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天才ハッカーによる日本独立物語  作者: ロキ


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第8話 星条旗の猟犬(後編)

「――目を閉じろ、ロキ!」

ミコの鋭い声が響き渡った瞬間、彼女の手から放たれた円筒形の金属弾が、突入してきた米兵たちの足元を転がった。

カァァァァンッ!!

数万カンデラという強烈な閃光と、鼓膜を破るほどの爆音が密室で炸裂する。特殊部隊員たちが装着していた暗視ゴーグルが急激な光量変化に対応しきれず、彼らは一斉に視界と平衡感覚を奪われ、呻き声を上げてたたらを踏んだ。

そのわずか数秒の混乱の隙を、ミコは見逃さなかった。

彼女の動きは、近代的な軍隊のCQB(近接戦闘)とは全く異なる異質のものだった。古流武術の歩法――極限まで重心を落とし、床を滑るように進む「擦り足」。

「なっ……!?」

先頭にいた大柄な兵士がミコの影に気づいた時には、すでに彼女は懐に潜り込んでいた。

閃刃が虚空を裂く。ミコが振るったタクティカルナイフは、兵士の首を狙うのではなく、彼らが構えていたアサルトライフルのスリングと、防弾ベストの隙間にある手首の腱を正確に切断した。

「ガァッ!」

銃を取り落とし、うずくまる兵士。ミコは流れるような動きでその巨体を蹴り台にし、背後の兵士の顎へブーツの踵を深々と叩き込んだ。

一撃必倒。殺さずとも、確実に行動不能に追い込む無駄のない制圧術。

かつて天皇の盾として影の世界を生きた一族の凄まじい技法が、現代のアメリカ最強の猟犬たちを次々と床に沈めていく。

「ミコ、完了した! 退避するぞ!」

背後からロキの声が飛ぶ。

サーバーラックはテルミット剤の超高温によって赤熱し、内部のハードディスクはドロドロの鉄くずと化していた。機密データはすべて、自律型プログラム『ヤタガラス』と共にクラウドの深海へと避難し終えている。

「了解!」

ミコが最後の一人の膝関節を特殊警棒で粉砕し、ロキの元へと後退する。

「吹き抜けの窓へ走れ!」

ロキは手に持っていたスマートフォンを操作し、あらかじめ仕掛けてあったビル全体のハッキング・コードを実行した。

バチバチッ! という火花と共に、ビルの配電盤が意図的にショートを引き起こす。秋葉原の雑居ビル全体が完全な暗闇に包まれ、非常灯すらも沈黙した。

「クソッ! ターゲットを見失った! 追え!」

視力を取り戻し始めた後続の兵士たちが怒号を上げながら発砲するが、銃弾はすでに空になった部屋の壁を虚しく穿つだけだった。

暗闇の中、ロキとミコは隣のビルとの間に架けられた細い非常用ワイヤーにカラビナを引っかけ、夜の闇へと滑空していた。ロキが事前に用意していた、万が一のための脱出ルート(バックドア)だ。

十分後。

サイレンの音が遠く鳴り響く中、秋葉原の喧騒から少し離れた裏路地で、二人は息を潜めていた。

見上げる先には、黒煙を上げるかつてのアジトのビル。上空には早くも米軍のヘリコプターが旋回し、サーチライトで周辺を照らし出している。

「……あそこまで露骨に武力を行使してくるとはな。日本の首都だぞ、ここは」

ロキは忌々しげに舌打ちをした。

日本の警察が介入する前に、治外法権を笠に着てすべてを闇に葬り去るつもりだったのだろう。アメリカの「影」が、この国でどれほど絶大な権力を持っているかをまざまざと見せつけられた形だ。

「でも、データは守り抜いた。私たちの勝ちよ」

ミコはナイフについた血糊をハンカチで拭き取りながら、不敵に笑う。

「ああ。奴らは焦っている。J-イージスを奪われ、中国資本の排除によって、極東における自分たちのコントロールが効かなくなり始めていることに」

ロキはスマートフォンの画面を開いた。そこには、クラウドの深海で静かに息を潜める『ヤタガラス』のステータスが緑色で点灯している。

「アジトは失ったが、これでアメリカの尻尾は完全に掴んだ。……ミコ、次は防戦じゃない。こちらから攻め込む」

「どこへ?」

「在日米軍の心臓部、横田基地だ」

ロキの言葉に、ミコの目が微かに見開かれた。

横田基地。そこは東京都内にありながら、日本の法律が一切及ばない完全な「アメリカの領土」。首都の空域を支配し、日本政府すら手出しできない特権階級の要塞である。

「あそこに眠る、日米地位協定の裏に隠された『密約』の全データを引きずり出す。日本政府がアメリカに首輪をつけられている決定的な証拠を、全世界の白日の下に晒してやるんだ」

「……最高ね。それこそ、本当の『独立』への第一歩だわ」

ミコは力強く頷き、天皇のいる皇居の方向へと静かに一礼をした。

「神域を汚す者たちに、鉄槌を下しましょう」

サイレンの音が近づいてくる中、二人の影は東京の深く暗い路地裏へと溶け込むように消えていった。

アジトを焼かれた天才ハッカーと古流の巫女。彼らの怒りの矛先は、いよいよ日本の真の支配者であるアメリカ軍の要塞へと向けられた。

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