第21話 ルアンの教会
予想以上の稼ぎに驚きと喜びを感じながら、買取り所を後にする。
「兄貴、これからどうするんだ?」
「少し早いが今日は儲けが大きかったし、これで店じまいしよう。夕飯を食べる前に少し時間があるな」
テオドールさんがそう言うと、ミケランジェロくんが「それなら教会に行こうぜ!」と叫んだ。
「『神の落とし子』が加入したってえのに、神に感謝の祈りを捧げないとはダイヤモンド一家の名が廃るぜ?」
「それもそうね」
アグネスさんが同意した。
「ミケ、寄付もするのか? なんなら今日の収入を分配しておくか」
魔物を売ったお金は、ほとんどはギルドにあるダイヤモンド一家の口座に入れたけれど、手持ちの現金も用意したのだ。
「助かるぜ、兄貴。ちょいとばかり土産も買って行きたいと思ってたんだよ。金銀にオーロラウサギまで当てちまったからな、チビどもに甘いもんでも食わせてやりてえよ」
寄付とかチビどもとかなんだろうと思っていると、アグネスさんが「ミケはルアンの教会にある孤児院に通っているのよ。この街ではないけれど、ミケも孤児院育ちなの」と教えてくれた。
「ミケランジェロくん……苦労したんだね」
「いや、俺に同情はいらねえぜ!」
「うん、同情はしていないよ。だって、今のミケランジェロくんは幸せそうだもん」
「へっ?」
僕は、ミケランジェロくんと、怪訝な表情のテオドールさんとアグネスさんに言った。
「たくさん苦労はしてきたかもしれないけどさ、その上に今のミケランジェロくんがいるわけでしょ。ダイヤモンド一家の一員として活躍する冒険者で、すごい魔法がたくさん使えて、ワイルドでかっこいいよ。あと、テオドールさんとアグネスさんと一緒にいるととっても楽しそうだよ」
僕は孫を見るような視線でミケランジェロくんを見た。
「今は孤児院の子にお土産を買ってあげる余裕もあるんでしょ? 孤児院の子たちも、ミケランジェロくんが活躍する姿を見て、自分も幸せになれるんだって感じているんだと思うよ」
「……コロン、おまえって奴は……」
ミケランジェロくんは、僕の頭を片手でつかむとぐりぐりと撫で回しながら「どこをどうすりゃ、こんな人のいいおぼっちゃんができるんだよ! けっ、さすがは『神の落とし子』だぜ!」と、馬鹿にするように荒っぽく言った。
でも、顔が真っ赤だよ。
「おまえみたいな奴はなあ、絶対に、悪い奴に狙われたり騙されたりしやがるんだ。仕方ねえから、俺が面倒見てやるからな。遠慮すんなよ?」
「うん、きょんた共々頼りにしてるね」
「ほんと、仕方ねえなあっ!」
ミケランジェロくんは、ふふんと鼻息を荒くした。
ギルドの近くに、軽食と飲み物を出す場所があったので、僕たちはそこに行ってかなりの額の分配金(?)を分け合った。僕はもちろん、胸のポケットの財布にしまい込む。
まだ使い道が思いつかないんだよね。
あっ、ここの支払いもギルド持ちだって。打ち合わせなので経費になるとか。
搾りたて生ジュースが美味しい。
あと、フライドポテトが美味しい。
なんでも、ダンジョンの中には、野菜がドロップするところもあって、そこから採れた珍しい野菜を地上で栽培することもあるらしい。ホクホクのジャガイモとか熟れると甘酸っぱくて美味しいトマトとかね。
話を聞いていると、品種改良した野菜のように思えるけれど、『神の落とし子』としてこの世界に来ちゃった人がダンジョンの中に創り出したのかな?
変わった力を持つ人ばかりだというから、そんなこともあり得るね。
「実は今日のパーティ収入で、皆の装備を新調するのはどうかと考えているんだ。あ……コロンは不要だから申し訳ないんだが」
うん、僕はろくに武器が使えないし、装備はこのおしゃれな一張羅以外はいらないんだよね。
「賛成です。皆さんが強くなればパーティが強くなるわけだし、僕のことは気にしないでくださいね」
「きょんきょん」
「きょんたは新しい装備は欲しい? 例えば首輪とか。いるなら僕が買ってあげるよ」
「きょんきょんきょん」
買ったばかりの首輪に満足しているから、いらないらしい。
稼いだお金でなにか買ってあげたいのにぃ。
「ロボは? なにか欲しい? なんでも言ってごらん?」
腕輪に話しかけると、浮き上がってかしょんかしょんと音を立てながら人の姿に変身して、ジェスチャーで『いえ、特に必要なものはありません』と示してからまた腕輪に戻って、僕の腕にしがみついた。なんかプルプルしている。
今日の戦いはロボには怖すぎたのかな。
その様子を見ていたミケランジェロくんが「かっけーな! いいな、その腕輪、俺も欲しい」とロボを熱い視線で貫いた。
ロボはもっとプルプルした。ミケランジェロくん、見つめすぎだよ。
商店街をぶらぶら歩き、ミケランジェロくんは大衆向けのお菓子が売っている店で、ビスケットや飴玉を買い込んだ。日持ちするおやつにした方が、子どもたちが毎日美味しいものを食べられるんだって。
「干した果物が売ってるけど、子どもはああいうのも食べるかな?」
「喜んで食べるぜ。刻んでパンに混ぜて焼くと、ご馳走になるからな」
それを聞いた僕は、お財布を出して干したブドウやリンゴやアンズやイチジクや、目についた果物を購入した。
「よかった、僕は初めての稼ぎで誰かに贈り物をしたかったんだよ」
にこにこしながら紙袋を抱えていると、アグネスさんがきょんたを抱き取ってから「コロンって本当にいい子ね」と僕の頭を撫でた。
「いい子って、僕はアグネスさんよりも歳上だと思うよ? コロンお兄ちゃんって呼んでもいいくらいだよ」
「そう? それじゃあ、コロンがテオ兄さんくらいに大きくなったら、そう呼ぶわね。ごはんをたくさん食べてがんばるのよ」
「そんな日は一生来ない気がするんだけど……」
きょんたもきょんきょん鳴いて同意した。ぐすん。
「ここが教会だぜ」
木造で、どこか温かみのある建物の前に着くと、ミケランジェロくんが「先にお祈りに行くから、土産はしまっておけよ」と言ったので、僕は干した果物の入った袋を胸ポケットにしまった。
ここに食べ物をしまうのは、変な感じだな。
だって、さっきは魔物の死体をしまっていたんだよね。ポケットの中では入れたもの同士はくっつかないらしいけど、気分の問題だよ。
中に入ると、正面に木彫りの神像があり、その前には木のベンチがたくさん並んでいて、そこに座った人たちが目を閉じてお祈りをしていた。
信心深い人がたくさんいるみたいで、人の出入りが多い。
「あれが創造神イザカルマンの像だ。立派なもんだろう」
「おじいさんっぽいね」
「優しい神なんだ。俺みたいなひとりぼっちの子どもには、特に気にかけて加護をくれたんだぜ」
「ふうん」
「さあ、挨拶してから生活魔法を授けてくださいって祈ってみろよ。『神の落とし子』だから、くれるかもよ」
僕は、正しい意味の『神の落とし子』じゃないような気がするけれど、ミケランジェロくんのおじいさん神様を信じきったキラキラの瞳に負けてしまった。
「じゃ、ちょっと祈ってみようかな」
僕は木のベンチに座った。




