第30話 戦闘終了
サルたちをすべて倒したので、普通サイズのテナガクモザルはミケランジェロくんの、巨大なサルは騎士団の人のマジックバッグにしまってから、ルアンの街に戻ることになった。
「怪我をしてる奴はいないか? 俺が治すぜ! すげー痛いやつが先だからな、遠慮すんなよ!」
騎士にタメ口をきくミケランジェロくんの頭を、テオドールさんが「おーまーえーはー」とぐりぐりしてから「口が悪くて申し訳ありません」と騎士たちに向かって頭を下げた。リーダーは大変だね。
「回復を申し出てくれたのはいい心がけだな」
トライザーさんも、ミケランジェロくんの頭をぐりぐりする。ダブルぐりぐりにあったミケランジェロくんは「ったく、ガキ扱いすんなよなー」なんて文句を言いながらも、騎士たちと断崖乱気流のメンバーたちをひとりひとり診察している。どうやらかすり傷しかなかったみたいだ。
「コロンがほぼ全ての攻撃を受けてくれたから、負傷者はいなかったな」
トライザーさんが「よくやった」と頷いてくれた。近くにいたら僕を撫でそうな瞳をしていたよ。
「我々は先に戻って討伐完了の報告をする。皆は自分たちのペースで戻ってこい。そして、冒険者ギルドでパーティごとに報告をするのだ」
トライザーさんの指示に「わかりました」と答えると、馬に乗ろうとしたので、僕は「トライザーさん、その馬って……」と額に生えているツノを見ながら聞いてみた。
「なんだ?」
「ツノがあってかっこいい馬ですね。でも、口が裂けてないから魔物じゃないんですよね?」
僕がかっこいいと言ったら、意味がわかったのか、トライザーさんの馬は「ぶるひん」と小さくいなないて、すっと背筋を伸ばして馬の見本のようなかっこいいポーズになった。右の前脚を軽く持ち上げて、なかなかイカした雰囲気だ。
他の騎士たちの馬も、それぞれ『わかってるじゃないか』というようなキリッとした表情でポーズをキメている。
「なんだ、急にどうした?」
「別の魔物でも感知したのか?」
騎士たちは馬の挙動を不思議がり、トライザーさんは「おまえは、もう……」と額をおさえた。そんな彼の肩にきょんたが飛び移ると、トライザーさんをなだめるように、きょんきょんと鳴いた。
嬉しそうな顔になった。
トライザーさん、ちょっとチョロいよ?
僕の視線に気がついたのか、真面目な表情に戻ったトライザーさんが言った。
「いや、この馬は人に敵意を持っていないから口は裂けていないが、れっきとした魔物なのだ。アルタホースという名の、頑丈な身体に強靭な脚を持つ魔物なので、騎乗に使われたり重い軍用の馬車を引いたりするのに使われるのだ」
なるほど、憎しみがないと口も裂けないんだね。
「つまり、皆さんはこの子たちを使役しているってことですね。馬に乗るから騎士ってテイマーなんですか?」
「いや、世話をするものが使役スキルを持っているのだ。詳しく知りたければ後で騎士に尋ねるといい。俺にでもかまわん」
「ありがとうございます! ふうん、アルタホースっていうのかー。かっこいいなあ……うわっ」
馬たちが僕のところに集まってきて『乗る?』『ちょっと乗ってみる?』『帰り道に乗ってみる?』『お砂糖持ってる?』と鼻先で僕をつつき始めた。とにかく身体が大きいので、僕は揉みくちゃにされそうになった。
きょんたが「きょん! きょんきょん!」と鋭く鳴いて馬たちに注意をしてくれたので『あっごめん』『あとで乗る?』『お砂糖ちょうだいね』『今度乗せてあげるね』と言いながら戻ってくれた。
狐も可愛いけど、馬も可愛いね。
「『神の落とし子』という者には、魔物も懐くのか?」
そんな独り言を言って、トライザーさんは街に戻って行った。
