえば喜んで倒してくれる。
僕はねー、攻撃力は皆無だからね。お任せするしかないんだよ。
「そういえば、ロボは鎧ふたつ分を取り込んだけど、全然大きくならないよね?」
聖騎士の鎧は、不純物を除けてもかなりのボリュームだけど、それをふたつ分だからかなりの量だ。だから僕はてっきり、ロボが等身大のロボットに変身するんだと思っていたよ。でも、そのままのサイズで僕の腕輪になってるんだよ。
「この辺なら人気がないな」
僕はロボにここでどう? と尋ねた。
腕輪がかしょんかしょんいいながら人型になった。
『それでは、変わります』
「はい、どうぞ……うわ、でっかいね!」
ロボは、とても大きな金属の板になった。そして、軽い音を立てて折りたたまりながら僕の背中を包み込む。
「背中にくっついたよ」
「きょん、きょん、きょん」
きょんたが僕の背中を見て鳴くので、一生懸命に首を伸ばして見てみると、そこには大きくて太いトゲトゲがたくさん並んでいた。
「これは、もしや……」
僕は身体を丸めるようにして転がった。
「アルマジロにそっくりかも!」
「きょん!」
僕はトゲのあるアルマジロに進化したみたいですよ。
「このままぶつかったら、攻撃になるよね?」
「きょん!」
やったね、僕は攻撃力をゲットしたよ!
でも……正直に言って、見た目がダサいよ!
そして、翌日。
僕たちダイヤモンド一家は、新たなるアルマジロ形態の検証をするために、草原の真ん中あたりに来ていた。ここならミツメウサギとツノネズミとカマモグラの他にもミジカイヘビやナナイロダチョウもたくさんいるので、多少狩り過ぎても他の冒険者の迷惑にはならないはずだ。
ロボに変身してもらい、聖銀の防具を背中に張りつかせてトゲトゲアルマジロになった僕は、アグネスさんにくすくす笑われたので気を悪くした。
「ごめんね、コロン。想像したのと違ったから、つい」
うん、僕も想像してたのと違ったよ。もっとかっこいい感じになると思ってたもん。まさかアルマジロになるとは思わなかったもん。
「それじゃあ、転がるから見てて」
「おう、やってみろ!」
あいかわらずのミケランジェロくんがとても偉そうに言って、アグネスさんにどつかれている。
僕は、転がった。
「……おい、どうした?」
「これ以上は自力で転がれないんだよ」
「マジかよ!?」
マジだよ。これじゃあ、草原に落ちてる岩と同じだよ。
「どうしよう? せっかくロボががんばってくれたのに。まだ僕が未熟だから、使いこなせてないんだろうね」
テオドールさんが腕組みをして、ううむと唸った。
「魔物の攻撃を受けると、その力で転がるのかもしれないぞ」
「きっとそうだ! 俺、魔物を引っ張ってくるわ」
ミケランジェロくんが、遠くの方に見つけたミツメウサギの群れに突撃して、一発殴り倒してからこっちに戻ってくる。その後ろには、怒りのあまりに耳まで裂けた口からだらだらよだれを垂らしたウサギの魔物たちが、ミケランジェロくんを食い殺そうと殺意満々で追いかけてくる。
「そら、なすりつけるぞ!」
「うん!」
立ち上がった僕は、ウサギに向かって転がった。魔物たちの憎しみはすべて僕に向かったので、僕は体当たり攻撃や蹴飛ばし攻撃、噛みつき攻撃などをいっせいに受けた。
その力が転がりに変わって、僕は転がって……すぐに止まった。
「ちょっと、コロン、大丈夫なの? 痛くないの?」
「うん、全然痛くないけど、なんかかっこ悪くてやだよー」
丸まった僕は、ミツメウサギの群れに囲まれてボコボコにされている。ウサギたちは興奮して僕しか目に入っていない。それを落ち着いたら手つきでテオドールさんは突き刺し、ミケランジェロくんは殴り、アグネスさんはナイフで切り裂いている。
僕はその場でグラグラ動いていて、これが転がりにカウントされているらしくて完全に攻撃を防いでいるんだけど……。
「コロン、絵面がヤベェぞ! こっちは楽でいいけどよ」
「そうだよね、ヤバいよね。僕、もっと勇ましくてかっこいい感じで役に立ちたいよう、丸まってボコられるのはやだよう」
「きょーん」
腕の中のきょんたも同意した。
僕の攻撃力、どこ行った?
その日僕たちは、またしてもオーロラウサギを出して、他の冒険者たちに喜ばれたのだった。




