第27話 ランクアップ
冒険者の戦いは、さほど華々しいものじゃない。どう動けばいいのかを経験を積んで覚えていき、他のメンバーの動きの癖なんかも覚えて連携の練度を上げ、自分に備わったスキルを積極的に使って磨いていく。
地道な努力の繰り返しなんだ。
だけど、そういう努力は裏切らない。
どんなに腕を上げたって、油断をすれば魔物に攻撃を受ける。鋭い爪で切り裂いたり、禍々しく光る牙で食いちぎったり、それはもう容赦なく悪意をぶつけてくる魔物を前にしたら、一瞬も気が抜けないのだ。
だから僕たちは、負傷しないように注意しながら狩り、万一怪我をしたら携帯している回復薬やミケランジェロくんの魔法で素早く治療し、完全に息の根が止まるまで魔物を切り裂き、ボコボコに殴る。
僕は、転がる。
誰にも魔物の攻撃が当たらないように、常に魔物の動きを追ってどこからぶつかればいいのかを素早く計算をして、転がる。
そんな毎日を過ごしているうちに、テオドールさんの雷撃斬の威力が上がり、アグネスさんの斧の一撃が重くなり、ミケランジェロくんは信仰心が全開でめちゃくちゃなほどすごい神聖魔法を繰り出して、いつの間にか僕たちはホーントベアの上位種であるブルーホーントベアを、一匹だけなら無理なく狩れるくらいになっていた。
一度なんて、ホーントベア、ブルーホーントベア、と連続で狩ることもできたんだよ。
その時は草原で出くわしたんだけど、テオドールさんは「先日の群れを作ったクマといい、頻繁に草原に出てくることといい、少し様子がおかしいな」と難しい顔をして、冒険者ギルドに報告をしていた。
「おめでとうございます、コロンさんは今日からFランク冒険者になります。ダイヤモンド一家としてパーティで活動する時に限りますが、ダンジョンに入る許可が出ました」
冒険者ギルドで担当のエルザさんに今日の報告をすると、いきなりそんなことを言われた。
「やったじゃねえか! コロン、おめでとう」
「よかったわね」
テオドールさんはなにも言わずに目を細め、ぐりぐりと頭を撫でてくれた。
お父さんかな?
だけど僕は「あれ? そういえばGランクはどうしたんですか?」と聞いてしまった。
だって、さっきまで見習いだったんだよ。次のランクはGだよ。
「コロンさんが冒険者になって二週間になりますが、その間一度も負傷することなく、安全に魔物を狩っていますよね。しかも、同じパーティのメンバーもほぼ負傷なく過ごせています。これはコロンさんがダイヤモンド一家のタンクとして立派に機能しているからです。ですから、すでにFランクの能力があると認定されました」
「わあ、すごい! ありがとうございます」
「なにしろ余裕でクマを狩れる実力がありますからね。ダイヤモンド一家の他の皆さんはDランクですが、その一員として無理なくタンクを担当しているので、コロンさんはすぐにEランクに上がれると思いますよ。でも、油断することなく、これからも安全に気をつけながらがんばって活動してくださいね」
「はい!」
嬉しいな、やっぱり強いパーティに入れてもらうと、上達が速いんだろうな。Dランクというのは、実力があってギルドからも一目置かれるランクなんだよね。だからこそ、『神の落とし子』である僕の後ろ盾になることができたんだって言ってたよ。
エルザさんは、真面目な顔で言った。
「無理しない、怪我をしない、死なない。他のなによりも優先してくださいね。死んだ冒険者になったら名誉も財産も意味がないんです」
「無理しない、怪我しない、死なない、了解です!」
僕も真面目に約束した。
お祝いムードになって、今夜はランクアップ記念ディナーでちょっといいお店に行こうか、なんて話しながらギルドを出ようとすると、ドアが開いて顔面蒼白片腕だらーり血もだらーりな、岩みたいな顔をしたおじさん冒険者が入ってきた。
「大変だ、草原に複数のテナガクモザルが出た! 日の沈む方角だ」
「マジかよ、『神聖回復』!」
「ありがとう、ミケ」
ミケランジェロくんがごく自然におじさん冒険者に回復魔法をかけた。おじさんの身体を白い光が包み、だらーりな腕は治ってちゃんと動かせるようになった。
さすがだね、使徒ミケランジェロくん!
「門で報告したか?」
いつの間にか姿を現したモヒカンエルフことギルドマスターのイシューヴァさんが、おじさん冒険者に尋ねた。
「ああ、報告した。仲間がまだ戦っているが手に負えそうにないから、騎士団に出てもらえるように頼んだ」
「それならいい……おい」
力尽きたおじさんが急に意識を失って倒れたので、ギルマスは片手を伸ばして受け止めた。そして、こっちを向いて言った。
「ダイヤモンド一家、先行してくれるか? おまえたちはとにかく移動速度が速い。危険な魔物だから無理に戦わなくていい、牽制してくれるだけで助かるんだが」
僕たちは顔を見合わせて、頷いた。
テナガクモザルは腕が六本に足が二本ある、身のこなしが優れたサル型の魔物だ。体長は僕の胸くらいの高さだから中型の魔物だけど、腕力が強くて倒すのに手こずる相手だ。
クマと違って群れを成すが、森からは出てこない種類の魔物だ。
このところなにかがおかしい。
でも、出てきてしまったものは仕方がない。
クマを倒せる僕たちなら、一匹ずつならばきっと対応できる。テナガクモザルの強みは木から木へと飛び回って上からの攻撃ができることだけど、幸い草原ではそれができない。
「引き受ける」
リーダーのテオドールさんが返事をした。
「頼んだ。騎士トライザーたちが後から向かうから、それまで耐えてくれ」
「了解」
テオドールさんはかっこよく片手をあげてから「行くぞ」と僕たちに声をかけた。
テオドールさん、アグネスさん、ミケランジェロくんは、本気の走りで草原を駆ける。
そして僕は転がる。
もうアグネスさんに蹴られなくてもかなりの速度で自由に転がれるようになった僕は、胸にきょんたを抱っこしてさりげなくモフりながら、自在に方向を変えて、おじさん冒険者が言ってた日の沈む方向に向かって転がる。
最近、転がりに余裕ができてきたよ。
こういう非常時のために、ギルドには騎士団がいる。彼らの所属は領主であるスタインデール伯爵家なんだけど、出向という形で街の警備をして、冒険者ギルドの手伝いもしているのだ。
騎士様たちが日常的にうろうろしているものだから、ルアンの街はものすごく治安が良くて、悪いことを企む人は滅多に近寄ってこないという。
そういう話を聞くと、ここの領主様ってできた人なんだなって思う。ぜひ会ってみたいものだよ。




