第14話 新人の心構え
初心者講習が終わると、エルザさんが僕たち受講者三人にチケットをくれた。
「実はこの講習を受けた人にだけ、特別な記念品をプレゼントすることになっているんですよ」
可愛らしいお姉さんのエルザさんが笑顔で言うものだから、フランクは少しだけポッとなって、ステイシーさんに「気合い入れなさい」と足を踏まれた。
緊張感、大事だもんね。
「このチケットをギルドの売店に持っていってください。もれなくノートとペンがもらえます」
「……ああっ、そういうことなんだ!」
「はい、そういうことです」
講習で習ったことを生かして、今日からさっそく魔物についての便利帳作りをしろってことだね。ノートとペンを持っていた方がやる気が出るに決まっている……これを考えた人はあたまがいいなあ。
「学んだことは知識で終えるのではなく実行して、しっかりと身につけてください。明日は実技講習があるので、受ける場合は受付で申し込んでいってくださいね」
フランクくんととステイシーちゃんは、どうやら実技も受けるようだ。
部屋を出るとエリザさんに「いってらっしゃい」と売店の方に促されたので、僕たちは講習のお礼を言ってノートとペンを受け取りに向かった。
「実技講習はコロンも受けるの?」
サラサラ金髪のステイシーちゃんに聞かれて、ちょっとだけ『受けようかな』と心が動きそうになったよ。お人形さんみたいで可愛いよね。
「きょん」
大丈夫、きょんたのことはもっと可愛いから。
「僕は、もうパーティに入っていて、そこで今日から実戦に出させてもらうんだ。だから講習は座学だけだよ」
「そいつは羨ましいな……なんかコネがあるのか?」
「たまたま知り合ったんだけどさ、僕の……俺の転がりスキルが認められたんだぜ!」
忘れかけていたワイルドが火を吹くぜ!
負けないぜ、フランク!
「そうか。俺たちは自己流でやってきたから、教官に見てもらいたいんだ。それに、これから仲間探しもしなくちゃならないんだよ。四人くらいで組みたいからな」
「四人いると安定感があるよね」
「うん。実技講習で誰かメンバーになってくれそうな人が見つかるといいんだけどさ」
今は前衛のフランクくんと攻撃魔法使いのステイシーちゃんのコンビでがんばっているという。
ここのギルドが手厚い新人育成をしてくれるからということで、彼らはそれまでのパーティを解散して別の街からルアンの街に拠点を替えたそうだ。
ずいぶんと思いきったね。
「ちょうど伸び悩んでいたの。がむしゃらに魔物を倒すだけの腕力頼みのパーティだと、命がいくつあっても足りないわ。確かに儲けはそこそこあったけれど、怪我をしたりひやっとすることも多かったのよ。だけど、誘ったんだけど、他の仲間は今さら活動を休止して勉強するなんて馬鹿らしいって言って、ついて来てくれなかったの。新たなパーティを作って、今まで通りのやり方で活動するって言ってたわ」
「俺たちは頭脳派パーティを目指すんだぜ!」
一瞬『えっ、フランクくんが頭脳派?』って思っちゃったことは内緒だよ。
ステイシーちゃんはなかなか向上心がある。
フランクくんは……ステイシーちゃんのことが好きで、一緒に来たのかな? 動機は不純でも、将来のことを考えたらステイシーちゃんについて来た方が正解だ。判断力の方向性は間違っていないと思う。
こういうのは動物的な勘っていうのかもしれない。冒険者にとって、必要な力だね。
僕たちはノートとペンを引き換えてもらうと「お互いがんばろうぜ」と言い合って別れた。
ギルドの横には、待ち合わせ場所に使われて、飲み物や軽い軽食も取れる場所がある。テーブルと椅子が並んでいるだけのスペースだけど、一応カフェとか喫茶店みたいなものかな?
身体にいい薬草茶が安価で飲めるから、ほっとひと息つくことができる。
僕もいい香りのする薬草茶をひとつ買って椅子に座り、ずぞぞぞぞとすする。少しずつ、空気を含めながら飲むと回復効果があるんだって。
僕以外の人もずぞぞぞぞしながら飲んでるからね、僕のお行儀が悪いわけじゃないよ。
「ふう、落ち着く。この街は、ナラクの中でも特別な場所なんだろうな……」
天界にいた時にお兄さんからナラクの話を聞いたけれど、人が魔物に喰い殺されるなんてことが普通に起こる、危険と隣り合わせな世界だって言ってた。
特に辺境の村では生きるのが大変で、そんなところに生まれたら、小さな時から先端に刃物が付いた棒を使って魔物の殺し方を練習しなくちゃならないらしい。
小型の魔物から畑を守るのが子どもの仕事で、小さくてもちゃんとした労働力扱いだから、子どもらしい遊びとかする暇なんてないらしい。
死んだ魔物の尻尾を並べて、数の数え方を覚えるとかいう話を聞いて、僕は顔を引き攣らせたよ。
「撲殺ウサギにビビる僕じゃ、辺境の暮らしは無理だったろうな」
この街の近くに落ちてよかったよ。
幸運スキルをありがとう!
頭の上で丸まっていたきょんたがテーブルの上に降りて、僕を見ながら悲しげに首を傾げた。
どうやら責任を感じてしまったらしい。
「あっ、気にしなくていいよ! 僕はきょんたと一緒にここに来れたことを後悔してないからね。君みたいな可愛い子狐がひとりでナラクに落ちて来たらと思うと、恐ろしくて震えちゃうよ」
「きょ、きょ」
「この地に生まれたからにはさあ、がんばって強くなって、一緒に冒険をしようよ。ワイルドな生き方に挑戦するのさ!」
「きょーん」
きょんたが僕の肩に飛び乗って、ほっぺたにモフモフと顔をすりつけてくれた。こんな経験ができるだけで充分なんだよ、僕はモフモフが大好きだからさ。
「おーい、コロン!」
最初にミケランジェロくんがやって来た。彼は僕の肩にがしっと手を回して「メシ食いに行こうぜ」とワイルドに言った。
もちろん僕も「おう、行こうぜ!」と答える。
「今日はヌードルの店に案内してやるわ。昼はパパッと食べられて美味くて、あんまりおなかが重くならない食いもんがいいんだぜ。食いすぎて狩りに出て、動きが悪くなったり眠くなるのは最悪なんだ。冒険者は常に自分のコンディションを整えることが大事なんだ、覚えておけよ」
「なるほどね。ミケランジェロくんも教官みたいだね」
「えっ、マジ? そうかなあ、えへへへへ」
照れ笑いするミケランジェロくんに、アグネスさんの「テオドール兄さんの受け売りでしょ。いつも食べ過ぎるなって注意されてるんだから」とクールな声がかかる。
「まあ、自分が教わったことを後輩に教えるのはいいことよ。改めて自分の身につくしね」
「だろう? ほら、な?」
「これで食べ過ぎたりしたら、笑いながら頬っぺたを引っ張ってあげるわ」
あー、これはフラグかな?




