第26話 連携もばっちり
宿の食堂で夕飯を食べる前に、僕は全身にさっそく『清浄』の魔法をかけた。
「綺麗になったよね? どう?」
「そう言われてみるとそうだけど……コロンの服っていつも新品みたいだからわからないわ」
「そっか。効果があるのかよくわからないな、どうしよう」
「うーん……」
アグネスさんは考えてから「そういうのって、本人が一番効果を感じると思うのよね。わたしにも『清浄』をかけてみてよ」と言った。
そして、斧を出して見せながら「こことか、汚れてるでしょ。前後を比較したらわかりやすいと思うわ」と、とても賢いことを言った。
「俺にもかけてくれ」
「試しに俺も頼むぜ」
テオドールさんとミケランジェロくんが言ったので、魔法が使えるようになってウキウキの僕は「それじゃあ、いきまーす」と三人に『清浄』魔法をかけた。さらにかけた。もう一度かけた。
「なんで三回?」
「初心者だから、一回じゃ弱いかなって思ってさ」
「いや、一回でいいんじゃねえか?」
ミケランジェロくんは自分の身体の匂いをふんふん嗅いでから「汗臭くなくなったし、服も白くなったぜ」と言った。アグネスさんも「斧の汚れが消えたわ。役に立つ魔法を覚えてよかったじゃないの。コロンは魔力の残りを気にしなくていいんだから、これからは狩りの途中にもかけてよ」と、『清浄』魔法をリクエストしてくれた。
きょんたもきょんきょん鳴いて……あっ、おなかが空いたのね。はいはい。
夕食は出来立て熱々だったので、食べ物の温度を変える魔法は全く必要がなかったよ……ちょっとだけ残念。
でも、今日もごはんは美味しかった。
ここはいい宿だよね。
翌日になって、朝食を終えた僕たちは武器の購入に向かうことにした。
「おお、武器が並んでる。さすが武器屋だね」
ギルドの武器売り場に来たら、大きいのやら小さいのやら曲がったのやら真っ直ぐのやら、斬る、刺す、殴ると様々な武器がたくさんあった。
あれは魔法の杖かな?
長いタイプと指揮棒みたいな短いタイプがあるね。
おお、手につけて殴るやつもある。拳闘士が使うんだろうな。
ちょっと感動していたのに、ミケランジェロくんに「おめーは朝からなにを言っている。武器屋に武器があってなにが珍しいんだよ」と、かわいそうな子を見る目で見られてしまった。
あのね、他の世界ではね、こんなに大っぴらに武器を並べて売ったりはしないんだよ?
「おはようございまーす」
店員のおじさんに挨拶すると「よお、噂の転がり坊主じゃねえか」とにやりと笑われた。
「あれ、なんで僕のことを知ってるの?」
「その奇天烈なネクタイ、この国で転がりしか付けてないんじゃねえか?」
「なるほど」
この国には蝶ネクタイは普及していないんだね。
「これ、変かな?」
「自分がかっこいいと思えばかっこいいんだ。自信を持ってつけてろ。ファッションってのはそういうもんだ」
「そうだね、ありがとうおじさん」
「おう」
いい人みたい。武器屋のおじさんにファッションを語られるとは思わなかったけど。
「そういやあ、おまえさんたちはウサギを大当たりさせたんだってな。昨日はたくさんの当たりが出て、みんな大騒ぎだったようだぜ」
「金と銀が出たの?」
「銀がたくさん、金がそこそこって塩梅だったようだ。懐が温かくなって武器を買いに来た奴もちらほらいるぞ」
考えることは同じなんだね。
「ま、飲んじまった奴がほとんどだろうがな」
あー、冒険者ってお酒が好きそうだもんね。
買いたい武器のイメージがしっかりしていたので、試しに素振りをしてみてふたりともすぐに決まった。
「ちょうどいい魔鋼製の斧が売っててよかったわ」
アグネスさんは新しい斧を可愛がるように撫でている。
古い斧は予備武器として、武器や装備の収納専用の指輪、すなわちマジックリングに入れておくそうだ。
「マジックリングは、ダンジョンの低層界で多く落ちるから、駆け出しの冒険者でも手に入れやすいの。武器や防具とみなされるものなら長くても大きくても入るんだけど、他には非常用の食糧がちょっぴりだけしか入らないわ。入るだけマシだけどね」
お弁当があるとないとでは大違いだもんね。
「ミケのマジックバッグくらいの容量のものは、あまり落ちないから高いんだ」
雷属性の短剣を腰に付けて、以前の短剣を指輪にしまったテオドールさんが言った。彼も嬉しそうだ。
「ミケランジェロくんのは貯金して買ったの?」
「いや、ダンジョンの宝箱から出た」
「俺が開けたんだぜ! きっと神様の加護で出たに違いねえよ」
ミケランジェロくんは得意そうだ。そして、信仰心が熱い。厚いんじゃなくてメラメラと熱い。この気持ちがきっと神様にも届いているから、ミケランジェロくんはすごい神聖魔法をたくさん使えるんだろうな。
そういえば、神様は実在するんだよね?
