第20話 大儲けできたね
「ここも綺麗な建物だね」
買取り所に来るのは初めてだったので、僕と頭の上のきょんたは物珍しげに辺りを見回した。
ギルドに併設されている魔物の買取り所は、同時に多くの冒険者をさばけるように、買取り受付カウンターが並んでいた。初心者向けの少量受付と、普通の受付、大量の魔物を運ぶアイテムや魔法を持つパーティのための大物受付、そして必要に応じて開くらしい超大物受付に別れている。
もっと荒っぽい雰囲気で「もっと高く買い取れよ!」「傷が多過ぎだ、おととい来やがれ!」みたいな怒号が飛び交う場所なのかなと思っていたけれど、みんなおとなしく買い取ってもらっている。
買取り所に出入り禁止になったら、冒険者はこの街では暮らせないからかもしれない。
「今日は獲物の数が多いからな、大物受付に行くぞ」
リーダーのテオドールさんは、嬉しそうな顔で言った。やっぱり冒険者は儲けてなんぼだよね。
「こんにちは、ダイヤモンド一家さん」
受付職員の若いお兄さんが「籠はどのくらい用意しましょうか?」と尋ねてきた。ミケランジェロくんが「うちはマジックポーチがあるから、十は要るぜ」と、得意げな顔をしてくいっと親指を立てた。ドヤ顔ってやつだ。
ウサギと言っても、魔物のミツメウサギは動物のウサギよりもふたまわりくらい身体が大きい。
食べるところも多いし、魔力をエネルギーにしていて血が通っていないせいで臭みがなくて美味しいから、人気のある食材として街の外へと出荷されるので、いくら狩ってきても喜ばれるそうだ。
もちろん、モフモフの毛皮や、ウサギのくせにギラついて立派な牙なんかも売れる。
新人冒険者にとって、いい獲物なのだ。
とはいえ、舐めてかかると大怪我をするからね。
なんと言っても凶悪な魔物なんだから。
「それでは、こちらにお願いします」
カウンターの脇に台車が置かれて、そこに大きな籠が乗っている。ミケランジェロくんがカウンターの上にミツメウサギを出していくと、お兄さんが傷の状態や生きの良さ、牙の欠けがないかと素早く状態を確かめては紙に書き込んで籠に入れていく。ウサギの山がみるみる減っていくので、そこにまたミケランジェロくんがウサギを出す。
さすがはプロで、手際がいい。
大きく口を開けて中も確認する丁寧な仕事ぶりだし、凶暴に襲いかかってきた魔物の死体を引き取るわけなのに、怖くないのかな。役に立つ大切な資源としか見ていないのかな。
「おおっ?」
ミケランジェロくんが手を止めて、僕たちに向けてウサギを持ち上げた。
「見ろよ、金のウサギだぜ!」
「えっ、眩しいんだけど」
金色に光り輝くウサギ……だって?
あんなの、いつ倒したんだろうか。僕としたことが全然気がつかなかったよ。
テオドールさんとアグネスさんが「本当だ、金だ!」「わあ、嬉しい」と喜んでいる。周囲の冒険者たちからも「金のウサギだと?」「いいなあ、羨ましい」「よかったな」という声があがった。
で、金のウサギって、なに?
