第34話 神殿の偉い人
「貴様はミケランジェロか。ふん、破門されるようなやつだけあって、下品だな。おまえのような者が神を語るな」
そこそこ偉そうな神官の、嘲るような言葉を聞いたミケランジェロくんの青い瞳がぎらりと光った。
「あーうるせェうるせェ、どっかの負け犬がキャンキャンうるっせェなァ。信者の金を吸い上げてこんな駄犬を飼い散らかしてるとは、神殿ってェのはたいしたマヌケ揃いだなァ、そのうち天罰がくだるんじゃねえか?」
「なっ、なんだとっ!」
「てめェは犬臭えんだよ、他人の衣の陰に隠れた犬っころさんよォ」
うわあ、巻き舌の使い方がとても巧みですごいチンピラ味だよ!
ミケランジェロくんの特技なのかな?
アグネスさんは「いやだわ、本当に下品だわね」と眉根を寄せている。
うん、彼の真似するのはやめておこう。僕はテオドールさん風のワイルドになるんだ。
そこそこ神官は、顔を真っ赤にして震えている。あれは怯えているんじゃなくて、怒っているんだよね。
神殿から来たという聖騎士もかなり腹を立てて「おのれ、無礼者めが! 成敗してくれる!」と叫んで剣を抜きそうになっているけれど、それをザザッと囲んだスタインデール伯爵家の騎士たちに圧力をかけられて、思いとどまったようだ。
「ミケランジェロくん!」
「なんだ、コロン」
ミケランジェロくんが、僕にも「ああン?」とチンピラ味を振りまいた。
「そんなことを言ったら、犬がかわいそうだよ! そんな、口が臭そうな神官と一緒にしたら犬に失礼だよ、犬は素敵な生き物なんだからね!」
そこそこ神官は、反射的に口をおさえた。
ミケランジェロくんが「口、本当に臭いのか……」とドン引きしたような表情になった。
「おっ、おう、そうだな、すまんかったぜ。神よ、犬に失礼な発言をした俺をお許しください。この世の中の全犬に謝罪します……にしても、おまえも容赦ねえなあ……」
「僕は真実を述べただけだよ?」
「真顔が怖えわ」
濡れた犬は確かに臭いけど、洗えばいい匂いのモフモフになるんだからね。
そんな僕たちを見て、肩にロボを乗せたスタインデール伯爵は、ロボと一緒にぶるぶる震えていたけど、あれも怯えではなくて笑いをこらえているようだね。
しばらく震えてから伯爵は側仕えらしい男性に「では、そろそろサーザワン聖下をお通ししていい頃かな」と声をかけた。
大物の登場らしい。ミケランジェロくんの顔つきが変わった。
「サーザワン……なんでだ?」
「知ってる人?」
「まあな」
ミケランジェロくんの表情から推測すると、仲良しではなさそうだよ。
なんか、目つきが悪い偉そうな人がやって来たよ。豪華な白い服を着ているけれど、ミケランジェロくんの服とはかなりデザインが違う。
「初めまして。王都の神殿を預かっております、サーザワンと申します。この度は『神の落とし子』が神より遣わされていらしたとお聞きして、神殿での保護を申し出ようと参った次第です」
体格のいいサーザワン氏が丁寧な挨拶をしてきたので、僕も「初めまして、コロンといいます。どうやら僕は『神の落とし子』というものらしくて、加護をたくさんもらっています。で、この世界で生きていこうとがんばっているところです」と自己紹介をした。
「一応、『神の落とし子』という立場についての説明は聞きました。その上で僕は冒険者として生きる道を選びましたので、せっかく足を運んで頂きましたがこれで失礼します。それじゃあ領主さま、またね」
「またね、コロンくん。お疲れ様」
スタインデール伯爵にバイバイしたロボが、テーブルに乗るとかしょんかしょんいいながら腕輪に戻り、僕の左手首におさまった。
サーザワン氏は目を見張ってロボの変身を見ていたけれど、ダイヤモンド一家である僕たちが部屋を出ようとすると「いや、話はまだ終わっていない」と低いけれど威圧的な声を出した。
わー、やな感じだね。
「サーザワン聖下に無礼を働くと許さんぞ!」
さっきのそこそこ神官が、やたらと偉そうに言ったので、僕は「どこが無礼ですか? むしろあなたの態度の方が無礼だと思いますよ」と言った。
「無礼っていうのはこういうことです」
僕はあかんべーをしてみせた。
この世界で通じるかな?
すると、さっきからいる聖騎士がとうとう剣を抜いた。
「もう生かしておけんぞ! 神の名の下に成敗して……」
と思ったら、聖騎士が吹っ飛んだ。
その横っ面に、サーザワン氏が右拳をぶちかましたのだ。
「なにを思い上がっているのだ! 軽々しく神の名を使うな!」
まさかの筋肉系なの?
特大の雷が床に転がる聖騎士に落とされたのを見たミケランジェロくんが「あんた、変わってないんだな」とサーザワン氏に言った。
「なにをとち狂って、サーザワン聖下なんつーものになっちまったのか知らねえが、コロンに手出しはさせねえからな?」
「我々は『神の落とし子』を害そうなどと考えていない」
「んなこと考えてたら、神殿ごとぶっ潰してるぜ。神殿で俺が浄化魔法をかけたら、困るやつがうじゃうじゃ湧いて出てくるんじゃねえか、ああン?」
ミケランジェロくんの言葉を聞いて、僕は不思議に思った。
なんで困るのかな?
すると、アグネスさんがとても優しい声で言った。
「あのね、浄化魔法をかけられるとね、悪いことを考えている人は苦しくてたまらなくなっちゃうのよ」
「そうなの?」
「そうよ。ゾンビとかスケルトンとかゴーストといったアンデッド系の魔物なんかは、浄化されたらそのまま昇天して消えちゃうでしょ。そんな感じね」
「もしかすると、悪い人も消えちゃうの?」
「心が真っ黒に染まった悪い人だと、脳が焼き切れて精神崩壊しちゃうの。身体は残るけど中身がないから、単なるお肉になるわ」
「うわあ……エグいな……」
僕は顔を引き攣らせた。
え、待って。
神殿って、神様に仕える心が真っ白な人ばかりがいるんだよね?
なんで浄化されると困るのかな。
僕がサーザワン氏をじっと見ると、彼は額に手を当てて「はあ……」とため息をついた。




