第31話 領主からの呼び出し
『大ザルアンド群れザル発生騒ぎ』があったものの、幸い死者や重傷者(ミケランジェロくんがさくっと治せちゃう程度の人はいたけど、それはかすり傷扱いらしいよ)が出なかったので、冒険者ギルドは落ち着いていた。
ただ、草原で活動する冒険者には、奥に行くときには充分警戒するようにという注意喚起がされたし、騎士団の巡回や冒険者パーティによる原因の究明も始まった。
騎士の中でも偉い人のトライザーさんは忙しそうだ。
アルタホースのところに遊びに行くのは、もっと落ち着いたらにしなくちゃね。
僕たちダイヤモンド一家はパーティのランクがDだし、ルアンの街では強いパーティが多数活動しているので、特に声はかけられなかった。
それは少し悔しかったよ。
テナガクモザル相手に遅れを取らないパーティだし、もうホーントベアもアグリーベアも楽に狩れちゃうんだからさ。
ミケランジェロくんがギルマスのイシューヴァさんに「なんだよう、ここは大活躍した俺たちがびしっと調査に出るところじゃねえのかよ」と絡んでいたけれど、イシューヴァさんに「いや、ミケはこのギルドの秘密兵器だからな。いざという時まで温存しておきたいんだ。出番が来る時までに、しっかり腕を磨いておいておけよ」なーんて言われて「おう、そういうことなら仕方がねえな!」と丸め込まれていた。
ミケランジェロくん、チョロいよ?
「コロン、おまえもうちの秘密兵器だからな。出番が来るまでは、しっかりと転がりの腕を磨いておけよ。頼りにしているぞ」
「はい!」
あれ? 僕もけっこうチョロい子かも……。
ということで、僕たちはひたすら連携の練習をしながら、狩りを続けていた。森の中にも入ってみた。
森は視界を遮るものが多いので、草原とは違った戦い方がある。
まず、敵の確認が大切だ。
うちのパーティには、斥候向きのテオドールさんがいて、ミケランジェロくんの探知魔法がある。
さらに、天狐のきょんたの野生の勘が役に立った。
つまり、きょんたを頭に乗せたテオドールさんは、無敵ってことだね!
絵面はちょっとアレだけど!
「兄さん……すっかり残念な姿になって……」
アグネスさんが、目頭を押さえて泣き真似をしている。
ふふふ、僕は知っているよ。
本当は自分の頭にきょんたを乗せたいことをさ。
過剰なほど警戒をしながら、接敵したらすかさず僕が転がる。
この方法で、僕たちは無理なく狩りを続けて、ちょっと大きめの魔物を狩れるようになってきた。
アグネスさんが「もうコロンを連れてダンジョンに潜っても大丈夫だと思うわ。森の手前に入れるレベルがあれば、低層界はさほど強い魔物は出ないのよね」と教えてくれた。
「でもね、ダンジョンの魔物にはある特徴があるの。妖精系の魔物が出るから、人の姿に近い敵を殺さなければならないわ」
「妖精系の魔物っていうと、ゴブリンとかだっけ?」
「そうよ。ゴブリン、オーク、オーガ、コボルト、ミノタウロスは二足歩行で、姿が人に似ているわ。それらを躊躇なく倒して、変に心が痛まないようにならないと、ダンジョンはキツイわよ」
小鬼、豚鬼、大豚鬼、犬鬼、牛鬼ってところだね。
「んなの、どうってことねーぜ。魔物だってことには変わりねーからな」
ミケランジェロくんが「ダンジョンの魔物はな、倒すと魔石と一緒に肉や毛皮を綺麗な状態でドロップするからな。お得だから俺は好きだ。遠慮なくやっていい奴らだ。どうせ俺たちを殺す気で向かってくるんだから、同情はいらねえぜ」とワイルドな意見を言った。
「だいたい魔物は、テイムできるもの以外は神が倒すことを推奨しているんだ。だから、倒すべきだ」
さすがは神官だね、揺るぎない気持ちがあるのは羨ましいな。
「ちなみにアグネスさんは、最初は抵抗があったの? その、人に似た魔物をやった時にさ」
「わたしは……」
アグネスさんは記憶を辿るようにして、しばらく無言になった。
そして、素晴らしい笑顔で言った。
「オークを倒したのが最初だわね。でね、その時に美味しい豚肉が手に入って、ニンニクをたっぷり使ったステーキにしたら、ほっぺたが落ちそうになったの。その時の嬉しい気持ちは今でも心の中にあるわ。だからダンジョンの魔物を倒すのは好きよ」
「あ、そう、抵抗はなかったんだね」
アグネスさんったら、可愛い顔をしてクールでワイルドだぜ!
僕はたぶん、どんな姿でも変わりなく戦えると思うんだよ。命の本当の形はまん丸だって知っているからね。
大きくて強い魔物ほど、体内に持つ魔石の質が上がり高値で売れるため、ダイヤモンド一家の資金は増えていく。
武器はこの前新調して、今度は三人の防具の方にも力を入れている。少しお高い加護付きの胸当てとか、パフォーマンスが向上するブーツも買った。僕の転がりがあるからほとんど被弾しないと思うけれど、備えあれば憂いなし、だよ。
「ミケの回復とコロンの防御力で、俺たちの動きも安定してきたな」
「そうね。防御を気にせずに全力を攻撃に振れるから助かるわ」
テオドールさんとアグネスさんの技術も格段に上がっている。
魔物との戦いの経験、魔力の吸収、そしてこの技術の向上で、ダイヤモンド一家はギルマスに「Cランクが見えてきたな」と言われるくらいになった。
奇妙な魔物の出現もなく日々が過ぎていたが、ある日、冒険者ギルドに行くとイシューヴァさんが浮かない表情で声をかけてきた。
「テオドール、領主から呼び出しが来た。今日の午後、ここに迎えの馬車が来る」
おお、噂のデキる領主さんだね。
ってことは、壁の向こう側を見ることができそうだ、やったね!
「それだけならいいんだが……」
「他にも何かあるんですか?」
「ああ。おそらく、神殿の聖職者と聖騎士が同席すると思われる」
ミケランジェロくんが、毛を逆立てた猫みたいになってなにか叫ぼうとしたけれど、最近とても腕力がついたアグネスさんに口を塞がれ、動けないように抑え込まれた。
「ミケ、滅多なことを言わないでよ。あなただけの問題じゃないし、コロンに迷惑がかかるからね」
美少女の口から、地の底から響くような恐ろしい声が出た。
ミケランジェロくんは身体を凍りつかせたけれど、ようやくうんうんと頷いた。




