赤蠅無土
「それとさ、昨日からずっと考えてたんだけど、もう少し女の子らしい話し方をしたらいいと思うんだよね」
「な、何を言っている――!?」
不意に今まで感じたことのない気恥ずかしさが芽生えるのを覚えた。
「ほら、それだよ、それ! 『何を言っているの?』みたいにもっと女性らしさを感じさせる言い方に直したほうがいいと思うんだ。顔だってとても可愛いのに――」
「お前、わたしを愚弄する気か!」
自然と滅殺牙を握る手を若い幻妖師に向かって振り上げた。
「わ、悪かった! だから、その手を下ろしてくれないか? ね?」
背を反らせて怯える壮覇を目にして、我に返る。
「次にまた言ったら、仲間の件は解消だ! 分かったな!」
「分かったって。もう言わないよ」
それでも、滅殺牙を構えたままの状態が少し続いた。その後で元に戻す。
(女性らしさだと? わたしにそんなものは必要ない!)
少しの間、重苦しい沈黙の間が続いた。
「あのさ、そろそろ喋ってもいいかな?」
壮覇が耐え切れずに口を開いた。
「なんだ?」
硬化した態度のまま凛音は応えた。
「君に話すって約束しただろ? 赤蠅無土について――」
そういう約束をすっかり忘れていた。
この世界を一変させた張本人について知っていると言っていた。その人となりを知っておくのも悪くないかもしれない。
「ああ、そうだったな。聞かせてくれ」
「僕は白竜山に居を構える稀代の幻妖師としても貫に出た庵谷震鳴という師匠の元で修行していたんだ。無土はそのときの僕の兄弟子だった。あの人は凄かった。いや、凄すぎて怖いほどだった。でもね、あの人は絶対にやってはいけないことに手を出してしまったんだよ」
「やってはいけないこと?」
能天気な男の声が初めて憎しみに満ち溢れていた。凛音は興味をそそられ、訊き返した。
「ああ、あの男は禁忌の咒法を盗み見て、一夜にして全てを習得してしまったんだ!」
禁忌の咒法とはどういったものかは分からない。だが、相当危険なのだということは容易に想像できた。
「それで?」
凛音は先を促した。
「そのことを知った震鳴先生は大いに激怒されてね。何しろ弟子の中でも一番可愛がっていたから。でも、あの男は用を終えたと言わんばかりに山を下りようとした。そこで、震鳴先生と咒法対決になったんだ。結果は――」
「無土が勝ったんだろ?」
「ああ、ご名答だよ。ただ、あの男は震鳴先生の命までは奪わなかったんだ。今や鬼道による咒法であの男に勝てる者はいないと思う」
「……そうか……」
壮覇の最後の言葉には語気に激しい悲痛さを感じた。
自分では無土に勝てない。その悔しくて堪らない思いがヒシヒシと伝わってきた。