「あのね、魔物の中にはね、仕留めてからしばらくすると金色や銀色に変わるものがいるのよ。ウサギやモグラやオオネズミによくいるわ。珍しいからいい値段がつくの」
アグネスさんが教えてくれた。
「へえ、不思議なことがあるんだね」
まるで純金のように眩しく光る毛皮だから、欲しい人も多いのだろう。
「ふふっ、冒険者にとってのちょっとしたご褒美なのよ」
当たりつき魔物ってことなんだね。それは嬉しいね。
「おめでとうございます」
受付のお兄さんも祝福してくれた。
「一万匹倒してもいるかいないかのウサギですからね。僕も久しぶりに見ましたよ。こちらの籠に、別にして入れてくださいね」
「わはわはわはー、ダイヤモンド一家の底力だぜ!」
ミケランジェロくんがご機嫌で、次々とウサギを出していくと、今度は「えっ、マジかよ?」と言って動きを止めた。
「ちょっ、見ろよ。銀のウサギもいたぜ。しかも二匹だ」
両手にぶら下げているのは、銀色に輝くウサギだ。白目をむいているし、口が裂けてだらりと舌を出しているものすごい怖い顔なのに、キラッキラに輝いていてなんだかとってもミスマッチ。
「これは素晴らしい! 銀も人気ですからね」
お兄さんが紙に書き込んでいく。
金のウサギの横に、銀のウサギたちが並べられた。
「まだまだあるぜ」
ミケランジェロくんが残りのウサギも出していくと、お兄さんが「これはまた、ずいぶんとがんばりましたね」と褒めてくれた。
「籠が足りませんから追加しますね」
「頼むよ。あっ、ミニダチョウもあるからそいつの籠も頼むぜ」
「ダチョウも? それはすごいです」
「うちに有望な新人が入ったからさ、コロンのおかげですげー効率よく狩れちゃったんだよねー、ふふん」
ミケランジェロくんの言葉を聞いた人たちの視線が僕に集まった。テオドールさんが肩を叩いて「そういうこと。これからもよろしくな」と言ってくれた。
「それはよかったですね」
「おう。ってことで、もうちょいで……え? こっ、これは?」
ミケランジェロくんの手が一瞬止まった。そして、マジックポーチからウサギを出して、高く持ち上げた。
「うひゃあああああっ、オーロラウサギじゃんかよ!」
それは、白銀の毛の先が虹色に輝く、神々しいほどに美しいミツメウサギだった。白目をむいていて怖いけど。
「こ、これは、オーロラ! オーロラが出ましたか! ギルドに報告しますね!」
冷静な感じの受付のお兄さんだけど、オーロラウサギには興奮を隠せない。すごく高値で売れるウサギなのかな?
「おい、あれを見ろ! オーロラウサギじゃねえか?」
「マジかよ」
今日の獲物を査定してもらっていた冒険者たちが「ミケ、よく見せてくれよ!」「もっと高く持ち上げて!」と叫んだので、ミケランジェロくんは「おうよ!」と応えてカウンターに飛び乗り、オーロラウサギを高く掲げた。
「まさにオーロラ……初めて見たぜ」
「こうしちゃいられねえ!」
冒険者たちが大慌てで飛び出していくので、僕はテオドールさんに「みんなどうしたんですか?」と尋ねた。
見る人たちがいなくなったので、ミケランジェロくんがひらりとカウンターから飛び降りたけれど、受付のお兄さんは怒る様子が全くなくて「素晴らしいです、今日はお祝いですね」と喜んでくれた。
「コロン、オーロラウサギというのは、数年に一度出るか出ないかくらいの珍しいウサギなんだ。しかも」
テオドールさんは、ミケランジェロくんからウサギを受け取り、僕に見せてくれた。
「額にある大きな目玉を見てみろ」
「白目ですね……いや、違う。これは白目じゃない!」
「きょん、きょん」
肩に降りて一緒にウサギを見たきょんたも驚いている。
ウサギの目が、七色にきらめく美しい宝石だったからだ。
「オーロラウサギの宝玉だ。魔力も多いしとても美しいから貴重とされる」
そして、高く売れるんだね!
「さらに、オーロラウサギが出た場所では数日間、付近で金色や銀色が出る確率が上がる」
「幸運のおすそ分けって感じなのよ。素敵よね」
だからみんな、大慌てで狩りに向かったんだね。
「ダイヤモンド一家にはコロンがいるから、いつだって幸運だぜ、クックック」
ミケランジェロくんが悪い顔をして笑った。
美少年が台無しだね。
そして今日の成果は。
オーロラウサギが金貨二百枚。
金のウサギが金貨十枚。
銀のウサギが金貨二枚×二匹で金貨四枚。
ミツメウサギが百二十三匹で大銀貨二枚だから、百二十三匹で二百四十六枚。つまり、金貨二十四枚と大銀貨六枚。
さらに、ナナイロミニダチョウが全部で金貨七枚。
合計が金貨二百四十五枚と大銀貨が六枚、日本円にするとだいたい二千四百五十六万円くらい。
一日で大儲けしちゃったね!




