第25話 子どもたち
「他にも怪我をしてる奴がいるんじゃねえか? 頭をぶつけてたんこぶができたってーのも怪我だからな、ちゃんと見せるんだぞ」
僕は、院長室の窓辺で院長先生と並んで、庭で子どもたちを集めて回復魔法をかけているミケランジェロくんの姿を眺めた。
きょんたは遊びたい気持ちになったようで、今はマッハの勢いで庭中を駆け回って、元気な子どもたちと追いかけっこをして盛り上がっている。
ロボにも「遊びたい?」と聞いてみたけれど、ぷるぷる震えているのでそのままにした。ロボット的には、乱暴に手足をもぎ取られたらどうしよう、なんていう心配をしているのかもしれない。
アグネスさんは女の子と遊び、テオドールさんはやんちゃな子たちと身体を使った遊びをする役割。そしてミケランジェロくんは、いつも彼らの体調管理をしているらしい。まるでお母さんだ。
「孤児院は、領主様から頂いた予算と、親切な方々の寄付で運営をしております。でも、子どもたちに必要なのはお金だけではないのです。家族とのふれあいの機会を失った子たちは、このように可愛がってもらう経験に飢えているのですよ」
アグネスさんは、優しいお姉さんの顔をして、女の子たちをハグして頭を撫でている。そんなアグネスさんとの関わりで、子どもたちがとても嬉しそうに頬を染めている。
テオドールさんは……うん、筋肉クリスマスツリーだね。みんなきゃあきゃあ言いながら、大喜びでよじ登っている。
「ダイヤモンド一家の皆さんは、命をかけて稼いだお金の一部を子どもたちに分け与え、お金では買えないものもたくさんくださっています。本当にありがたいことですよ」
「……この世界では、身寄りのない子どもが生きていくのはとても大変なんでしょうね」
「はい。落とし子様がどのような世界からいらしたのかは存じませんが、ルアンの街以外の孤児院は生きるだけでも大変な場所です。それは、王都でもそうです。ルアンの領主様は立派な方なので、切り捨てる邪魔者として扱わずに孤児たちを育てようとしてくださいます」
つまり、よその土地では露骨に邪魔者扱いをされているんだね。
「テオ兄ちゃん、剣を教えてよ」
やんちゃチームが木の棒を持ち出してきた。すると、空気が変わった。きょんたは僕のところに駆け戻り、頭に飛び乗った。
子どもたちがチャンバラごっこを始めた。
すると、テオドールさんは子どもの遊び扱いをせずに、厳しい視線で子どもたちの動きを直していく。
「おまえは少し、脚がふらつき過ぎるな。今日から毎日、立ったりしゃがんだりの運動を朝と寝る前に百回やってみろ」
「それをやると、俺は強くなるの?」
「なる。下半身が安定すると強い剣が振れるようになる」
「じゃあやる!」
「おう、がんばれ」
朝晩に、スクワットを百回ずつ?
子どものやるトレーニングじゃなくない?
ハードに指導される子どもの真剣な表情に驚いていると、院長先生が「多くの孤児が魔物を狩る冒険者になります。幼いうちから訓練することで、将来の生存率が上がるのですよ」と教えてくれた。
「孤児院出身の子どもだけではありません。若くして冒険者になり、魔物に殺される人の数はとても多いのです。たくさんの冒険者が育っていきますが、どれくらいが生き残れるのか……でも、そんな人たちがいなかったら、村も町もあっという間に魔物に飲み込まれてしまうでしょう」
僕は、転がりという破格のスキルがあるから安心なスタートができたけれど、初心者向けと言われるウサギやモグラやネズミにでさえ、まともに攻撃を食らったらけっこうな負傷をする。
金属バットで思いきり殴られるくらいの威力で体当たりをされたと考えればいい。当たりどころが悪ければ、鍛えていない人なら骨折するだろう。
魔物を倒してある程度身体が強化された冒険者でも、頭を打ったり脚をやられたりして止まったら、たくさんの魔物にたかられて生きたまま食われてしまう、なんてことが普通に起こるそうだ。
ゲームや物語の世界とは違い、この世界は恐ろしい場所なのである。
もう暗くなるので、僕たちは孤児院をあとにした。
「明日は朝から狩るの?」
僕はテオドールさんに明日の予定を尋ねた。
「いや、武器を新調しよう。オーロラウサギを当てた金を使って攻撃力を上げていきたい。ミケは新しい杖にするか?」
「俺はまだこいつでいい。もう少し馴染ませていけば、もっと力を引き出せるような気がするからな」
魔石の付いた愛用の杖を、毎晩ミケランジェロくんの魔力を注いで育てているそうだ。
「そうか。俺は、できれば雷属性の魔力が放てる短剣が欲しい。コロンがタンクをしてくれるから魔物に隙が生まれるようになるだろう。そうすると楽に急所が狙えるようになるから、雷撃を流し込みたい」
「大物にも有用な一撃必殺の剣が使えると、かなり効率が良くなりそうね。わたしはもっと重い斧が欲しいわ。できれば魔鋼の斧がいいんだけどな、高いかな」
魔鋼というのはこの世界独自の鉱物で、かなりの重さがあるし、振ったり回したりして動かせば動かすほど空気中の魔力を吸い込んで、強力な攻撃が出せるようになるという。
「アグネスに扱える斧があれば、使ってみてもいいだろう。おそらく防具を買うまでの余裕は無さそうだが、コロンの転がりですべての攻撃が無効化されるし、魔物のターゲットを引き受けてくれるというのは大きな強みだ。今回は攻撃力上げに全振りして、大物を狙えるようになることを目指したい」
「そうだな。今日は金銀オーロラの大当たりだったけど、明日はわからねえ。コロンの幸運に頼ることなく儲けを増やせるようにしてえよな」
「今日はお試しっていう感じだったわよね。連携の練度を上げて、コロンのスキルがこなれてくれば、わたしたちはもっと強くなれるわ。無理をして死ぬのはごめんだけど、今日は逃げちゃったクマの群れも狩れるくらいになりたいから、そこを目指しましょうよ」
ええっ、クマの群れを?
一匹だけでも怖いのに?
アグネスさんは、負けず嫌いなんだね……。
「なによコロン、文句あるの?」
「いや、ないよ、ないから斧でぶたないで」
「わたしをなんだと思ってるのよ!」
斧は飛んでこなかったけれど、アグネスさんのチョップが僕の脳天に炸裂したので、僕は転がってしまった。
きょんたは見晴らしのいいテオドールさんの頭の上にいたから無事だったよ。




