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天才ハッカーによる日本独立物語  作者: ロキ
第2章

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第28話 帝都死守(前編)

翌日。秋晴れの青空が、帝都・東京の上にどこまでも高く広がっていた。

新宿区・国立競技場。

数万人の観衆の熱気と歓声がすり鉢状のスタジアムを揺らしている。本日は、年に一度の大規模な「国民スポーツ大会」の開会式。何より、貴賓席には天皇陛下がご臨席あそばされており、スタジアムの周囲は警視庁の機動隊による厳重な警備が敷かれていた。

しかし、その「厳重な警備」は、平和な国のルールに従う者にしか通用しない。

『……ミコ、状況はどうだ』

スタジアムの巨大な屋根の骨組み。その暗がりに張り付くように身を潜めていたミコのイヤホンに、ロキの張り詰めた声が響いた。

ミコはイベントスタッフのジャンパーを羽織り、その下に防刃仕様のタクティカルスーツと、短く切り詰めた小太刀を隠し持っている。

「配置にはついているわ。観客の熱気がすごくて、少し息苦しいくらいね。……陛下の御身は?」

『VIPルームの中央におられる。ガラスは防弾仕様だが、対戦車ライフルや高火力の爆薬を使われれば持たない。……絶対に、貴賓席の半径五十メートル以内にネズミを近づけるな』

秋葉原の地下要塞で、ロキは帝都中の監視カメラ――スタジアム内だけでなく、周辺の駅、交差点、地下鉄の通路に至るまでの数万台のカメラ――を『ヤタガラス』の顔認証システムと完全にリンクさせていた。

時刻は午前11時45分。

開会式のクライマックス、天皇陛下のお言葉が始まるまで、あと十五分。

『――網にかかったぞ』

ロキのタイピング音が一段と速くなる。

『スタジアムの南ゲート。テレビ局の撮影クルーを装った六人組だ。……全員、昨夜の廃工場にいた狂信者のリストと顔認証が一致した』

「撮影機材の中に武器を隠しているのね」

『ああ。金属探知機は、テレビ局が事前に提出した『機材パス』の偽造データを使ってスルーしたらしい。メディアの特権を悪用するとは、どこまでも腐った連中だ』

ロキのモニターには、巨大な放送用カメラケースを押しながら、関係者専用通路を堂々と歩いていく六人の男たちの姿が映し出されていた。

彼らの視線は異様に鋭く、歩幅や周囲を警戒する動きは、どう見てもテレビマンのそれではなく、訓練された民兵のものだった。

『奴らのルートを計算した。……ミコ、奴らの狙いは貴賓席の真下、三階の空調制御室だ。そこに有毒ガスか爆薬を仕掛け、スタジアム全体をパニックに陥れた上で、陛下を直接狙う気だ』

「させないわ。……私が迎え撃つ」

ミコは鉄骨から音もなく飛び降り、関係者専用のバックヤードへと音もなく滑り込んだ。

『通路のシステムは俺が掌握する。奴らを「袋小路」に誘導するぞ』

ロキが遠隔操作でスタジアムの電子ロックを次々と書き換えていく。

撮影クルーを装った六人の男たちは、VIPエリアへと続くエレベーターに向かっていたが、突如として目の前の防音扉が重い音を立てて閉ざされた。

「なんだ? 扉が閉まったぞ!」

「チッ、カードキーが反応しない! 通信も圏外になっている……!」

焦燥する男たちの頭上で、通路の照明がパァンッと音を立てて弾け飛び、窓のない地下通路は完全な暗闇に包まれた。

「落ち着け! 計画がバレたのかもしれない。……武器を出せ!」

リーダー格の男が指示を飛ばす。

彼らが急いで放送用カメラケースのロックを外し、中に隠されていたロシア製のサブマシンガンを取り出そうとした、その刹那。

「――この先は、立ち入り禁止よ」

暗闇の奥から、氷のように冷たい声が響いた。

男たちが慌ててタクティカルライトを向けると、そこには小太刀を青眼に構えた、黒髪の少女の姿があった。

「お前は、昨夜の……!」

男の一人がミコの顔に気づき、反射的に銃口を向けようとする。

だが、暗闇は彼女の絶対的な領域だった。

引き金が引かれるより早く、ミコの影が床を這うように疾走する。

「風刃!」

鋭い呼気と共に、ミコの小太刀が閃いた。

狙うのは命ではない。男が握る短機関銃の銃身と手首の隙間。

ガキンッ! という金属音と共に、銃が男の手から弾き飛ばされる。ミコはそのままの勢いで男の懐に潜り込み、柄頭で顎を強烈に打ち上げた。

「一人」

男が白目を剥いて崩れ落ちるのと同時に、背後の五人が一斉にミコへ襲いかかる。

「殺せ! 異教徒の魔女を殺せ!」

狭い通路での近接戦闘。

本来なら数が有利に働くはずだが、男たちの持つ自動小銃は、この極小空間では射線が被り、同士討ちの危険があるため無闇に発砲できない。

ミコはその死角を完璧に読み切り、彼らの間を水のようにすり抜けていく。

二番手の男の肘関節を極めて骨折させ、三番手の男の側頭部に強烈な回し蹴りを叩き込む。

「ロキ! この六人だけじゃないわね!?」

ミコが敵の刃を躱しながら叫ぶ。

『ああ! 同時にターミナル駅で三つのグループが動き出している! だが安心しろ、そっちはすでに手を打ってある!』

ロキの言葉通り、スタジアムの外――新宿駅や東京駅の地下道では、爆発物を仕掛けようとしていたメギドの工作員たちのスマートフォンが突如として発火し、パニックに陥っているところを、ロキの匿名通報によって急行した公安警察に取り押さえられていた。

「なら、私はここの掃除に専念するだけね!」

ミコが四人目の男の腹部に膝蹴りを叩き込んだ、その時。

「動くなァァァッ!!」

リーダー格の男が、ついに短機関銃のフルオート射撃を引き絞った。

狭いコンクリートの通路に、銃声とマズルフラッシュの閃光が炸裂する。

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