第23話 魔法をください
天界のお兄さんが言った。
「コロンくん、ナラクの生活で、困っていることとか必要なものはありませんか?」
「必要な……あっ、そうだ」
僕は教会に来たらお願いしようと思っていたことがあったんだよね。
「実は生活魔法のスキルが欲しいなって思っているんですけど。もらえますか?」
ミケランジェロくんの魔法は、すごい攻撃力があるわけじゃないけれど、前衛の防御力や攻撃力を上げたり魔物の動きを止めて足止めしたりと、実戦でとても役に立つものばかりだ。
でも、僕は転がっているので戦闘中は何もできない。
そんな僕だけど、生活魔法なら使えるよね。使いたい。ぜひぜひ使ってみたいんだ!
「なるほど、日常生活に役立てる魔法ですね。それならば『過度の加護』にはならないので大丈夫ですよ。どのようなものを希望するかを言ってもらえれば、スキルとして今すぐコロンくんに渡せます」
「やったあ! ありがとうございます」
僕はお兄さんと相談をして、『火(着火)』『水(飲用可能、及び温度指定可能)』『風(温度指定可能)』の魔法が使えるようにしてもらった。
さらに応用として、食べ物を熱くしたり冷たくしたり凍らせたり、なんていうのも付け加えてもらった。
食生活の向上は大切だからね!
浄化魔法も欲しかったんだけど、『浄化』となると大きくなってしまい聖職者限定だというお約束があるということで、清潔を保つ『清浄』という魔法にしてもらった。
『浄化』はいわゆる不死系の魔物には絶大な威力を持つからね。
「コロンくんの場合、心が澄みきっているので、『清浄』でも不死系魔物を昇天させてしまいそうですけれどね」
「えっ、それはゾンビとかスケルトンに試してみなくちゃですね!」
お兄さんは笑って「その場合は想定外なので『アリ』判定とします」と言った。
臭くないゾンビができあがるだけかもしれないけどね、やってみよう。
でも『清浄』のおかげでこれからは部屋とかベッドとか服とか(あっ、僕の服は汚れないから不要だけど)常識の範囲内の持ち物を清潔な状態にできるんだ。
とても助かるよ。
僕は清潔感のあるワイルドな男だからね。
「そうだ、土魔法は生活魔法に入りませんか?」
「土魔法ですか。どんな感じで生活に役立てたいのか教えてもらえるかな?」
「たとえば、土をこねて、容器とか人形とかを作れるといいなって思うんです。あとは土の成分を取り出して綺麗な結晶にして、磨いてアクセサリーを作るとか」
お兄さんが「なるほど……その気持ちは、コロンくんが元々持っている、芸術への熱意からくるんでしょうね」と、同情の視線で言った。
「ナラクは芸術よりも実用優先になりがちですから、コロンくんの才能を生かす機会が少ないでしょうけれど……個人で楽しむことはできますよね。ナラクに良い影響を与えて、生活の質の向上に結びつく可能性もあります。はい、土魔法も生活に彩りを与えるから、生活魔法枠ということでつけましょう」
というわけで、いろいろ魔法が使えるようになって、わくわくだね。
「それでは、きょんたくんと協力し合って、実りあるナラクライフを送れることを遠くから祈っていますね」
「はい。そうだ、ロボ、ちょっと顔を見せて。怖いことしないから大丈夫だよ」
魂になっても、ロボは腕輪になって僕の手首にしがみついているし、環境の変化に怯えているのかぷるぷる震えている。
それでもさっきよりはずいぶんマシになったんだよ。
ロボはかしょんかしょんいいながらロボットに変身して、そのまま僕の肩に飛び乗って首にしがみついて震えている。
「このお兄さんは親切な人だから大丈夫だよ。僕たちの冒険者生活を応援してくれているんだ」
ロボに優しく話しかけると、恐る恐る首を持ち上げて『そうなんですか?』と僕を見た。頷いてみせると、ロボは肩から降りてテーブルの上に乗ってお兄さんに『初めまして。自分はロボと言います。『役に立つアレ』です』と頭を下げた。
「素敵な相棒を付けてくれてありがとうございます。……お兄さん? 大丈夫?」
目が点になってない?
「ちょ、ちょっと、意味がわからないことに……」
「ええと、ロボを、ありがとう、ございます?」
「どういたしまして、じゃなくて、どうして腕輪が変身しているのかなって……思うんだけど……」
するとロボはジェスチャーで『もちろん、この姿になることでコロンさんのお役に立てると判断してのことですよ! 任せてください、今はまだ未熟で非力な自分ですが、成長した暁には、迫り来る魔物をバッタバッタと倒しまくる有能なウルトラスーパーロボとして冒険のお供に欠かせない存在になりますから!』と言って、胸にこぶしを当てた。
「わあ、さすがは『役に立つアレ』だけあって、ロボは頼もしいね! でも、焦らずにゆっくりでいいんだよ。一緒に力を合わせて強くなっていこうね」
僕はロボのこぶしと自分のこぶしをこつんとつけた。
満足そうなロボは、またかしょんかしょんと腕輪に戻って定位置についた。
「これは……コロンくんの転がりパワーを受けて、腕輪に意思が生まれて進化してしまったのかもしれないですね」
お兄さんは腕輪を見ながら「でも、これはこれで楽しくていいかな!」と笑った。
お兄さんにさようならをして、手を繋いで元の所に送ってもらった。誰にも見えないからいいけれど、神像からにゅるっと現れたら驚かれちゃいそうだね。
ベンチに座って祈っている身体に上手く吸い込まれた僕は、そっと目を開けて神像を見上げた。
「コロン、どうかしたのか?」
僕の魂が抜けていたのは、ほんの一瞬だったのかな?
なにが起きたのか気づいていない様子のミケランジェロくんが、手をグーパーグーパーしている僕を不思議そうに見た。
「ええとね、神様に、生活魔法をもらえたみたいなんだ」
「マジかよ! よかったな」
敬虔なミケランジェロくんは、神像に向かって「コロンに魔法のスキルを授けてくださってありがとうございました。こいつはとてもいいやつだし、冒険者としてがんばりたいっていう根性もあるので、これからもご加護をよろしくお願いします」と祈ってくれた。
白い服を着て、輝く金髪で頭の周りに光を放っているような、綺麗な顔をしたミケランジェロくんは、そうしているととっても聖職者っぽい。
僕も「神様、ミケランジェロくんはとても頼りになる神様の使徒です。これからもミケランジェロくんへのご加護をよろしくお願いします」と祈った。




