第33話 聖職者、とは?
僕たちは、だだっ広い真ん中にシンプルな応接セットが置いてある部屋で、領主さまであるスタインデール伯爵の「この街は大丈夫かな? 魔物が襲ってこない? なんか最近、変な感じだってギルドマスターから聞いたんだけど危ない感じじゃないよね? ないって言ってよ!」という不安についての相談(?)にのっていた。
時々、いつの間にか領主さまの膝に乗ったきょんたが、きょんきょん鳴いて頬を優しく触り、力づけている。
空気が読めて、思いやりのある立派な天狐だね。
領主さまも、心なしか顔色が良くなってきたよ。
主に領主さまとダイヤモンド一家の意見交換みたいになっていて、付き添いのトライザーさんや領主さまの護衛の騎士さんは口を挟まない。
護衛の人はかなりの人数だけど、部屋が広いから大丈夫。ずらっと並んでいて威圧感があるけれど、ついこの間に巨大なレッドアグリーベアをこてんぱんにのしてやった僕たちは、この程度じゃびくともしないよ。
あっ、うちのロボは怖がりさんだから震えていたけどね。
話に混ざりたくなったのか、いつもは腕輪になって僕の腕で震えているロボが、積極的に人型に変身した。
そして領主さまに『この街の防備は素晴らしいですよ。特にあの外壁は素晴らしいです、かなり安全性が高いと思います。よく作りましたね、いい仕事ですよ』なんてちょっと上から目線で言って、誉めている。
領主さまは、普通の腕輪だと思っていたロボがかしょんかしょんいいながら変身するのを見て驚いたのか「うわあっ!」と叫んでソファーの後ろに隠れてしまったけれど、怖がり屋さん同士の心が通じ合ってしまったのか、すぐにジェスチャーでの意思疎通を完璧にこなせるようになっていたよ。
ちなみに、ロボの変身を見ても騎士さんたちは冷静でした。『神の落とし子』の相棒として、ロボの存在はちゃんと報告されていた模様です。
それでも領主さまは飛び上がって驚いていたけどね。
知ってたんだよね? 仲間はずれにされてないよね?
「畏れながら、申し上げますわ」
アグネスさんが、貴族のお嬢様のような喋り方になって言った。
「この街には強い冒険者が多く滞在しているから、万一スタンピードが起きてもそんなに恐れることはないと思いますし、森の魔物くらいならなおさら大丈夫だと思います。まったく脅威ではありません」
身分が高い人を前にしても落ち着いている。さすがはクール系美少女のアグネスさんだ。
「定期的な駆除で、森や草原の魔物は数がコントロールされていますし……ダンジョンの間引きも順調だと聞いていますわ。わたしたちが出くわした二件の魔物の異常、ウシとサルの件も、Cランクのパーティなら余裕で対応できるレベルでしたよ。まあ、わたしたちもあの時から力をつけていますから、今なら余裕でやっつけられますね」
最後のあたりではちょっと迫力が出ちゃってる。
やっぱりアグネスさんは、お嬢様ではなくて腕利きの戦士だね!
領主さまは、アグネスさんの言葉に感銘を受けている。
「そっ、それは頼もしいね! ダイヤモンド一家のみんなはずうっとルアンの街にいてね? これからもいてくれるよね? おじさんとの約束だよ? ね、ね、リーダーのテオドールくん?」
領主さまに迫られたテオドールさん(さすがのおじさんも、美少女に迫るのはまずいと思ったみたいだね)は、苦笑しながらも「領主さまのご尽力で、このルアンの街は冒険者にとって、とても居心地がよい街になっています。もちろん俺たちもルアンが好きですから、末長くここで活動していきたいと考えていますよ」と言った。
「よーしよしよし、やったね! これでルアンは安泰だね!」
領主さま、めっちゃ喜んでいるよ。
でも、おじさん……じゃなくて領主さまが資金を注ぎ込んで、自分のためのお金なんかも使っちゃってくれるから、冒険者ギルドは新人の育成や冒険者の保護を丁寧にしてくれるし、設備や万一の時の保証なんかも整えてくれているんだ。だから、ルアンの街は冒険者にとっていい街だし、ずっと守り続けていきたいって思えるんだよね。
そして、超ビビリの領主様は愛されているおじさんなんだ。
領主さまとの話し合いはよい結果に終わりそうだったけれど、神殿からやって来たという偉い神官と聖騎士たちが来てしまったので、雰囲気は一変した。
他の部屋で待たされていたらしいけれど、なかなか呼びに来ないからと腹を立てた、偉い神官のお付きのそこそこ偉い神官と聖騎士が、半ば無理矢理に部屋に入って来てしまった。
「うわあ、聖職者って礼儀を知らないんだ。びっくり」
思わず呟くと、護衛の騎士たちに立ちふさがれたふたりにギロリと睨まれてしまったよ。
僕もワイルドに睨み返したけどさ。
「スタインデール伯爵、わざわざ王都から足をお運びくださった聖下に対するこの扱いには、いささか問題があるのではないでしょうか? 神殿への、ひいては神への冒涜とみなされますぞ!」
聖下っていうのはおそらく、王都の神殿のトップかトップに近い人なんだと思う。ずいぶんと大物が来ちゃったな。『神の落とし子』のネームバリューがすごいね。
スタインデール伯爵は、低いけど通る声で言った。
「神への冒涜だと? だが、神に仕える神官よりも神に近い位置からこの世界にいらした『神の落とし子』の方が優先されるんじゃないのか? 宗教的にどうなのだ?」
またびっくり。
領主さまが貴族っぽいよ。
迫力のある言葉に神殿から来た人はぐぬぬと唸って黙ってしまった。
ナイス、領主さまナイスファイト! とちっちゃくサムズアップすると、領主さまもちっちゃなサムズアップで応えてくれた。
「もっちろん、大いなる神の加護をたあーっぷりいただいた、『神の落とし子』であるコロンのことが一番の優先になるよなァ? そこんとこをしっかりと認識してくれないと困るぜェ? ああン?」
ちょちょちょ、ミケランジェロくんがチンピラ化しちゃったよ! 神殿の人と聖騎士に思いきり眼を飛ばしまくってる。
これは僕も参戦しないといけない流れかな!
「あ……んぐ」
「コロンは駄目」
アグネスさんに、素早く口をふさがれてしまって、僕のワイルドなガンつけは不発に終わっちゃったよ。僕も「ああン?」ってやつがやりたかったのに! ちょっとやさぐれた感じがイカしてる、ワイルドな冒険者的なやつをやる、一生に一度あるかないかのチャンスだったのに!