教会で天界のお兄さんに会った時に聞いてみればよかったな。できれば会ってみたかった。神像になった神様は優しそうなお顔をしていたから、きっと優しい神様だと思うんだよね。
それにしても宝箱はすごいな、夢がいっぱい詰まっているんだね。
「僕も宝箱を開けてみたいよ」
「おーし、そのうち、コロンも連れて行ってやるからな。んで、幸運スキルで宝箱からいいもんを出してくれよな」
「わあ、今から楽しみだよ」
「そのためにも、転がりを使いこなして狩りに慣れるんだな」
「うん、がんばる!」
めっちゃ転がっちゃうぞ!
それから、草原を少し進んで新人の邪魔にならない辺りまで行ってから、僕たちは連携の練習をした。
まずは転がりまくって、どのくらいコントロールできるものなのかを確認する。
立っている状態から魔物に向かって転がる方法だと、補正がかかるのか必ず命中することがわかった。
その場合、時間の経過にも影響を及ぼすみたいで、例えばアシアカジャガーっていう素早く飛びかかる魔物があるんだけど、アグネスさんが飛びかかられた時に僕が転がると、間違いなく代わりに攻撃を受けることができる。
しかも、その場合には僕がぶつかる衝撃で一瞬魔物が硬直する。
これを利用して、アグネスさんが魔物に向けて斧をかまえる、彼女が魔物のヘイトを受ける、僕が転がって魔物にぶつかり攻撃を無効化及び硬直をさせる、防御ががら空きの魔物に全力の斧が振り下ろされて魔物の首が身体とおさらばする、といった具合に戦っていく。
草原くらいだと、アグネスさんは上手く力が乗った一撃なら仕留めることができるし、もしもやり損なった場合には素早く転がりUターンをした僕が再び魔物に体当たりするのだ。
テオドールさんはどちらかというと速度に特化した前衛なんだけど、雷属性の短剣を手に入れたので、僕がヘイトを取っている間に魔物の急所に雷付きの斬撃をくらわせるから、やっぱり一撃で仕留められる。
ミケランジェロくんは援護魔法に特化しているから、複数の魔物が出た時の足止め(『神聖閃光』じゃないやつね。あれは強すぎて、僕たちも目をやられかねないからね)とか、ふたりの攻撃力の上乗せを受け持っている。
「コロン、ずいぶんと転がりが上達したな」
テオドールさんに褒められた僕は「ふっふっふ、昨日までの転がりとはひと味違うぜ!」と、ワイルドな感じにネクタイを緩めた。
でも、加護付きの蝶ネクタイなので、緩めてもすっと元に戻っちゃうんだよね。
どんなに暴れても常にきちんとした身だしなみを保つ涼やかな男、それが俺です。ふっ。




