第18話 攻撃スキル
「さて、今度はダチョウを殴ってみるか。そら、一匹出しな」
カツアゲ?
せっかくしまったけれど、ミケランジェロくんに促されて、胸ポケットから中身が無事なダチョウを一羽出す。青いやつだ。
「棍棒も出せ」
「えー」
「それとも素手でいくか?」
「うん、棍棒大好き。でも何度やっても下手だよ」
渋々棍棒を出す。
絶対に実戦には使えないレベルなんだけどな。スイカも割れない棍棒攻撃だよ。
「そう嫌がるなよ、そういうのは下手なんじゃなくて伸びしろがあるっつうんだぜ」
「ミケランジェロくんはとても前向きだね。さすがは神官だけあるよ」
彼は「うへへ」と嬉しそうに笑い、アグネスさんが「ミケは褒められ慣れてないのよ」と小さな声で教えてくれた。
「よし、殴れ! よく見て狙うように心がけるんだぜ、俺には当てるなよ」
「がんばるよ、えいっ!」
僕はミケランジェロくんがぶら下げた、体長八十センチくらいの真っ青なダチョウ(これでもミニサイズで、普通のダチョウの魔物は僕の身長くらいの大きな鳥だそうだ)を横殴りに棍棒で殴った。
意外なことに一度で当たり、ぼすっ、と思い音がしてナナイロミニダチョウが揺れた。
「あれ? 当たったし、さっきより力が入るみたいだよ」
それでも、スイカが割れるか割れないかくらいの威力だけどね。
「もう一度、やってみてもいいかな」
こういうのは当たると楽しいんだ。
「おう、好きなだけ殴れよ。アグネス、魔物の警戒を頼んだぜ」
「わかったわ」
僕は棍棒を振り、何度か殴った。やっぱりさっきよりも力が入っているし、コントロールも良くなっている。かなり気持ちがいい。
「でも、なんでだろう?」
ミケランジェロくんを見ると、満足そうに頷いていた。
「どうだ、わかったか? 俺たちは今日、かなり魔物を倒したからな。コロンの身体に魔素が吸い込まれて身体能力が上がって、新たなスキルが生まれようとしているんだ。だけど、努力しないと狙ったスキルは出てこないんだぜ? 特にコロンには攻撃スキルがないからな、こうやってまめに殴って訓練していくことで、初めに棍棒スキルが出てきやすくなるんだ。覚えておけ」
「そうなんだ、やったね!」
「きょん!」
頭の上で、きょんたも喜んでくれた。
「とはいえ、狩りの真っ最中にはなかなか練習できないから……」
「ミケ、魔物が来るわ」
気配を察知して、アグネスさんが注意喚起した。
テオドールさんが「棍棒をしまって、次は転がりで参加してみろ」と言ったので、僕は魔物が現れたら転がって前に出ようと身構えた。
「いい顔つきになったな」
僕を見たテオドールさんが、にやりと笑いながら褒めてくれたので、俄然やる気が出てくる。
「……イノシシよ、すごい大物! 突進に注意して!」
「コロン、前へ出ろ」
「了解!」
「きょん!」
きょんたを頭に乗せた僕は小走りでアグネスさんの示した方向に移動した。手首の腕輪が震えている。怖がらせてかわいそうだけど、そこにいて何もしなくていいからがんばるんだよ、ロボ。
「あれはストーンボア、身体の一部に岩の鎧を付けた固い魔物よ。魔法は撃ってこないわ」
「了解、まさに転がり向きな相手だね!」
僕が前方に二回転して立つと、ストーンボアがターゲットを僕に定めたようだ。ブモオオオオオオーッ! と鼻息も荒く、岩に覆われた顔面で僕に一撃喰らわせようと突っ込んでくる。
例によって口が裂けていて顔が怖いし、すごい迫力だ。
だけど、僕はさほど恐怖を覚えなかった。転がりに対する信頼感が育ち、精神的に強くなっているみたいだ。
「ミケは防御魔法!」
テオドールさんの指示が飛ぶ。
「おらぁ、神聖防御!」
転がれば無敵な僕と違って負傷が怖いテオドールさんとアグネスに、ミケランジェロくんが神聖魔法をかけた。杖の先の石から真っ白な光が溢れて、ふたりの身体が光に包まれた。
「二回の攻撃なら持つ! 二発もらったらかけ直す!」
「了解!」
テオドールとアグネスさんが叫んだ。
と、イノシシと接敵!
