新たな世界
近衛兵に周囲を警護されながら、神帝の住まいし宮殿――聖光殿に向かう箱馬車には輝炎と無土が乗っていた。
箱馬車が通過するまでは民衆は土下座し、頭を下げ続けなければならなかった。これに違反した者はその親子三世代に至るまで斬首に処せられた。
酒池肉林を好み、民の苦悩を顧みない輝炎はまさに暴君と言えた。その人間性を十分に承知した上で無土は意思ある神器――万物の王の証を操り、次の神帝に選んだのだ。
今や神国東瀛の命運はこの呪い師の手に委ねられていた。
だが、この大陸の滅亡を目論んでいるのかと思えば、皇都大蓮だけは万物の王の証の特殊な結界で覆わせていた。
無土の真の思惑は誰にも分からずじまいだった。それ故に、神帝も畏怖の念から重用しないわけにはいかなかった。
ただ、輝炎は凡愚の神帝だ。好き勝手し放題でも何一つ咎めないのだから、次第に恐怖心も薄れていった。
「なぁ、無土よ。一つ訊いてもいいか?」
「もちろんです、陛下。何なりとお申しください」
自分は臣下の一人に過ぎないとでも言うように先を促した。
「う、うむ。お前の本当の望みを教えてはくれぬか?」
神帝は腫れ物に触るような思いで問いかけた。ここに来て、二人の立場は逆転しているかのようだ。
「私の望みですか?」
少しの沈黙が訪れた。
輝炎はゴクンと生唾を飲み込む。すぐに答えないことで、この重苦しい空気を少し楽しんでいるようにも思えた。
「私の望みは新たなる世界の樹立であります。もちろん、そのときもこの大陸を支配するのは神帝、あなた様でございます」
「そ、そうか。新たなる世界か。それは今までよりも面白い世界なのか?」
「はい。きっと神帝もお喜びになることでしょう」
新たなる世界がどんなものかは凡愚の神帝には想像すらできなかった。とうに思考の限界を超えていた。
「う、うむ。朕も楽しみだ!」
輝炎はそれだけ言うのが精一杯だった。複雑に歪むその半笑いの顔を見つめながら、無土は心底ほくそ笑んでいた。




