密談
「無土よ、次の議題は何じゃ?」
自分の命が奪われかねない危機に直面している神帝は焦燥感が拭えない。とは言え、臣下の者たちの前である。気持ちを落ち着けながら、傍に立つ呪い師の衣服を着た幻妖師に訊いた。
「輝炎様、本日は他に議題がありません。さぁ、宮殿に戻りましょう」
既に神国東瀛は巨大災害、疫病、狂禍獣のせいで国家として立ち行かなくなっていた。
皇都が平穏を維持してられるのは、意思ある神器――万物の王の証によって作られた特殊な結界に守られているおかげだ。そのことを熟知しているのは執政を担う重鎮のみだった。
「そうか。もう終わりか。では、戻るとするか」
それだけ言うと輝炎は立ち上がった。
「今日の評議はこれまでとする!」
神帝の言葉に臣下一同が頭を下げた。
神帝と無土が永世院を後にすると、他の臣下の者たちも去っていく。
残ったのは四天王の三人だった。
「神帝に置かれてはあの怪しげな呪い師の手の上で踊らされていることに気付いておらぬようだな。そうは思わぬか? 夙夜殿」
まず口を開いたのは、閏間羅刃だ。
鬼岩ほど血の気は荒くはないが、知よりも武を重んじる猛将だ。言葉尻から現状が面白くないのは容易に感じ取れた。
「確かに、無土は我が神国を未曽有の危機に晒した下賤の輩ではある。だが、あの男の真の野望は何なのかが掴めぬ限り、今はやりたいように泳がしておくのがよいと俺は思っている」
自分たち三人がどれだけ有能だろうと、この国は救うのは困難を極めた。屍酔は暗にそれを示唆した。
「わたくしも夙夜様のお考えを支持致しますわ。これから我々がどう動くべきか、じっくりと見定める必要がありますもの」
妖艶な容姿の王生彩愛は甘美な声で賛同した。
「まぁ、一理ある話ではあるな。それにしても、鬼岩め、褒美欲しさに独断専行とはほとほと見下げ果てた奴よ! あの男は四天王の恥さらし者だ!」
羅刃は愛想も尽き果てたように言葉を吐き捨てた。
「良いじゃありませんの。手に余るお荷物にはさっさと消えてもらったほうが好都合ってものですわ。それよりも、我々が注視すべきはあの呪い師の動向ではなくって?」
彩愛の言葉には恐ろしいほどの冷酷さが入り混じっていた。
「その通りだ。今からでも我らの力でこの国を救えるのかどうか、はっきりと見定める必要があるからな」
屍酔は少し遠くを見つめながら呟いた。
四天王に選ばれながら、今の神帝に対する忠誠心はほとんどなかった。事と次第によっては天狼の化身と話をする必要性も出てくるだろう。
朽ち果てていく神国を存続させるために出来得る手段は全てやり抜く覚悟だった。