「帰りは狩りはしないよね? それなら、僕が転がって先行しようか? 魔物を引きつけるから、早く帰れるよ」
僕が申し出ると、断崖乱気流の人たちは「疲労は大丈夫か?」と尋ねてきた。
「回復魔法では、疲労までは取りきれないからな。無理をしなくていい」
「それは大丈夫ですよ。転がると自動的に体力が回復するんです」
「そいつはすごいな」
ベテランさんたちは「坊主の転がりは、他には見られない不思議なスキルだ。助けてもらってなんだが、あまりよそには情報を漏らさない方がいい」「もちろん俺たちは他言しないがな」と僕にアドバイスしてくれた。
「まあ、ダイヤモンド一家がついているから大丈夫だとは思うが」
「そうだな。腕も確かだし、急成長しているから頼もしい」
「あーあ、おじさんたち、すぐに追いつかれそうだなあ」
なんとなく和気藹々な雰囲気になり、僕たちは仲良く走りながらルアンの街へと走って帰った。
「ダイヤモンド一家、よく走ってくれた!」
冒険者ギルドに着くと、モヒカンエルフのギルドマスターが出迎えてくれた。僕たちの背中をワイルドに叩く。
ちょっと痛いよ、転がっちゃいそうだよ。
「断崖乱気流、全員無事でなによりだ」
「ダイヤモンド一家が来てくれて、ギリギリ命が助かったぜ。あと、この坊主ががんばってくれた」
断崖乱気流のリーダーさんに頭を撫でられちゃったよ。
「あんな魔物が草原に出るとなると、制限をかけた方がいいな。人死が出かねないぞ」
「そうだな。原因調査も行うつもりだ。声をかけたら受けてくれ」
「了解」
断崖乱気流はCランクの強いパーティなので、不意を突かれなければテナガクモザルの群れでも対応できるらしい。今回は、いるはずのない場所で待ち伏せ襲撃をされたため、危険な状態になったとのことだ。
けれど、巨大なサルは、彼らには手強すぎるそうだ。使っている武器が剣なので、瞬間的な火力が出にくいし、魔物が大きくなればなるほど外皮が硬化する。そのため、巨大な魔物にはアグネスさんの斧や棍棒、メイスのような打撃武器の方がダメージが通るのだという。
そのあと僕たちは、個室に通されてギルド職員のお兄さんに報告をした。
なぜかお菓子とジュースが用意されていて、テオドールさんが首をひねっていたけれど、ギルド職員のお兄さんに「コロンくんがたくさん転がって疲れているだろうから、甘いものを食べさせるようにと、騎士団の人たちがお金を置いていってくれたんですよ」と笑顔で説明された。
どうやら僕は、まだ子どもに見えているらしいよ。
ダイヤモンド一家は、大きなお兄さんが1人に子どもが三人のパーティだと認識されているらしいことを知ってしまったよ。
この国では十九歳で成人するので、テオドールさん以外は未成年なんだよね。
「コロンは幼く見えるから、仕方がないわよね」
ええっ、お子さま扱いは僕のせいなの?
さっそくお菓子を頬張ってリスみたいになってるミケランジェロくんの方がお子さまに見えないかな?
「きょん」
きょんたが鳴くと、サルが怖くて固まっていたらしいロボが、僕の腕でふるふると震えた。
「ロボもがんばったね」
震えることもできないくらいに怖かったのに、偉かったよ。
心に傷を負ってなければいいんだけど。
僕が腕輪を撫でると、ロボはかしょんかしょんいいながら人の形に変身した。
そしてジェスチャーで『自分はまだ非力なのですが、少しずつ戦闘経験を吸収しています。お役に立てるまで少々時間がかかって申し訳ありませんが、しばらくお待ちください』と伝えてきた。
「焦る必要はないからね、ロボ」
優しく握手をすると、きゅっと握り返してきた。
『必ず、お役に立ちます!』