僕はものすごい勢いで吹っ飛ばされたが、その力をすべて転がりに換えて草原を転がる。イノシシは僕以外は目に入っていない。百パーセントの関心を僕の転がりに奪われているのだ。
「攻撃!」
この瞬間を待っていたテオドールさんが、死角から襲いかかってイノシシの目に短剣を突き刺しえぐり、痛みに怯んで動きを止めたイノシシの首に、ものすごい笑顔のアグネスさんが全力の斧攻撃を叩きつける。
凶悪なほどの物理攻撃なのに、アグネスさんの場合はどこか上品だ。なんでだろう?
僕は転がりながら、すべての状況を把握していた。
「きょんきょん」
「そうだね、めり込んでるね。足りてないな」
残念ながら、アグネスさんの力では頭を落としきれなかった。僕は転がりながら方向転換して、首の筋肉で斧を挟み込んでいるイノシシに向かって転がった。
ヘイトをこっちに向けないと、武器を手放したアグネスさんが危ない。
「ミケランジェロくん、加速を手伝って!」
「おうよ!」
横を通り過ぎるタイミングで、ミケランジェロくんが振り上げた杖で僕を殴り、急加速させた。アグネスさんとテオドールさんは、地面を転がってイノシシから離れた。
「行くよーっ!」
僕はイノシシの手前で急カーブを描き、タイミングを見計らって激突する。すると狙い通りに、僕は見事斧の背に当たった。
転がりパワーを受けて、一気に刃が押し込まれる。
ぶしゃあっ、と汁っぽい音を立ててなにかを噴き出しながら、イノシシの首は胴体からさよならした。
「うーん、悔しいわね。もう少しなんだけどな」
とどめが刺せなかったアグネスさんは「まだまだ力不足だわ」と斧を素振りした。ものすごい殺意がこもった素振りで、こんな斧でも倒せないのだから、魔物ってとんでもなく強いんだと思った。
「ねえねえ、あと十匹くらいイノシシを殺りたいな。ね? ね? いいでしょう、兄さん。コロンももっと殺りたいわよね?」
アグネスさん、可愛らしくおねだりをしているつもりだろうけど、内容が殺伐としすぎだからね!
「コロンの転がりで、森の方からも魔物が集まってくるんじゃないかしら。ちょっと行って、おびき寄せてくれない?」
「あぶねーだろうが!」
迫り来るアグネスさんの前に、ミケランジェロくんが立ちはだかってくれた。
「今日はコロンの初仕事なんだぞ。いきなり囮にするとかおまえサイテーだな」
「コロンはそれができる子よ。さっきの転がりを見たでしょう? 短期間の間にとても成長しているわ。わたしたちはこのままコロンに任せきっていていいの? 向上心を持たないと、あっという間にコロンに置いて行かれて、寄生するろくでなしになってしまう気がするの。わたしはそんなの嫌よ」
一瞬、サイテーだよねとか思ってごめんなさい!
アグネスさんは、意識高い系の冒険者だったよ。
ミケランジェロくんが「うーん」とうなった。
「俺だって嫌だけどさ……テオ兄貴、どうする?」
「……とりあえず、逃げるか」
僕たちは「えっ?」とテオドールさんを見た。地面に手を当てたテオドールさんは、土魔法を使ってなにかしている。
「ミケ、偵察魔法を使ってみろ」
「偵察……げっ」
ミケランジェロくんは「やべーヤツが集団でこっちにくる」と顔を引き攣らせた。
アグネスさんが斧を抱きしめて、可愛らしく「きゃあ、怖いわ」と言った。
満面の笑みを浮かべて言っても、全然説得力ないよ?




