第4話 怖い話を聞いてしまった
「テオドールさん、僕がこの世界で生きていくのに、どんな方法があると思いますか?」
僕はルアンの街へと足を運びながら、現れる魔物を安定のワンパンで倒してくれる頼もしいイケメン冒険者に尋ねた。
彼らと出会ったのは山に近い場所だったので、街へは二時間以上歩かないと到着しない。ダイヤモンド一家のメンバーだけならば、走って時間短縮できるらしいけれど、もう仕事も終わりだし、せっかくだから疑問点を解消するためにのんびりお喋りをしながら帰ろうということになった。
ちなみに、のんびりできるのは彼らが腕の立つ冒険者で、この辺りで襲ってくる魔物は敵ではないからだ。
「ミケランジェロくんが言うように、僕が『神の落とし子』というものだったら、なにかやらなければならない義務みたいなものが発生するんでしょうか?」
「んーなもん、ねーって! 安心しろよ、コロン。神についてはこの俺が全部教えてやるからよ、この偉大なる神の忠実なしもべ、はぐれ神官のミケランジェロさんがさ!」
ワイルド系神官のミケランジェロくんが、僕の肩をがっしりとつかむ。その頭を、テオドールがもっとがっしりとつかんで僕から引き剥がしてくれた。
「ミケ、コロンは俺と話しているんだぞ。邪魔をするんじゃない」
かっこいいな!
ワイルドの手本にするなら、ミケランジェロくんじゃなくてテオドールさんにしよう。
「ん、なんだ?」
「ワイルドですね!」
「……お、そっか?」
なんでちょっと引いてるんだろう?
「コロン、テオの兄貴をそんなキラキラした目で見るんじゃねえよ、減るだろうが!」
「いや、減らんが」
どうやらミケランジェロくんはテオドールさんのことが大好きなようだ。
間に割り込もうとするミケランジェロくんの襟首をつかむと、テオドールさんはちょうどやって来たミツメウサギの群れに投げ込んだ。
ウサギと言っても、口が耳の方まで裂けていてすごく怖い顔をしてるんだよ。さっきから見かけるモグラもネズミもイタチも、魔物はみんな口が裂けている。そして、人を見ると襲わずにいられない。それが魔物の特徴だそうだ。
ミケランジェロくんは、杖を振り回してウサギを一網打尽にすると、ウエストバッグにしまってから「兄貴、酷いよ〜」と駆けてきた。
アグネスさん? さっきからきょんたとお話ししているよ。
モフっとした小動物が大好きみたい。女の子らしくて可愛いね。
口に出すとテオドールさんにしばかれそうだから言わないけどさ。
「コロンが選べる道は、ざっくりふたつある。神殿の預かりになる方法と、冒険者ギルドの預かりになる方法だ。どっちも落とし子に対して生活の援助をしてくれる。冒険者ギルドの方は生きていく力を身につけさせて、できれば魔物を狩れるようになってもらおうという方向性だが、神殿の場合は下手をすると権威を象徴するための飾りものにされる可能性がある」
冒険者ギルドがあるんだね。知識として知ってるよ。
ここに落ちてくる時に、誰かが基礎知識を僕につけてくれたんだけど、それはどうも『RPGゲームの常識』ってものだったらしい。
で、ここの冒険者ギルドがどういうものなのかを聞くと、ダンジョン都市であるルアンの街にある大きな組織で、魔物を倒したりダンジョンを攻略する冒険者たちを束ねて、草原や森やダンジョンの魔物から取れた魔石、肉や毛皮や牙や爪といったアイテムの買い取り、冒険者の保護、といったことを行っているらしい。
ギルドの騎士団というものもあって、行方不明者の捜索や冒険者か絡むトラブルの解決を行なっている。
また、冒険者の育成も行なっていて、僕は初心者への講習を受けるように薦められた。
この世界の街や村には、ほとんどこの冒険者ギルドがあるので、ギルドに入るとどこでも使える身分証が手に入る。それを目当てに登録する人もいるようだ。
「街に入る門のところで、『神の落とし子』であることを報告するんだけどさ、どうするか聞かれたら絶対に冒険者にしとけよ。神殿の中にはよう、クソみてえな奴らがいんのよ。俺はそれが気持ち悪くて飛び出してきて、こうしてはぐれ神官をやってるわけさ」
ミケランジェロくんは「神に祈るのは、どこにいたってできるからな。お綺麗な服を着て、偉ぶって権力争いなんてやってるアホ坊主たちなんかと関わると、ろくなことにならねえぞ」と僕に忠告してくれた。
「ミケは……そういう腐った聖職者もどきの勢力争いに巻き込まれて、生け贄にされそうになって神殿を離れたんだ」
テオドールさんの言葉を聞いた僕は「い、生け贄? ミケランジェロくんは殺されそうになったの?」と驚いてミケランジェロくんを見た。
生け贄の命を捧げるとか、なんて恐ろしい信仰なんだろう!
