第24話 孤児院
「本当に生活魔法を授かったのね。よかったわね。あとでやって見せてよ」
アグネスさんが親しげにベンチから立ち上がった僕の肩を叩く。
初めて会った時には(本人には絶対に内緒だよ)美人だけど怖そうな女の子だなって思ったけど、慣れてくると普通に友達として話してくれるし、笑顔も見せてくれる。
すごい人見知りだったのかな?
僕は一応男子だから、綺麗なアグネスさんにちょっとドキドキしちゃうけど、そんなことがわかったら斧で叩っ斬られる気がするから絶対に表に出さないよ。
美少女と友達になるのも命懸けなんて、さすがはナラクだね。
「うん、いいよ。屋台でジュースを買ったら冷やして美味しくしてみようかな。凍る一歩手前に冷やす練習もしたいな。しゃくしゃくしてきっとすごく美味しいと思うんだよね」
「ジュースがそんなに美味しくなるの? すごい魔法じゃないの!」
アグネスさんは甘いおやつが大好きなので、すごくキラキラしたオレンジ色の瞳で僕を見た。
大丈夫、勘違いはしないよ。
オレンジジュースが飲みたくなっただけだよ。
「あとはね、冷えたごはんを熱々にしたりもできるね」
「それもすごいわ。熱々は美味しいもの」
「服や装備を綺麗にできるし」
「うわ、役に立つ! そのまんま有能な家政婦になれそうな生活魔法ね」
「有能な冒険者になりたいよ」
アグネスさんは喜び、テオドールさんは「俺の知っている生活魔法とはちょっと違うみたいだが、とても便利そうだ。よかったな」と頭を撫でてくれた。
どうやら、僕とミケランジェロくんの頭はテオドールさんに撫でやすいみたいだね。まだまだちびっ子だと思っているのかな。
「孤児院はこっちだぜ」
教会を出ると、ミケランジェロくんが裏手にある建物に続く小道を進んで行った。その先には質素な建物と、その前にある庭で元気に遊んでいる子どもたちがいた。
「あっ、ミケの兄貴だ!」
「ミケー、美味しいお土産あるの?」
先頭を歩くミケランジェロくんを見つけた子どもたちが駆け寄ってきた。少し細めの子が多いけど、みんな元気そうだ。
「おう、あるぞ。院長先生に渡しておくからな、仲良く分けっこして食べるんだぜ」
ミケランジェロくんはお兄ちゃんの顔になって言った。
「やったー」
子どもたちは大喜びだ。
「アグネスお姉ちゃん、髪を結って」
「わたしもー、わたしも髪を可愛くしてー」
「仕方ないわねえ、おしゃれさんなんだから」
アグネスさんは、おませな女の子たちに連れて行かれてしまった。
「テオにいー、高いのしてー」
「俺もー」
「俺もー」
「俺もー」
「おまえら、俺に筋トレをさせる気だな」
テオドールさんは、軽々とひとりを肩車して、背中にひとり貼り付けて、両腕にそれぞれひとりずつぶら下げて、クリスマスツリーみたいになって歩いて行った。その後を、順番待ちしている子どもたちがぞろぞろとついて歩いている。テオドールさんは背が高いので、高い視点から見下ろせるのが楽しいんだろう。
なるほど、あれはいいトレーニングになるね。
僕は院長室に向かうミケランジェロくんと並んで歩いた。胸ポケットからお土産に買ったドライフルーツを取り出してある。かなりの量を購入したんだよね。ずっしりと重い。
「ミケランジェロくんは、どこの孤児院にいたの?」
「俺は王都出身だぜ」
「たまに帰ったりするの?」
「それがよう、王都のクソ神官とやりあっちまって破門されたもんだからよう、あまり大っぴらに戻れないんだ」
「そんな!」
それは実家に帰れないのと同じだよね。
「ミケランジェロくんは悪くないのに」
「俺が悪くないことが知れ渡ると、神殿的にまずいんだろうよ。まあ、どこに行っても孤児院に金は送れるし、神殿に行かなくても信仰はできるから、なにも困っちゃいないぜ」
「そう……」
ミケランジェロくんの青い瞳が揺れた。
強がりなんだね。
院長室に行くと、ミケランジェロくんは寄付金とお土産のクッキーを渡した。
「ミケランジェロさん、いつもありがとうございます」
院長先生は、優しそうな年配の女性だった。頭に布のベールのようなものをかぶっているから、きっとシスターなのだろう。
「なに、俺はしっかりと稼いでいるんだ。チビどもにちょいとばかり甘いもんを食わせるくらい、なんてことねーよ」
照れ屋のミケランジェロくんは、ぶっきらぼうに言った。
「こいつはうちのパーティに新たに加わったメンバーで、コロンってえんだ。いい奴だぜ」
「初めまして、コロンといいます。これは皆さんで召し上がってください」
ドライフルーツを渡すと、院長先生は「あら、まあ、ありがとうございます。とても助かります」と言って受け取り「優しいコロンさんに神のご加護をお祈りいたします」と目をつぶって祈ってくれた。
「院長先生、コロンは神の加護をそれはもうたっぷりともらっているから、むしろチビたちに分けてもらった方がいいかもしれねえぜ」
えっ、分けられるものなの?
帽子に擬態して、子どもたちの目から隠れていたきょんたも「きょん?」と不思議そうに鳴いた。
「まあ、びっくりしたわ! てっきり帽子だと思っていました」
驚かしてごめんね。
「コロンさんはお優しいので、神様も目をかけてくださっているのでしょう」
「てゆーか、こいつは『神の落とし子』なんだぜ」
「えっ? 今、なんと?」
「『神の落とし子』。俺も初めて会ったんだけどさ、人が良過ぎてちょっとヤベェから、ダイヤモンド一家が後ろ盾になって守ってやってんのさ。こう見えてなかなか腕も立つんだぜ、頼りになるメンバーだ」
ミケランジェロくんが褒めてくれたので、僕は照れてちょっともじもじしてしまった。
院長先生は、僕の顔を穴が開くくらいにまじまじと見た。
「……『神の落とし子』でいらっしゃる?」
「はい。霊峰のてっぺんに落っこちてしまって、どうなるかと思ったんですけど、どうにかなりました、あははは」
頭をかこうとして、きょんたをモフってしまいながら、僕は笑った。
「でも、別にすごいことがない普通の冒険者なんです。世界を救うとか、文明を加速して発達させるとか、そんな大層なことはできないので、お手柔らかにお願いします」
「……そうなのですね。ご苦労をなさったご様子ですが、神様のご加護をお持ちでしょうからきっとご活躍することと思いますよ」
「はい、精一杯がんばります」
「ってーことで、チビどもの体調を見てくるわ。怪我をした奴とか寝込んでる奴は?」
「みんな元気に庭で遊んでいますよ。大きな子も元気に仕事に出ています」
院長先生は「あと三年くらいでここを出るような子たちは、少しずつ仕事に出しているのですよ」と説明してくれた。
仕事に慣れるようにということと、独立後のための支度金を自分で用意できるよう、衣食住にお金がかからないうちに貯金させるのだという。
「ルアンの街は領主様の統治のおかげで他の領地よりも余裕があります。それでもやはり、孤児は幼い頃から熱心に働かないと生きていけないのです」
「そうなんですね」




