第28話 恐ろしいサル
僕は転がっていると異常に視界が広がるんだ。前後左右が見える上に、転がり続けているうちに、上空から俯瞰するように遠くの方も見えてくる。
「見えた! 前方で冒険者が三人戦闘中、テナガクモザルは……五匹いる。その他に二匹が倒れているよ」
三人に向けて叫んだ。
ミケランジェロくんがテオドールさんとアグネスさんに身体強化魔法をかけたんだけど、今回は本気を出して二重がけしてくれた。その上での全力疾走なので、いつものランニングがバイクの速度だとすると、新幹線くらいの猛スピードが出ている。
そんな三人はもちろん喋る余裕はないので、僕に向けてハンドサインで『了解』を示してくれた。
テナガクモザルの群れと戦って二匹も仕留めたくらいだから、戦っている冒険者たちはかなり手練の冒険者らしいけれど、疲労と負傷で明らかに苦戦している様子なので、とにかく急いで参戦する必要がある。
「コロン、回復、投げたい」
ミケランジェロくんが途切れ途切れにそう言ったので、僕は「了解!」と転がり速度を上げた。その後ろからミケランジェロくんがついてくる。
「きょんた、テナガクモザルにわからせてやってよ」
僕が腕の中のモフモフにそう言うと、きょんたは「きょっ」と返事をしてから大きく息を吸い込んだ。
「きょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!」
きょんたの鳴き声がサイレンのように響き渡り、魔物の意識を強制的に逸らした。
秘技『可愛い子狐の鳴き声』だ!
「どっりゃあああああああああああああああああっ!」
続いて発した僕の気合いのこもった声を聞き、魔物たちの憎しみが一斉に僕に向けられた。テナガクモザルは今、転がる僕のことが憎くてたまらない状態で、僕に攻撃することしか考えられなくなっているはずだ。
口が耳まで裂けた手が六本あるサルたちは「キャアアアアーッ!」「ギュウウウウウーッ!」と奇声を上げて、僕に向かって跳躍した。
「『神聖回復』! 『神聖回復』! 『神聖回復』!」
ミケランジェロくんがフリーになった冒険者たちの間を走り抜けて、素早く回復していく。その後ろからテオドールさんとアグネスさんが続いた。
「おサルさん、顔もお尻も真っ赤でどうしちゃったのォ?」
僕は魔物たちを煽りながら、届きそうで届かない位置を転がり回って誘導する。
テオドールさんが「コロンは転がりタンクだ。魔物の隙を作るから、やってくれ」と三人の冒険者に指示を出した。
そして方向転換をし、一直線に並んだテナガクモザルに正面からぶつかり、奴らが繰り出す剛腕攻撃を受け止めた。
「ウギイイイイイイイイイーッ!」
すべてのサルの攻撃を受けた僕は、さらに転がった。
もちろん、ノーダメージだ。
サルの背後に、テオドールさんとアグネスさんがすでに回り込んでいる。
「いただきます」
黒光りする魔鋼の斧が、しなやかな美少女の腕で振り上げられて、サルの首を綺麗に斬り飛ばした。
テオドールさんの雷撃を纏った短剣も、さっくりとサルの命を刈り取る。
「このっ、このっ、このっ、このっ」
ぐしゃ。
ミケランジェロくんはサルの頭を連打して陥没させた。またしても変な汁を撒き散らしている。
僕、そのサルは受け取らないからね。
冒険者たちは、一瞬呆気に取られていたが、すぐにテナガクモザルをこてんぱんにやっつけてくれた。
「皆さん大丈夫ですか?」
「ありがとう、大丈夫だ。助かったよ。テオドールたちは腕を上げたな。まさか無傷でテナガクモザルを倒せるようになっているとは驚いた」
褒められたテオドールさんはにやりと笑った。
汗だくになった冒険者たちに、僕はせっせと『清浄』の魔法をかけて、清潔にしてあげた。
魔法使いは楽しいね。
みんな、安心して。これでもう、美少女に「臭い」って言われなくなったよ。
「七匹のサルに襲われて生き延びているのもすごいな」
「ああ、なんとかなった」
ミケランジェロくんに回復してもらったから、こうして平然として会話をしているけれど、三人の冒険者たちの防具はボロボロで血で汚れていた。
「頭に狐を乗せている君、新人の子だね」
「はい、コロンっていいます。スキルは転がりです」
「見事なサル捌きで驚いたよ。初めて見たが、かなり使えるスキルなんだな」
「しかも魔法も使えるとは。綺麗にしてくれてありがとうな」
「えへへ」
ミケランジェロくんは「サルは俺が全部しまっておくからなー」と言いながら、せっせとウエストポーチに詰め込んでいる。あとで山分けするんだね。
「それにしても、こんなところまでテナガクモザルが出てくるとなるとはな。俺たちでギリギリだ、うっかり他の冒険者パーティが出くわしたら、普通に全滅するぞ」
「Cランクの断崖乱気流でギリギリだとは、もしかするとただのサルではなかったのか?」
「ああ、あいつらは連携を取りやがったんだ」
テオドールさんは驚いて「サルが連携、だと?」と言った。
「二足歩行する魔物とはいえ、知能は決して高くないテナガクモザルが、連携とは……これは危険度が増すぞ」
その時、きょんたが突然「きょっ! きょっ!」と警告音を出して、すかさずミケランジェロくんが気配を探知した。
「やべえ、強そうな奴がこっちにくる。しかも、一匹じゃねえぞ」
テオドールさんはしゃがんで手のひらを地面に当てた。微量の魔力を送り込んで、地面の反響から敵の位置を読み取る探査魔法だ。
「なんだこのスピードは! すぐに接敵するぞ、戦闘準備だ!」
なにが来るの?
「アグネスさん、ちょっと蹴飛ばして」
「いいわよ、ふんっ!」
アグネスさんの攻撃を受けて転がると、一気に視界が広がった。
ああっ、サルが!
しかも、すごく大きなサルが、普通のテナガクモザルを引き連れてこっちに向かってくるよ!