ということは、この世界の神様は、そういうことを求めているのだろうか? 神様不信になりそう。
けれど、ミケランジェロくんはもっと恐ろしい話をした。
「血を流す生け贄の方がまだマシだぜ。おれは、ちっとばかり見た目がいいからって、賄賂として変態貴族に売られそうになったんだ」
「変態……貴族……」
「おう、変態の、野郎だぜ! 仕返しにタマぁ潰してやって逃げ出したところを、テオの兄貴に拾ってもらったんだぜ。もう二年前のことになるな」
「タマ……タマシイ?」
「そっちのタマじゃねえ」
よかった、殺人はしていないらしい。
じゃなくって、とんでもない話だったよ!
「コロンはぼっちゃんぼっちゃんした可愛らしい見かけをしてやがるからな、変態に目をつけられないようにしろよ?」
「ええっ! やだ、怖いよ」
「あいつらは、そういうビクビクした感じが好きらしいぜ」
僕はすがるような目でテオドールさんを見た。
そっと目を逸らされてしまった! 真実なの?
「そうねえ、充分過ぎるほど気をつけて、身を守った方がいいわよ。嗜虐趣味がある変態は、確かにコロンみたいなタイプの子を虐めたがるかもしれないわ。世の中には気をつけなくちゃいけない大人がたくさんいるから、あまり他人を信用しないでしっかりと相手を見極めるのよ」
きょんたを抱っこしたアグネスさんが、「がんばって、タマを取れるくらいに鍛えなさいな」と、冷たい視線で遠くを見ながら言った。
アグネスさん!
透明感のある美少女の口から、そんな話を聞きたくなかったよ!
まさか、アグネスさんもタマを取ったことがあるの?
ナラク、想像以上に怖い世界だったみたい……。
「コロン、神殿には近寄るんじゃねえ。もちろん、神の下僕としていい奴がほとんどなんだけどな。残念ながらいい奴には力がないんだよなあ。おまえはとっとと冒険者になって、戦闘力を身につけろよ。先輩からの忠告だ」
「わ、わかった、絶対に神殿に近寄らないよ、冒険者になって全力で強くなるよ!」
「よし、いい返事だ。神の下僕とのお約束だぜ!」
僕は、親しげに肩を抱きながらそう言う美少年に、ものすごい勢いで頷いたのだった。
聖職者だけあって、ミケランジェロくんはとてもいい奴だった。僕のことを心配して、舎弟にしてくれようとしたんだ。
「ミケ、そういうことは自分が一人前になってから言え」
テオドールさんに頭をつかまれて、お説教をくらっちゃってるけどね。お気持ちだけ、ありがたくいただいておくよ。
「まあ、こうして出会ったのもなにかの縁だ。よければダイヤモンド一家がコロンの後ろ盾になってやるが?」
「本当ですか? ありがとうございます、ぜひお願いします!」
ナラクに落ちる時にたくさん加護をもらったから、きっといい人たちに出会えたんだね。
ミケランジェロくんに「神様にお礼のお祈りをした方がいいかな?」と相談すると、彼は「いいね、そういう心がけが大切なんだ。よし、街に着いたら教会に案内してやるぜ。一般の信者が気軽に祈れる場所が教会なんだ。めんどくさいクソ聖職者はあんまり来ねえからな、安心して祈れ」と教えてくれた。




