第15話 お昼ごはん
テオドールさんも加わって、みんなでミケランジェロくんがお勧めしているヌードルの店に行く。
そこでは、うどん? きしめん? パスタ? そんな感じの少し平べったい小麦の麺が茹でられていて、そこに野菜や肉の入ったソース? 汁? をかけて食べる。
ソースは日替わりで、今日は赤と白の二種類が出ていた。ピリ辛だという赤はトマトやナスが煮込まれたさっぱりめのソースのようだ。ベーコンとニンニクの香りが立っていて食欲をそそる。
白はミルクとチーズで豊かなコクがある、きのこがたっぷりと入っていてクリームシチューに似ているソースだ。鶏肉が入っているみたい。最後に削って入れるあとがけチーズがとろけていて、こってり好みの人に人気がありそうだ。
どっちもすごく美味しそうだ。この世界は厳しい環境かもしれないけれど、美味しいものにしっかりと力を入れているところが素晴らしいよ。
「俺は、今日は白にしようかな。コロンはどっちだ?」
「うーん、悩むなあ」
テーブルに座るとすぐに注文をしなければならないので、ソースの種類をあらかじめ決めておかなければならないらしい。
悩んだ末に「僕も白にする」と決断をした。
最後に乗せられたふわっと香るチーズに心を持っていかれちゃったよ。
「ペットの分も頼めるけど、きょんたも食うか? 白いのが狐向きだと思うぜ」
「きょん!」
ミケランジェロくんに向かって嬉しそうに鳴いた。白が気になっていたのだろう。
この子は雑食性なので、人と同じものを食べて大丈夫なのだ。
雑食が極まって、昨夜ミケランジェロくんにもらったウサギの小さな魔石をコリコリと美味しそうに食べていたことは内緒だよ。天狐だから、普通の生き物とはちょっとちがうんだね。
ちなみに、僕も食べられるのかなと思って舐めてみたけれど、その辺の石ころと同じだったよ。魔石を食べて強くなるとかだったら、ワイルドでよかったんだけどな。
ということで、きょんたの分として、普通に白を一人前、注文した。
アグネスさんとテオドールさんは赤を選んだ。
熱々のヌードルがすぐに提供された。チーズがとろっとろで絶対に美味しいやつだ。
器にはフォークとスプーンが刺さっている。
ワイルドなテーブルセッティングだぜ!
うわあ、赤のニンニクの匂いが暴力的に誘ってくるなあ。次回はぜひ赤を頼みたいな。
「コロン、ひと口味見してみる?」
アグネスさんが突然そんなことを言ったので、僕は「えっ、あっ、美味しそうだね」としどろもどろになる。
彼女は眉をひくりと動かすと、僕のスプーンを自分の器に突っ込んで、赤のソースを乗せてくれた。
「辛いの、平気よね」
「うん、もう大人だから平気だよ」
アグネスさんは「ふふっ」と笑って、スプーンを僕の口に突っ込んだ。荒っぽさが冒険者ならではだね。
うん、赤もとても美味しいね。
そんな僕たちを見守る恐ろしい男の視線が……やめて、テオドールさん! 変なこと考えてないから、ちょっと親切にしてもらっただけだからね!
美味しく昼ごはんを食べてから、腹ごなしに食堂や商店が並ぶ通りを歩く。予想以上にたくさんの店が立ち並んでいて、この街なかなり栄えているのがわかる。
「冒険者の装備品は、基本的なものはギルドの売店で揃えることができるが、自分に合った武器や防具を作りたい時や、特別な道具が欲しい場合には、個人の商店に製作を依頼したり他の街から取り寄せてもらったりする。食料は日用品などの生活に必要な物資は、この辺りの店で購入することになる」
「買い食いしたい時にもこの辺だな」
ミケランジェロくんも、役に立つ情報をくれる。
「あの屋台は油が古いからやめておけ。馬も食いやしねえ。あそこは固くて歯が折れそうなのを売ってるから、食うには難儀するが長持ちするぜ。泊まりん時に持って行くといい。あっちの店のはそこそこ美味いし、砂糖を多めにかけてくれるからお勧めだぜ」
ドーナツのようなチュロスのようなかりんとうのような、小麦粉や卵やハミチツの入った生地を練って、油で揚げてから砂糖をまぶしたお菓子がおやつとして食べられているようだ。
「あ……あの店のは少しふわっとしていて美味しいのよ……」
アグネスさんが食べたそうに見ている。
「食後って、ちょっと甘いものが欲しくならない? なるわよね?」
クールなアグネスさんが、小さな女の子みたいな顔でお菓子をちらちら見ていて可愛い。
「……ご馳走するよ」
縁日に来たような気分になり、おごってあげたいような気持ちになった僕は、胸ポケットから財布を出すと、アグネスさんが贔屓にしているらしい店で揚げ菓子を人数分買った。
「あっちで食べようよ」
道の脇にあるスペースに向かうと、アグネスさんが横に並んだ。
「美味しそうだわ、ありがとう」
「確かにふわっとしているね」
アグネスさんが嬉しそうにお菓子を受け取った。ミケランジェロくんも「やったね」と言って、もう端っこをかじっている。
「コロン、まだ収入がないのに……」
「何もかも出してもらったら、男として肩身が狭いから! たまにはおごられてください」
なるべくキリッとした顔で揚げ菓子を渡す。
テオドールさんも「ご馳走になる」と言って、素直に受け取ってくれたので、僕たちは口の周りに砂糖をつけながらもしゃもしゃと食べた。僕はきょんたにもわけて食べる。
「美味しい?」
「きょん!」
さっきはヌードルを一人前食べたよね。こんなにちっちゃなおなかのどこに入ったのか不思議だよ。
こういう素朴なおやつって美味しいよね。さっきお昼を食べたばかりだし、粉と油と砂糖なので、とてもおなかが膨れる。
これは……走るにはおなかが重すぎるかも?
「アグネスさー、さっきさー、俺が食い過ぎたら頬っぺたを引っ張るって言ってたじゃん?」
キラキラの笑顔で、あっという間に食べ終わったミケランジェロくんが言った。
「……言ったわね」
「ふっふっふ」
アグネスさんの柔らかな頬っぺたを、ミケランジェロくんが引っ張った。
その後、ミケランジェロくんは倍返しをされていた。
若いから、頬っぺたもよく伸びるね。
いや、僕のは引っ張らなくていいからね!




