第32話 領主の邸宅
「俺が同席できればよかったんだが」
ギルマスのイシューヴァさんは難しい顔をして「魔物の異常の件で、今はギルドを留守にできないんだ。すまん」と言った。
「代わりにと言ってはなんだが、騎士のトライザー卿に立ち合いを頼んでおいた。彼はスタインデール伯爵家に所属する騎士で爵位も持っている力のある人物だし、神殿とは関係がない。客観的な立場から相談に乗ってくれるはずだし、万一、神殿側から無茶な申し出があった場合には、盾になってくれるはずだ」
「それは心強いです。ありがとうございます」
「そして、領主の信頼も厚いので、領主から無茶振りがあった場合にも止めてくれるだろう」
「あ、領主様からの無茶振り? ええと、ありがとうございます?」
僕が首を傾げながらお礼を言うと、イシューヴァさんは「大丈夫とは思うが……あとはミケの暴走を抑えることを忘れるなよ」と言った。
「おそらく、神殿側も護衛の聖騎士を連れてくるだろう。ミケと顔見知りの者がいたら……」
「ボコボコにしてやるぜ!」
「というようなことにならないよう、しっかりと手綱を握っておけ。ミケ、感情に任せてコロンを窮地に陥らせるなよ」
「イシューヴァさん、ミケランジェロくんはどこかに隠しておいた方がいいんじゃないですか?」
僕がそう言うと、みんなは「は?」という顔になった。
「ミケランジェロくんに敵対するような奴が来たら、僕は普通にミケランジェロくんを守りますけれど、嫌な思いをさせることはないと思うんです。だから、どこかに避難していてもらいましょうよ」
「おいおい待て待て、なんでそうなるんだよ。ヤバいのはおまえだろうが」
ミケランジェロくんが僕の背中を叩いて言った。
「え? なんで? 僕は冒険者ギルドに所属して、ダイヤモンド一家の一員として冒険者生活をするんだよ。それは揺るがないでしょ? だから神殿には行きませんってきっぱりと言えばそれで終わりだよ」
「……おまえはふわふわしているようで、意外と気が強いというか、頑固なんだな」
「ふわふわしてるのは、きょんたの毛並みだよう、モフモフでふわふわで可愛いよう」
「きょーんきょーん」
相思相愛の僕たちがすりすりしあっていると、イシューヴァさんが「……なんか、心配はいらんようだな。よし、ミケはおとなしく守られてこい」と言って仕事に戻って行った。
ミケランジェロくんも「お、おう……え、違うんじゃねえか?」と言いつつも「まあ、いざとなりゃコロンが転がってすべて解決してくれそうだな!」とサムズアップしてキリッとした顔になった。
ふたつめの高い壁を越えて貴族たちが住んでいる場所を通り、領主の邸宅に行くのだから、ちゃんとした服に着替えた方がいいかなって思ったんだけどね。
僕は転がり対応機能付きのこの服以外には着替えられないし、他の三人もいざという時のために動きやすい服でいたいから(聖騎士と戦うことを考えていたりはしないよね?)ということで、僕が清浄の魔法を丁寧にかけて、いつものかっこうで迎えの馬車を待つ。
お昼ごはんは出ないので、ちゃんと済ませたよ。
領主さまも、呼ぶからにはご馳走を出してくれればいいのにな。
そう言ったら、アグネスさんに「コロンは身分とか面倒なことを超越しているのね」とため息をつかれてしまった。
でもさ、同じ人間なんだから上も下もないと思うんだよね。
これでおやつも出さなかったら、僕は領主さまの人柄を疑うよ?
「おおおおお、君が『神の落とし子』くん? 本物? なにかすごい力があるんだよね。そうしたら、その力を使ってぜひともわたしを守って欲しいんだけどね、まあこの街を守ってもらえればわたしも安心ってことだからね、よかったよ、ずっとこの街にいてよね? おじさんとのお約束だよ?」
おじさん……ではなくて領主のスタインデール伯爵は「ほら、おやつに美味しい飴をあげるからね。ここにいてね」と僕に素朴な飴をくれた。
「ええと、冒険者としてがんばります! ずっとこの街にいて、たくさん魔物を倒すからね」
「おおおおおお、よかったよー、これで安心だよー、ありがとうね、コロンくん!」
テンションの上がった伯爵を見て、僕の後ろに立っているテオドールさんとアグネスさんとミケランジェロくんが「ふう……」と力が抜けたようなため息をついた。
貴族街の真ん中にある、広ーい敷地に建った大きーい邸宅は、中は空っぽだった。
空っぽっていう表現は違うかな?
なんかね、市役所みたいだった!
貴族のお屋敷だから、なんかこう、凝った作りで美術品とか高そうなインテリアとか豪華なファブリックだとか、そんなものがいっぱいあると思っていたんだけどね。
冒険者ギルドの応接室? 会議室? あれと同じくらいのお値段だと思われるテーブルとソファがあって、僕はそこに座っている。
そして、ルアンの街を治めるための役場みたいなものが、領主の邸宅内にある。っていうか、ほとんどそれ。
領主さまはすみっこにある小さな部屋にひとりで住んでいるそうで、食事は社員食堂みたいな、職員さんたちがごはんを食べるところで一緒にとっているんだって。
ちなみにご家族は、王都にあるちゃんと豪華なお屋敷に住んでいるそうだ。
なんでこんなことになったのかというと、このご領主さまはものすごくビビりで、街の安全対策にほとんどの資金を使っちゃって、残ったお金でこの邸宅を建てたんだけど、内装にかける分が足りなくなってしまったそうです。
僕はいいお金の使い方だと思うよ?
街の安全を守る冒険者ギルドとか、一枚岩で防御魔法がこってりとかけられている街の防壁とか、冒険者ギルドの騎士団を結成するとかに、ありえないくらいに防衛費を注ぎ込んでいる。
魔物が襲ってくると、怖いから!
うちのロボといい勝負の怖がり屋さんだね。




